2006年12月号
連載3  - 産学連携と法的問題
第12回 知的財産権を活用した資金調達について

榎本 剛士 Profile
(えのもと・たけし)

株式会社みずほ銀行
ビジネスソリューション部
ニュービジネスチーム 参事役

知的財産権信託の第2弾。本稿では、資金調達方法について、そして、コンテンツ制作を事例として、資金調達について語る。

はじめに

前号では「知的財産権信託について」との題号のもと、現状の知的財産権信託の制度概要や活用についての記事が掲載された。本号では、その知的財産権の具体的な事例を紹介するとともに、今後の展望について紹介したい。

知的財産権を活用した資金調達手法の取り組みについて

(1)知的財産権を活用した資金調達の現状について

昨今、知的財産権を活用した資金調達も徐々に期待が高まり、一部の成功事例として紹介された報道記事等も散見される。

ただ実際は、資金の出し手である機関投資家(銀行等)における知的財産権の経済的価値算定が困難なことから、なかなか知的財産権自体を資金調達の本格的なツールとするには、いまだ当面の時間を要するといえよう。

この原因の一つとして、知的財産権流通マーケット(ここでいうマーケットとは当事者間の相対取引等を指しているのではなく、金融取引市場のようなマーケットを想定)のいまだ成熟しきっていないことが挙げられるのではないか。

知的財産権は、その発明者の「権利保護」が重要な要素の一つであり、逆にいえば、その知的財産権の有する経済的な価値を活用して資金調達をすることが極めて少なかったことから、知的財産権自体の経済価値判定を資金の供給者(サプライヤー)である機関投資家等が判断できないことが、現時点における最大の問題点の一つと考えられる。

(2)開発資金調達を目的とした最適なファイナンスについて

前号でも掲載されているように、知的財産権自体の信託を実施することによって、企業倒産リスクのヘッジや管理・運用面でのメリットが大きいといえ、また信託業法の改正後はこの信託を活用する事例が増加傾向にある。

一方で、実際に開発者がその知的財産権を開発(確立)するまでの重要な一つのリソースとして、「開発資金の調達」の重要性が挙げられると思うが、その資金を調達するには、いくつか越えなければならないハードルが存在する。

この開発資金の経済価値を算定する場合、そのリスクを計量する必要が生じる。そのリスクとは、その開発自体が完成(コンプリーション)する(できる)のか、また、その成果物(開発後、知的財産権として保護されたことをイメージ)が今後どのようなキャッシュフローを創出し、実際に費やしたコスト以上の経済的な価値を創出するのかといったことが挙げられる。

そして、そのリスクの度合いによって最適な資金調達を選ぶべきであるし、資金調達ツールも異なってくる。

図1

図1 開発者が実際に開発資金等を調達する際
     の手段

開発者が実際に開発資金等を調達する際には、図1のような手段があるといえる。

資金調達をする際に、その開発にかかるリスクに応じて検討していかなければならず、[1]はその開発にかかるリスクウェイトが極めて大きく、[4]は反対にそのリスクウェイトが比較的小さい(少ない)場合に適していることになる。

では具体的に、どのような資金調達手法があるのか紹介したい。

知的財産権を活用した事例紹介

(1)知的財産権を活用した資金調達の重要性について

みずほ銀行(以下、弊行)では、知的財産権(中でも著作権)を活用した資金調達を商品化して提供している。

知的財産権の中で、著作権に着目した理由としては、ブロードバンド環境が整備されつつある中で、優良なコンテンツ不足が業界全体として深刻な問題とされており、この問題解決の一助となるべく、産業発展の観点から、金融機関としてこの知的財産権(著作権)に立脚したコンテンツマーケットに対して資金供給していく社会的責任と使命があると考えたからである。

また、著作権をはじめとする知的財産権自体を活用して資金調達できるようになれば、開発者の資金調達手法が多様化され、知的財産権の発展に関与する方々に対して、資金調達面でのメリットを提供できるのではないかと考えたことに起因する。

(2)知的財産権(著作権)を活用した事例紹介

現在、弊行が提供する著作権を活用した資金調達手法についての事例を紹介したい。

弊行ではコンテンツ・ファイナンスの一環として、映像作品等の資金調達について信託を活用したスキームを提供している。

まず、現状のコンテンツ制作資金調達について説明する。

※ここでは具体的なスキーム紹介とするため、日本の代表的な産業に数えられるアニメーションの制作資金調達について概説することとしたい。

図2

図2 製作委員会の仕組み

コンテンツを取り巻くマーケットは空前の盛り上がりを示す一方で、その制作資金調達市場はいまだ成熟しているとはいえない状況にある。中でも映像コンテンツは同市場のプレーヤーが制作資金を拠出し、民法上の任意組合を組成して「製作委員会」を立ち上げ、著作権はこの製作委員会が保有するという「製作委員会方式」が一般的である(図2)。

実際、製作委員会方式で作品を制作する場合、A社とB社の2社間で合意に至ったと仮定する。この際、A・B社の2社間で「共同製作契約書(もしくはこれに類する契約名称)」が締結され、製作委員会の契約当事者(以下、組合員)がコンテンツ(作品)制作に必要な資金(契約に定められた製作資金額)を拠出するとともに、拠出(出資)割合に応じて作品の著作権を共同保有する。図1のケースでは、A・B社の各社が同額(1/2)で拠出(出資)したと仮定した場合、著作権を1/2ずつ保有することになる。

A・B各社はこの著作権を保有することによって、この著作権から創出される収益についても、拠出(出資)割合に応じて受け取ることのできる権利を同時に得ることができ、その収益をもって制作資金として拠出(出資)した資金を回収するという仕組みである。

製作委員会を立ち上げる(契約締結)際に、A・B各社ともに相応の資金力があり、共同製作契約と同時に資金を拠出できれば問題は生じないが、もし、A・B各社の一方でも契約に基づく拠出(出資)金が自己資金として捻出できない場合、外部等からの資金調達が必要となる。

前述の通り、資金調達の方法としては自己資金等からの拠出や公的機関からの助成金等の検討もありえるが、実際には計画通りに資金を調達(捻出)できない場合も多い。その場合、契約当事者(出資者)は自ら資金調達を実施しなければならず、法人(企業)の場合、増資等による資金調達(Equity-Finance)や銀行等からの借入や社債の発行(Debt-Finance)による資金調達を実施することになる。

増資等の直接金融による資金調達を検討する場合、法人(企業)は株主のものであることから、既存株主の合意を得なければならない。制作資金を調達するために新株発行を伴う増資による資金調達を実施することは、1株あたりの企業価値(株主価値)が希薄化(ダイリューション)する可能性も否定できず、また、新株発行に伴うまでの手続き等に時間を要するケース等の問題点があるといえる。

次に、銀行借入等の間接金融による資金調達を検討する場合、調達した資金を確実にどのように返済するのか、また、不測の事態が生じた場合を含め、仮に返済できない場合の担保はどうするのか等の問題が生じるケースがある。

例えば今回のケースで共同製作契約に基づく出資を検討する場合、同契約に基づき作品が完成し、当該社が著作権を保有できるといっても、増資に応じる投資家や、銀行等はその著作権の経済的な価値がどの程度のものなのか判断することができず、特に銀行からの借入に伴う担保としてはなかなか評価されないのが現状といえる。

もし、仮に銀行を含めた投資家が、その著作権自体の経済価値がどの程度あるのか判断できるのであれば、このような問題は生じないといえるが、残念ながら、不動産や市場性のある有価証券の評価はできても、著作権ひいては知的財産権の経済的価値はよく分からないので評価できないという結論となってしまう。

従って、その企業に対する投融資は可能であっても、その著作権のみを対象とするプロジェクトへの投融資判断は困難な状況にあるといえる。

少し話を元に戻すと、例えば、A社(委託者・受益者)が共同製作契約に基づく制作資金の拠出(出資)金を調達する場合、弊行ではその出資を検討する企業のコーポレートバリューに依存せず、共同製作契約に基づき得られる収益のみを配当(返済)原資とする投資スキームを提供している。

具体的には、A社がB社との共同製作契約に基づき拠出(出資)する資金は、A社もB社もその資金拠出(出資)により保有する著作権割合に基づき、その著作権から創出される収益を受け取ることができる権利(将来収益分配請求権)を有することから、この収益分配請求権を金銭債権と認識し信託銀行(受託者)に信託する。

収益分配請求権の信託を受託した信託銀行は、同請求権から生ずる金銭債権から信託受益証券を発行して、受益者に交付する。あわせて受託者である信託銀行は、同債権の運用・管理を受託する。

そしてその将来収益分配請求権を信託することによって発行された信託受益証券の一部について弊行(受益者)が譲受し、その信託受益証券の対価を信託銀行に支払い、信託銀行は委託者であるA社に交付する。

これによって、A社は将来収益分配請求権を信託受益証券とその一部を譲渡して現金にすることができるのである。

ここでポイントなのは、受益者である弊行は著作権(著作者人格権)には一切関与せず、その著作権から創出される将来収益分配請求権のみが信託された受益証券の保有者(受益者)となっていることである。本来、著作権自体を保有することが資産(担保)価値と認識されてきたが、投資家(ここでいう銀行)にとっての資産(担保)価値は著作権から創出されるキャッシュフローであり、この著作権を活用してコンテンツの価値を高めるのはマーケットプレーヤーであるという構造にあると考えている。

このような信託方式を活用したスキームを通じて、著作権に立脚するコンテンツの資金調達についてサポートを実施しているが、アニメや実写映画の他、ゲーム、書籍、音楽等のマーケットにも同様の実績があり、さらに展開を図っている。

知的財産権を活用した資金調達の今後について

前項の通り、著作権を活用した資金調達スキームを構築し、提供してきたが、著作権は知的財産権の一部であり、今後さらに領域を拡大していきたいと考えている。

投資家サイドは有形な資産背景だけではなく、知的財産権のような最も重要な資産を正当に評価できるよう、知見を深めていく必要があるのは当然の責務といえる。

一方で、知的財産権者も、その知的財産権がどのようなキャッシュフローを創出し、経済価値(効果)が具体的にいくらあるのかを、明確に提示していくことが重要だと考える。

知的財産権の重要性は今後も一層高まっていくことは間違いなく、その一助としてさらに資金調達の多様化を模索していきたい。