2006年11月号
連載5  - ヒューマンネットワークのつくり方
チームワークこそ産学連携成功の鍵
顔写真

野田 耕右 Profile
(のだ・こうすけ)

熊本大学 知的財産創生推進本部
産学官連携コーディネーター/文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業 産学官連携
コーディネーター

産学官連携活動を行うチーム内のチームワークこそ、その中の個人の能力を超えた取り組みを可能にする。さらに、地域振興を超えた世界レベルへと産学連携を展開する上で求められるものとは?

はじめに

本稿のテーマは「ヒューマンネットワークのつくり方」ということであるが、実のところ、まだまだ他の誰かにこのようなことを教示できる程度ではないし、試行錯誤している最中である。従って、「つくり方」というよりは、現在までの経験を通した、筆者の意見ということで了解願いたい。

筆者の場合、産学官連携コーディネーターとしては、かなり若い部類であろうと思う。とはいえ、この職に就くまでには大学を出てから20年の間に、どうしたことか5年周期くらいの短期間のうちにさまざまな事柄が起き、立ち上げに関与した企業や協同組合等、複数の企業を兼務していたことと現在の職業を合わせると、4つの業界で7つの企業等を経験している。それでも、先輩コーディネータの方々と比較すると、やはり、(今のところ)未熟さを感じざるを得ない。本来ならばもっと成長していても不思議ではないと思うのであるが、これは、過去にすがらないという私の主義もあるが、一方で非常に忘れっぽいという裏腹の関係が一因しているのではないかとも考えている次第である。

産学官連携活動の学内チームワークについて

さて、産学官連携活動について考えてみると、活動のインフラとして大学の産学官連携活動を行うチーム内メンバーのスムーズな関係が絶対条件であろうと思う。もちろん、「なあなあ」の関係でないことは当然であろう。産学官連携活動にはさまざまな種類があり、その活動を行う担当者の考え方、立場や経験もそれぞれであるが、多くの創造的な意見交換や情報の共有、共同作業や実務を通じて、この違いを超えて、1つのチームとして効果的に動くことができる、ということが産学官連携を有効に進める大前提ではなかろうか。個人の能力の向上や質も大事であるが、より大きく、より有効に産学官連携活動を行うために、チーム全体のポテンシャルとパフォーマンスの向上をまずは目指したい。

ところで、私が熊本大学に文部科学省の産学官連携コーディネーターとして配置された時には、同じコーディネーターがその1年ほど前に一人配置されており、産学官連携に対する意見交換などは日常的に行われており、既に関係する専任教員、事務方との間に信頼関係が構築されていたようであった。その後、自分自身の配置から1年も経たないうちに、大学に知的財産創生推進本部が設置され、それに伴い産学官連携や知的財産活動のための事務職員や知財推進員と呼ばれる有期雇用職員が増員されるなど、後方支援体制も徐々に充実しはじめた。筆者自身の配置当初に比べると、兼務も含めて人員で3倍程度の組織に成長した。一般に、組織が大きくなる分、互いの意思疎通や情報共有化が薄弱になりがちであるが、以前から行われていた打ち合わせ会を拡大して、地域共同研究センター長、専任教官、コーディネータやマネージャー、事務職員(課長、副課長、係員、時として部長も参加)で毎週1回会議を開催することで、情報の共有化に関してはかなりの部分で成功していると考えている。しかし、もっと重要なことは、会議などの集まり以外の日常的な活動において、簡単な情報交換から大きなプロジェクトの企画や構築支援に至るまで、時期に即して、専任教員やコーディネータ等のみならず事務職員も含めて、さらに多くの意見と情報の交換や事案に対する検討等のコミュニケーションがはかられ、関係者相互の連携と信頼関係が緊密であるということである。また、企画や契約、新たな取り決めなどの検討においても、コーディネータの企業人的経験と思考が、新たな状況を作り出すことも多く、学内にいる学外専門家だからこそ可能だったのであろう。

このようにした信頼関係の構築により、チームワークの取れた産学官連携活動が可能になっており、個人の能力を超えたさまざまな取り組みを可能にしている。結局のところ、「産学官連携はまず担当者間の連携から」ということであろうか。産学官連携に関してヒューマンネットワークを考えるならば、最初に押さえておかなければならないものであろう。

地域における産学官連携について思うこと

大学の産学官連携活動では、当然、地域貢献や地域産業の振興なども期待されている部分である。しかしながら、産学官連携活動は研究成果の消費活動として行うべきではなく、新しい知や価値の創造を行えるような生産的活動の一環でありたいと思う。

多くの研究者は、自らのテーマである研究、教育に加えて、なぜか増え続ける雑務(雑務ではあるが、やらないと支障が出るのでたちが悪い)で手いっぱいのことが多い。人によっては、研究の時間すら十分に取れないと聞くこともある。産学官連携活動では、研究者の出番も多く、共同研究や受託研究になった場合は、これを遂行するためにさらに多くの時間を費やすことになる。世の中には不平等なことも多くあるが、時間は皆平等に1日24時間で、1年は大抵365日である。産学官連携に積極的だからといって、持ち時間が増えるわけではない。このような状況ではお金はもちろん重要であるが、時間は非常に貴重なものであると思う。産学官連携活動の成果は、大学内外への直接的な経済効果がよく気にされているが、この貴重な時間を費やして行われる産学官連携活動の影響は、研究者へ刺激を与え研究ポテンシャルの向上にも役立つか、ということも考えた方がよいと思う。よく言われるWin-Winの関係は大学内外の経済効果や、即時的な地域への好影響の他に、企業技術と大学の研究ポテンシャルの向上にも当てはめて考えるべきであろう。

地方においては、知の生産・集積拠点は大学が担っていることが多く、大学の知のポテンシャルが下がれば、地域の知のポテンシャルも下がる可能性が大きい。

自由化や国際化が進む中では、多くの分野で国境が無くなり国際レベルの競争が始まっている。地域といえども、この状況の変化は無視できるものではない。国際レベルの競争ということは、世界標準であって初めて競争の参加資格を持つということである。このように考えると、地域振興や地域イノベーションのための産学官連携であっても、世界標準以上を目標とすべきであって、そのためにも大学の研究ポテンシャルが向上できるような産学官連携でなければならない。このような産学官連携活動は、誰かが単独でなせることは少なく、上を見れば見るほどより多くの知恵と人が必要になろう。やはり、ネットワークが必要なゆえんである。

最後に

わが国の産学官連携はまだまだ始まったばかりである。地域イノベーションにおけるコーディネータの役割としては、産学官連携強化のために産学官各界のネットワークの結節点として、大学の「知」を活用した取り組みに寄与することであろう。また、知の源泉たる大学自身のイノベーションも必要となってきている。そのためには、これまでの大学にはない経験と知識と知恵、想像力そしてネットワークが必要である。そしてコーディネータはこれらを大学にもたらすことによって、大学自身のイノベーションを促進する役割も併せ持つと考えられる。

最後に、産学官連携活動が国力と国際競争力の向上を目指して展開されるのであれば、人材の確保と活動に必要な自由度の確保が最重要課題である。残念ながら優秀な人材ほど入手困難であるし、働き盛りの年代であればさらに貴重である。そこで、ぜひとも高度な熟練者と企業経験のある若手をペアで職務に充てることをお勧めする。産学官連携に関する人材育成、ネットワークや産学官連携に関する知の継承・蓄積とさらなる創造のためである。活動の自由度については産学官連携業務が定型業務であることはなく、常に相手との対応が求められるためである。