2006年11月号
海外トレンド
台湾産学連携の現状と将来
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羅 華美 Profile
(Lo,Hua-Mei)

台湾 財団法人工業技術研究院
産業学院 研究員


産学連携における台湾の現在の制度を述べる。現状からの産学連携効果への期待は少ないながらも、2005年から2006年の政策の効果が今後期待される。

産学連携のきっかけ

経済協力開発機構(OECD)**1の研究によると、今日特有の市場要因(グローバル化、新たな社会ニーズ様式による)で、産業上の技術整合と科学発展が強まり、それらと関連ある商品ないしサービスが知識集約的になってきている。近年、大学、公私立研究機関、産業界の3者を含めたナショナルイノベーションシステムの運営の中で、大学は教育、研究の役割から徐々に変化している。Etzkowitz(1998)**2は、現在大学は2回目の革命の中にあると指摘する。1回目の革命では、大学の仕事は本来教育第一であったが、研究も大学のもう1つの重要な仕事になった。さらに昨今、大学は国の経済発展に協力するという新たな役目が出てきた。つまり大学は産業界との連携や、その他何らかの方法(例えば大学発の起業)で、知識資本化(capitalization of knowledge)の役目を頻繁に務めるようになった。それに応じて大学と産業界との間の知識交流は大学から業界へという一方的、直線的(linear)ではなく、双方向になった 。

まとめるなら、ナショナルイノベーションシステムの中で、大学の役割はその本質から変化しており、今や大学は産学連携の主体になったのである。それらの変化を3つに分け説明する。

(1)大学は技術人材を育成する場所である

大学に与えられた産業革新の「第3任務」は産学連携の知識交流を強調し、大学の優れた研究環境と人材を活用し、世界最新情報と技術を吸収し、大学を産業の後ろ盾にさせることであるとEtzkowitzは言う。

(2)大学は産業技術革新と研究開発の要所である

情報技術革新の進展により、産業形態は工業時代から情報時代へ移った。情報伝達コストが速やかに下がり、知識共有化、研究開発過程自動化のメリットをもてるようになった。内部にあって新技術開発には斬新な知識を入れて積極的に研究開発能力を高めるほかに、外部からは、常に新知識を導入する必要がある。大学は豊かな革新技術の源とシンクタンクである(李仁芳, 2001) **3

(3)大学は技術伝達者の役割を果たす

過去10~20年の間、大学と産業の間に大きな変化が見られた。その主な原因とは[1]世界経済は知識ベースの体系を設立し、しかも情報と通信技術の発展で知識の流通がより便利で、早くなった。これらの技術を応用して、産業の生産力はパワーアップし、同時に、新興企業が途切れることなく生じている。[2]情報と通信技術発展は、経済のグローバル化を速めた。外部からの市場参入のバリアは低くなったため、競争がより激しくなる。従って、新商品は市場で淘汰(とうた)されるスピードがより速くなる。企業は次から次へ新商品を出すために、新商品か新技術開発の知識を入手し、応用する方法を常に獲得しなければならない。大学こそその方法を提供できる。[3]予算の制約(政府側と企業側での)も企業と大学をより密接にさせる重要要素である。欧米等先進国家のR&D経費の国内総生産(GDP)に占める比率が1995年は平均でわずか2.2%で、1980年代平均の2.4%より低かった。その理由は1980年代は冷戦が終わり、国防関連のR&D予算が大幅に削減されたにもかかわらず、政府予算を例年より低くできなかったためである。一方、政府側のR&D予算削減は大学へのR&D支援に影響しなかった。各国政府はより慎重に経費を使う中で、大学と各公立研究機関を対象とした研究開発補助金を明らかに上昇させた。なぜか、それは政府としても大学の研究開発能力を十分に生かし、産業技術レベルを高めたいからだったのである。

現在の台湾における産学連携の現状と問題点
図1

図1 台湾産学連携の主な項目

(1)産学連携の現況

21世紀の革新経済の技術需要と変化に応じて、台湾では盛んに産学連携を展開している。その主な政策執行機関は行政院国家科学委員会(国科会)、教育部、経済部等である。彼らの政策と仕組みを以下に述べる(図1)。

1.教育部の政策

[1] 6地域産学連携センターを設立する
産学資源の整合、交流の促進を図り、新知識と技術で産学の競争力を高める。
[2] 30の「技術研究開発センター」を設立する
産業技術研究開発の成果を重視して、産学研究開発の能力を高め、高等教育における実務教育と研究成果にフィードバックさせ、学生の想像力を鼓舞すると同時に、応用技術の研究を発展させる。
[3] 技術職業専門学校と工業団地の産学連携を推進する
技術職業専門学校との産学連携の仕組みを作り、企業のニーズに合った研究開発テーマを決め、開発計画を立てる。専門学校は工業団地内の全企業と協力して、産業のモデルチェンジと発展に力を尽くす。
[4] 5年間で500億新台湾ドルを投入する
大学の研究開発の品質を全体的に高め、人的資源を集中させ、設備投資し、研究チームを成立させ、国家重要分野を発展させる。
[5] 産学連携賞で奨励する
台湾産学連携に優れた実績を持つ大学教師、博士学生に賞を授与する。

2.経済部および国科会

[1] 援助
援助対象は経済部中小企業処の「創新育成中心」、経済部技術処の「学界科専計画」、国科会の「大産学」、「小産学」および「技転中心」である。
[2] 奨励
経済部の「優良育成中心経理人」、国科会の「傑出産学連携賞」、「発明専利奨励金」、「技術移転奨励金」、「傑出技術移転貢献賞」および「優良技術移転中心奨助」で奨励する。

(2)産学連携の問題点

現時点で台湾の産学連携に多くの問題がみられる。例えば以下の通りである。

1. 経費
企業からの委託と補助による大学の研究開発経費をみると、産学研究開発革新にそれらが集中している。台湾の産業は中小企業が中心で、GDPとDPIに占める企業全体の研究開発支出(BERD)比率が先進国のそれらに比べ低い。加えて、政府から企業への研究開発経費援助が若干少なく、研究開発への動機づけが弱いため、企業は研究開発経費を十分に確保できない。2003年に政府から補助された研究開発経費額は企業側の企業研究開発経費額のわずか2.1%だった。しかも政府から補助されたこの研究開発経費は政府側が費やした企業研究開発経費のわずか3.7%であった。
それに対して、企業から大学に補助された研究開発経費の比率も2003年のOECD加盟国のそれらの平均値より低く、わずか4.2%であった。2004年は若干成長したが、わずか5.2%であった。政府から補助された大学への研究開発経費は大学全経費の83.4%であった。企業の大学への研究開発投入動機付けの低さと企業全体の研究開発経費不足は、大学への研究開発経費投入額を増加させるのを困難にしている間接要素であるといえよう。
2. 人材
台湾の博士人材は学界に集中している。2004年博士学歴を持つ研究開発人材は7割ほどが大学に、修士学歴を持つ研究開発人材は6割ほどが企業に勤めている。高等人材は高等教育機関に集中しており、大学と教師はともに産学連携への動機付けが弱いため、業界のニーズに合うような大学の研究開発は少なく、したがって両者の人材交流もほとんどみられない。
3. 産出
2004年に米国で特許権を取得した台湾の技術は多い順から企業、個人、研究機関であったが、学界(国科会と大学を含めた)からの特許申請がかなり少なく、100件にも達しなかった。つまり、学界の特許実績は少ない。これは、企業のニーズに応じた、学界の研究開発能力が発揮されていないためであろう。

今後の台湾の産学連携政策とその推進方向

現段階で、台湾では産学連携の効果はあまり見られないが、2005~2006年に各政府機関は次のような政策を組んでいる。

(1)産学間イノべーション連携行動プログラム(教育部)

1. 産学連携に関して優良とされる個人およびチームを奨励する
毎年台湾政府が産学連携に貢献する優良教師・研究者・技術者・経理人個人もしくはチームを奨励する。
2. 産学連携の優良学校を奨励する
各大学自らが研究目標と計画を立て、政府は大学が目標を達成したか否かを評価する。政府は優れた連携結果を挙げた学校を奨励し、教育部は大学の開発経費を一部補助する。
3. 産業と協力し合い、大学に実験室を設ける
産業ニーズに合わせた研究開発の場を作り、産業界から大学に技術を導入し、大学で産業集落を作る。
4. 産学連携の人材交流模範例を提供する
各大学では産学連携の仕組みと方向が違うが、模範例を紹介し、大学にそれらをまねさせる。

(2)大学発ベンチャー企業の起業を支援する(経済部)

大学の研究開発革新能力を高めるなら、それは産業経済発展に効果をもたらす。日本の経済産業省が出した「大学発ベンチャー1000社計画」を見習って、台湾では現行の産学連携政策を改善し、実質的な経済効果が得られるよう力を入れる。例えば、新興企業、就業人数、投資額等を持ち出すほかに、大学発ベンチャー企業育成策を用意し、研究開発成果を商品化するために大学教授や大学の研究生が起業できるよう彼らを支援する。

(3)技術起業への資金支援(経済部)

大学と研究機関は新規事業の起業のための基礎条件を持っているが、市場情報と産業の現状に詳しい専門家と資金援助がない限り研究開発成果を事業化できない。経済部は米国、イギリス、ドイツ、韓国の政策を参考に、創造型新規事業に必要な技術、商品、市場情報、産学連携研究、経営計画等を提供する。経済部は新規事業の技術面での方向付けと市場結合効果を評価し、加えて、投資、融資を獲得するための技術信用保証を提供する。

(4)インキュベーションセンター(育成センター)を技術創業型に発展させる(経済部)

日本の文部科学省の政策である「知的クラスター創成事業」を見習って、台湾では90余りの育成センターを発展させる。将来の目標としては、研究型大学育成センターを技術創業型へとモデルチェンジすることである。産学連携プロセスでは、大学は産業最新技術情報、人脈、資金取得ルートを獲得、産業界は最新技術かアイデアを入手、最先端領域の人材と接触する場を作り、そこで斬新なアイデアと優秀人材を見出し、創新型中小企業を育てる。

●参考文献

**1 :OECD .National Innovation Systems. Paris, 1997.

**2 :Etzkowitz, H;Webster, A ;Gebhardt,C;Terra,B. The norms of entrepreneurial science: cognitive effects of the new university-industry linkages. Research Policy. vol.27, 1998, p.823-833.

**3 :李仁芳(2001).從傑出學術研究到卓越産業創新.科技發展政策報導月刊.2001.09, p.669-680.

**4 :行政院第26次科技顧問会議.討論案2:強化知識創新体系発展之人材資源運用策略.2006.04.