2006年10月号
連載3  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
コメの新しい食べ方を世界に提案 -小麦粉アレルギーに福音-
東野 真由美氏(株式会社パウダーテクノコーポレーション)に聞く
米の消費量減少の回復・小麦粉アレルギーの人でも食べられる、といった両者を満たす米で作るパンとは?その産学連携を語る。

きっかけは誰も研究を引き受けてくれなかったこと
写真1

写真1
     代表取締役専務
     東野 真由美氏

株式会社パウダーテクノコーポレーション*1は、山形大学発の第1号ベンチャーだ。

創設者である東野真由美さん(写真1)は家庭の主婦からこの世界に飛び込んでしまった。東野さんは、もともとアルバイトで山形大学工学部の小山教授の秘書をしていた。

山形はおいしい米が生産されることでも有名だ。しかし、国民の米の消費量は年々減少し40年前の約半分になっているという。地元の人たちから消費拡大を見込んだ新しい米の利用方法として「米粉によるパン作り」が持ち上がった。かくして「米からパンを作るための粉作り」という研究依頼が飛び込んできた。このとき、研究を引き受ける学生がいなくて彼女にお鉢が回ってきた。東野さんは急きょ「にわか研究生」としてこの課題に取り組むことになった。結果的には、工学部的な研究に、主婦の感覚を取り入れることが成功に結び付いたとも言えるだろう。

写真2

写真2 米粉には「グルテン」がないため、膨らまない



写真3

写真3 「ラブライス」商品

米粉は「グルテン」を含まないため「グルテン」が機能するパンの膨らみが作れない(写真2)。そこで、研究生としてさまざまな工学部的な試行錯誤を繰り返した。結果として、山形大学工学部のプラスチック発泡技術を米パンの膨らみに応用した。従って、無添加にて小麦グルテンを使わないパンができあがった。家に持ち帰ってはパンを試作するという毎日が続き、9カ月後には米粉によるパン作りに成功した。「ラブライス」と命名された商品は、パンとは違う、米のもちもち感をもった新しい食味だという(写真3)。

ラブライスの食パンから始まった商品は、いまやホットケーキ、カップケーキやパスタへと広がっている。

食物アレルギーに福音…新しい食味の開発を

最近は食品によるアレルギーが問題となっている。代表的なものとしては卵・牛乳・そばなどが挙げられるが、欧米では小麦粉によるアレルギーが人口の5パーセントを占めていると言われている。この技術によりその人たちにもおいしいパンやホットケーキを食べてもらうことができるようになった。最近は新しいニーズに応えるべく、オーストラリアから欧州へと活動の場を広げている。

米粉から始まった製品開発は、健康成分が豊富な大豆へと展開している。工学部的に始まった粉作りは、今後さまざまな食品の粉作りに発展していく可能性を秘めている。今後思いもよらない食材が東野さんの手によって登場してくるかもしれない。

とんとん拍子に進めてきた事業だが、東野さんにも悩みがある。それは原料費が高いことだ。「アレルギー症を持つ方にも安心して食べていただける米粉によるパン作りをしているので、米の選択が必要です。つまり、農薬を使わないで栽培している米、米の生産トレーサビリティが明白な米にこだわるため、原料費が高くつくのです」。従って安い小麦粉との価格差をどのように縮めていくかが大きな課題のようだ。

筆者の感想

大学発ベンチャーとしては成功した東野さんだが、事業家としてはもう少し。ベンチャー企業として手作りの経営を行うなど、身の丈にあった事業展開をしてきた。しかし、企業は商品を売ることで消費者の幸福に貢献しなければならない。その貢献度が高ければ高いほど、他社との差別化が大きければ大きいほど売り上げが増え、利益となってはね返ってくる。そういう意味で、価格競争に負けない広く普及する商品開発が期待される。例えば、大豆の粉など農作物の粉類を使った新しい食品開発などである。東野さんのモットーは「夢を描けば必ずかなう」というもの。「日ごろから『こうしたい』『ああしたい』という希望をいつも心の中に持っていれば流れ星が消えるまでにその願いを言うことができるが、その気持ちを持っていなければ流れ星が見えたときに願いを込めることができない」という。この思いがある限り事業家として成功するのはもうすぐだ!

●取材・構成: 平尾 敏
(野村證券株式会社 公共・公益法人サポート部 課長/本誌編集委員)

*1株式会社パウダーテクノコーポレーション
http://www.vbl-ptc.co.jp/