2006年10月号
連載4  - ヒューマンネットワークのつくり方
地域連携ネットワークの輪の中で -顔の見える産学官連携活動-

野呂 治 Profile
(のろ・おさむ)

弘前大学 地域共同研究センター
産学官連携コーディネーター/
文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業
産学官連携コーディネーター

産学連携を進める上で、情報の受発信を行ない、大学の認知度を上げるため、地域内に接点としての複数の拠点をサテライト形式で置いた。筆者の青森県内での経験とそれらの成果を述べる。

はじめに

筆者は長年専門商社の営業部門で大学・試験研究機関の研究者および民間企業等へ、研究開発支援ツール(科学計測機器、試薬等)の販売・営業企画・商品開発を担当してきた。また、平成7年からは、弘前大学との共同研究を開始し、平成10年、11年には当時の青森テクノポリス開発機構(現:財団法人21あおもり産業総合支援センター)から科学技術振興事業団(現:独立行政法人科学技術振興機構)の地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)の採択により県の試験研究機関とも共同研究を行い、産の立場で産学官連携にも携わってきた。

平成14年1月に現職を拝命する半年前に、弘前大学地域共同研究センターで刊行した「CJRニュース」のインタビュー記事の中で、筆者は企業からみた共同研究に関し、企業が求める成果を得るには複数の技術が必要とされる。また個々の研究者には専門の分野があり、1研究室だけでは厳しい場合が多い。その対応として、学内研究者同士のつながり、ネットワークづくり、すなわち、大学内での学部を越えた研究者同士の情報交換等を活発化し、基礎研究から応用研究、商品化まで一貫して成果の出せる産学連携の組織ができてほしいと強く感じている、ということを話した。当時は、まさか自分が産学官連携コーディネーターとして産学連携のマッチングを行うことになるとは思ってもいなかったが、現職で課せられた務めは、そのことを実践することである。

地域の企業の多くは、大学は敷居が高い面があり、なかなか連携がしにくいと思っている。

これらを少しでも解消するために、民間企業での今までの営業職経験を活かし、学内外を問わず企業へ、研究室へと積極的に出向き、顔の見える産学官連携活動に努めている。顔が見えるということは、声が掛けやすいということで、産学官連携活動の基本と考えている。

弘前大学サテライトネットワーク

「連携」には、情報の受発信が必要である。産学官連携はこれに加え、大学を近くに感じてもらうことも重要であると認識し、地域の接点としての拠点づくりを進め、サテライトネットワークを構築してきた。

まずは八戸地域での認知度のアップのために、平成14年6月に八戸サテライトを設置した。弘前大学は同じ青森県内でありながら、産業の集積地である八戸地域の企業・自治体にとって距離的にも時間的にも遠い存在でなじみが薄かった。産学官連携コーディネーターの配置が決まり、連携活動の幅が広がったこともあって、地域共同研究センターが中心となり、地域の大学、支援機関等である八戸工業高等専門学校、八戸インテリジェントプラザとの連携から始めた。まず週1日は、産学官連携コーディネーターが出向きシーズ提案会、セミナー・会合等に積極的に参加し、顔の見える活動に努めた。開設まもなくの八戸高専とのシーズ提案会後の交流会の席で、株式会社興和からマッチング要請を受け、人文学部地理情報研究室の後藤助教授との共同研究を開始した。1年半後の平成16年4月には「GIS活用地籍調査システム」の商品化という共同研究成果が生まれた。

図1

図1 地域連携サテライトネットワーク

また「近隣で産学連携の相手企業が見あたらない」との研究者の声で首都圏の拠点を検討し、平成16年4月、青森県との連携で、青森県ビジネスプラザ内(東京都中央区八重洲)に弘前大学東京事務所を、コラボ産学官プラザ in Tokyo(東京都江戸川区船堀)に分室をそれぞれ開設した(図1)。平成17年7月にコラボ産学官青森支部が設立され、平成17年11月にはオリジン生化学研究所と教育学部食物学研究室との共同研究成果が商品化されるなど、青森にも産学官金連携に弾みの輪が広がった。身近な活動拠点で顔の見える連携活動の成果だと考えている。

弘前大学プロテオグリカンネットワークス*1

プロテオグリカンとは、コラーゲンやヒアルロン酸と肩を並べる軟骨の成分で、優れた保水力を持つ物質である。この物質が今、医薬品や化粧品、人工臓器などに用いられる新素材として注目されている。これまで主に牛の気管軟骨から微量しか抽出されず、非常に高価なため応用研究ができなかったが、このプロテオグリカンの大量精製技術を、高垣啓一医学部教授率いる研究プロジェクトが開発した。

高垣教授は、サケの鼻軟骨からプロテオグリカンを抽出することを思い付いたが、簡単な方法がなかなか見つからなかった。だが、気晴らしの居酒屋で何げなく注文した酒のさかな、「氷頭なます」から重要なヒントを得る。実はこの「氷頭なます」こそが、精製の手本だった。つまり軟骨を酢に浸すことで簡単に抽出することができる。牛などの哺乳類ではなく魚類から抽出する発想は、サケの産地ならではのもの。地域の食文化が、世界初の精製技術の開発、低コスト化へとつながった。

図2

図2 プロテオグリカン研究拠点の構築

この成果で平成14年11月に医学部、理工学部、農学生命科学部、教育学部等に在籍する研究者で構成する学内初の全学横断的な研究プロジェクト組織「弘前大学プロテオグリカンネットワークス」を立ち上げ、プロテオグリカンに特化した応用化・実用化の研究を開始した。平成16年4月には「プロテオグリカン応用研究プロジェクト」が文部科学省「都市エリア産学官連携促進事業(連携基盤整備型 平成16年~18年度)」に採択され、現在、実用化に向けた取り組みが行われている(図2)。

高垣教授は「大学から地域へ」、「弘前地域が、プロテオグリカンを活用した新産業の発信地となることを望んでいる」と述べている。

地域の資源、文化から生み出されてきたものを、青森ブランド、Japanブランドとして確立するためには、地道に発信していく必要がある。ブランドとして確立するには選択と集中そして継続である。

お酒飲みネットワーク

筆者には十数年来通っているおいしくお酒を飲ませてくれる居酒屋がある。弘前Pホテル向かいの居酒屋「D」である。地元の蔵元「三浦酒造」で一般市販されていないお酒をご主人が試飲し、気に入ったものを居酒屋「D」特別酒として提供している。県内外の観光客、仕事の出張で来ている客、地元の常連客、とリピーターの多い店である。

長いお付き合いの中で、ご主人が出会い、お付き合いをしている多くの人との輪の中に入れてもらいながら、[1]数多くの全国の銘酒、幻の銘酒を手に入れての利き比べ、[2]1つの日本酒を絞りたてから熟成していく過程(ほぼ1年間)の利き比べ、[3]同じ蔵元でつくられた日本酒の酒米による違いを利き比べ、[4]同じ酒米でつくられた日本酒の蔵元による違いを利き比べ、の4通りのお酒の味わい方を教えてもらい今日に至っている。通い始めたころ、ご主人に「自分の口に合うのがおいしいお酒」と言われた。その通りである。常連客としてお酒についての知識を教えてもらい、かつ多くの人との出会いの場を与えてもらえた。昨年のイノベーション・ジャパンの展示ブースで、プロテオグリカンの共同研究の成果を紹介しているPRビデオが流れた。NHKが取材をしてニュース番組で流れたものである。高垣教授と一緒に居酒屋「D」のご主人の顔も写っている。

写真1

写真1 漫画家 高瀬 斉氏に描いていただいた
     筆者の似顔絵

平成11年に第3回全国「亀の尾サミット」(開催地:宮城県古川市)に参加する機会を得た。「亀の尾」は、テレビドラマにもなった人気漫画「夏子の酒」の幻の酒米のモデルとなったお米で、山形県余目町が発祥の地である。このサミットは、この地域固有の資源に着目し「亀の尾」をシンボリックに据えながら米・酒・地域を柱とした地域再発見活動で、1997年に余目町でスタートした。内容は、[1]大学等研究者の講演、[2]米の作り手、酒造りの蔵人、そして飲み手のディスカッション、[3]全国の蔵元の「亀の尾」で造ったお酒を利き比べながらの交流会、である。日本酒を水と米の文化の結晶としてとらえ、米の作り手、酒造りの蔵人、そして飲み手がそれぞれの思いを語り合いながら明日の地域づくりと夢づくりを行うイベントとして、年1回全国各地で開催し今年で10回目(宮城県仙台市)となる。私は、第7回(青森県弘前市)、第8回(秋田県大潟村)、第9回(大阪府大阪市)にも参加し、多くの人との出会いの機会を得ている。私の自己紹介に使っている似顔絵(写真1)を描いてもらった漫画家の高瀬斉さんもその1人である。

おわりに:産学官民連携の推進

筆者は、産学官連携コーディネーターネットワークに加え、インキュベーションマネージャー、産学官連携活動で得た学内外のネットワーク、そしてお酒飲みのネットワークを構築してきた。

写真2

写真2 日本酒「弘前大学」

弘前大学のように地方都市に位置する大学は、地域の活性化に貢献し、少子高齢化に向けた大学の生き残りを意識し、地域を基盤とした地域貢献型の産学官民連携を推進することが極めて重要であると考える。産学官民連携を推進するに当たっては、地域社会との連携が取りやすい仕組みづくりが必要で「亀の尾サミット」のように地域の資源、文化に根ざしたものを柱とした地域再発見の活動は大いに参考になる。地域との連携の事例の1つに、ラベルに校章を入れた日本酒「弘前大学」の販売がある。弘前大学農学生命科学部金木農場産の「豊盃米」を100%使用して平成15年、弘前市の蔵元・三浦酒造店の協力を得て醸造した純米吟醸である。平成16年3月から弘前大学生協の売店で販売されている(写真2)。筆者は、学外に産学連携事例として弘前大学を売り込むのに活用している。

人との出会い、人とのつながりとは不思議なものである、そして世間は狭い。夕刻に裃(かみしも)を脱いで酒を酌み交わし、人との出会い、人とのつながりの潤滑剤としてお酒を活用することで、地域社会での産学官民連携活動の輪を広げていきたい。




この原稿を執筆中に、前述のプロテオグリカン研究者の高垣啓一教授が8月16日急逝されました。

高垣啓一教授に先生の研究成果を世に還元することを誓うとともに、心よりご冥福をお祈りいたします(合掌)。

*1詳細は弘前大学広報誌「ひろだい」Vol.4を参照
http://www.hirosaki-u.ac.jp/daigakuannai/hirodai/hirodaivol04.pdf