2006年12月号
連載1  - 産業界に聞く産学連携
元 シャープ株式会社 代表取締役副社長 佐々木 正氏に聞く
共創こそ事業化の要
顔写真

佐々木 正 Profile
(ささき・ただし)

元 シャープ株式会社 代表取締役副社長/
佐々木正事務所 代表


聞き手:江原 秀敏 Profile

(本誌編集委員長)

ナノテクノロジーを事業化するに当たり、佐々木氏の持論である共創を元に、島根県でジョイントベンチャーを立ち上げる。日本古来の価値観と欧米型価値観の融合と、互いの信頼によって、新事業が生み出される。

本日は佐々木先生がよく話されています「共創」についてお聞かせください。産学連携にこの概念をどのように当てはめられるかをお話しいただきたく思います。

佐々木    私は今、その共創の節理をまとめ上げようとしています。

科学技術がだんだん細かい方に移り、目に見えるところから見えないほうへ移っていってナノに入っています。これは経営者にとって理解しにくいのではないか、と心配していました。3年か4年前に米国の商務省でも死の谷という論考が出ました。これに対する議論が米国でかなり盛んになりましたが、米国では西海岸の産業や科学技術の考え方は、東海岸のハーバード大学あたりからバージニア州あたりまで、それぞれ異なります。ここで、中間にあるテキサス州でうまくまとめて、米国内で一本化した考え方ができました。ナノについていうならば、共創の思想でやらないとうまくいかないというのが私の持論です。米国の話をしましたが、日本でも島根県で共創のセンターをつくろうとしています。この間、ナノテク2006年の国際会議がダラス*1でありました。そこでは、ナノテクの理解だけで終わりましたので、これから具体的にどう事業化するかの時期にあると私は思っています。そこでダラスと島根県でジョイントベンチャーをつくり、ダラスからも人を呼び体験しよう、共創してみようということになりました。

ナノの産業化は、経営者たちに浸透するまで時間もかかります。日本の科学技術の伝統、歴史と、欧米のそれとは長短の差がありますし、科学技術での価値観の違いもあるでしょう。

佐々木    欧州は、今までは基礎研究偏向で、産業化は遅れがちでした。一方米国は産業応用が優先です。こういった価値観の違うものがうまく新しい理想的な生産をやるには、共創なのです。例えばダラス会議のような同じ場で価値観の異なる者たちが、手をつなげれば、共創の理論の第1条件は出てくると考えました。これは人類発祥のアダムとイブの存在、彼らが互いに共創して、人間世界をつくり出したのと同じです。同じ場所に立って、互いに信頼し合い、情報交換しながらつくり出すことです。両者のちょうど良い位置に共創の認知ができると思います。 その一つが私が関与している米国テキサス州と島根県での共創です。日本がつくり上げた従来の日本古来の価値観と、テキサスの持っている欧米型価値観とでお互いが信頼し合って、一翼の技術情報を交換し合えば新しいものができるのではと考えています。

島根県に共創の場を設定

佐々木先生が主張しておられる“島根の中に共創の世界がある”といった物の見方ができるかどうかが重要であると思います。このあたりをご説明いただけますでしょうか。

佐々木    日本の既存技術は、欧米の技術も圧縮して入っていますが、それらと最近の欧米技術で新しいものをつくった方がいいのではないでしょうか。日本は世界のものを縮めて、うまく日本のものの中に入れ込むのは得意なのです。しかしここいらで日本人自身でじっくり考えて、新しい日本のものをつくるべきじゃないでしょうか。その意味で、島根の中に共創の世界があるという発想が出ると思います。例えば、島根の出雲大社の柱は高くて、大変な長期にわたり持ちこたえてきました。その設計にはすでにリスクマネジメントも考えてありました。それはすでに世界に通じる技術であったと思います。そのように考えられる日本古来の技術は多々あります。

日本の技術をよく見て、共創していったらいいのではと考えます。要はもっとよく考えることでしょう。そして、まず技術において、共創すべき相手の持っているものは何かを考え、中国の技術等を調べたりしています。中国と日本の気風で共創する精神が出てこないかと思っているわけです。

今度、香港を仲介にして中国4千年の健康法と、西洋の方法を主体にした方法と、それから日本の生薬と、三つを入れて、これら三つで共創できないかということでセンターをつくって、人間の生命を丈夫にイキイキと長生きさせることができないかというプロジェクトを考えています。これは長寿のための共創システムです。

つまりは、生きていくためには共創しかないでしょう。独創性のある人材が協力し合うことを前提として、独創プラス共創が全体としての創造性となり、そこから産業の活性化がおき、ひいては新産業が創出されるでしょう。価値観が違っても目標が同一であれば共創はできます。そして、弱い面があればそれを強化するという方向ではなくそれを認める、そして共創するということで謙虚に考えるべきです。日本のベンチャーにしても日本の中だけで育てるということではなく、他国とも一緒になって育てればいいと思います。私の共創の考え方が理解されたのでしょうか、先ほど申しましたように日本の島根で工場を造り、海外からもその事業化に参画するという方向で進めるという、ジョイントベンチャーです。共創し互いに助け合うのです。産学連携も同じで、産と学の共創です。

今日は佐々木先生の哲学である共創について貴重なお話を伺いました。ありがとうございました。

*1
米国テキサス州ダラスで9月27日から2日間の日程で開催されたナノテクノロジーに関する総合イベント
「nanoTX’06」http://www.nanotx.biz/index.php?content=media&newWindow=
nanotx06