2007年1月号
連載2  - 産学官連携コーディネーターの事例に学ぶ
先端技術と従来技術の融合による技術革新
-ナノ・マイクロとマクロの融合-
顔写真

川原 正言 Profile
(かわはら・まさのり)

首都大学東京産学公連携センター
産学公連携コーディネータ/
文部科学省 産学官連携
活動高度化促進事業 産学官連携
コーディネーター

ナノ・マイクロとマクロをつなぐ技術革新には、コーディネータの役割の貢献が重要であった。

要約

ナノ・マイクロの先端技術は人々の心をひき、今日まで長い間数多くの研究開発がなされ、材料、加工、計測、応用において大きな発展があった。しかしなお、その技術革新が世に「花咲いた」といえるほど熟した段階にない。その原因は何だろう。一つには、ナノ・マイクロの加工プロセスが一般に高コスト、複雑、低効率であるためであろうか。またそれに加えて、今日まで発展してきたマクロの従来技術とうまくつながっていないためではないか。そのような考え方を、金属塑性加工関連の研究者、教員が持ち、これまで培ってきた金属加工プロセスをナノ・マイクロの世界に当てはめようとする試みを進め、企業との研究協力が始められている。

その一つは、産学連携での、金属材料を用いたMEMS(マイクロ電気機械システム)の開発プロジェクトである。マイクロ金型の製作と、マイクロポンプ・バルブ、マイクロアクチュエーター等の一体成形プロセスが開発されている。

ナノ・マイクロの研究施設と加工プロセス

今日まで各地で、大企業だけでなく、中小企業のナノ・マイクロ製品開発の奨励・振興のため、多くの高級な超微細加工機、AFM*1、STM*2、その他各種の超精密検査機器を備えた研究施設が開設されてきた。しかし、これら高価な機械・施設を用いるのは、多くの場合、研究陣容に多少の余裕がある大企業であって、中小企業が実際の製品を作るのに利用する頻度は非常に少ない。先端科学技術の研究手段としては有力であっても、産業に広く用いられるには、さらに技術、プロセス全般にわたる低コスト化、高能率化への努力が必要である。

ナノ・マイクロを専門としていなかった研究者への協力の広がり

ナノ・マイクロの研究分野において、本来それを専門とする研究者には、それぞれ自分のかかわってきた研究対象がある。しかし、「ナノ・マイクロ」と「マクロ」とをつなぐ技術分野については、これまでナノ・マイクロが専門でなかった研究者にも、大きな研究協力のチャンスができてくる。

今日、新しい技術革新が「ナノ・マイクロとマクロをつなぐ接点」からも始まっている。古くから自動車部品、家電製品の生産で慣れ親しんできた金属材料の塑性加工技術を、ナノ・マイクロの世界に当てはめようとする試みが、大学といくつかの企業との協力のもとに始められている。これによって、素材の低コスト化、加工の高能率化と低コスト化が大きく前進し、異なるアプローチの融合が、新たなイノベーションを創出する力になろうとしている。

ナノ・マイクロ製品への金属塑性加工の応用
図1

図1 マイクロ歯車金型



図2

図2 超塑性引き抜き加工で成形され
     たマイクロチューブ


ナノ・マイクロ製品は、これまで多くの場合、半導体製造技術を適用して、シリコン結晶を基礎材料とし、リソグラフィー、エッチングなどで成形されていた。素材は高価であり、加工装置も高価であり、複雑なプロセスを必要とした。

これに対し、金属を素材として、塑性加工技術を応用する、MEMSの成形プロセスの開発が進められている。

図1に示す金型を用い、これに合うパンチを組み合わせて、ステンレス鋼の箔テープで、直径200μm、ピッチ20μmのマイクロ歯車が、1分間に数十個の速度で成形される。素材はシリコン結晶に比べると格段に安価であり、加工プロセスも、古くから慣れ親しんできた塑性打ち抜き加工で、簡単で、格段に高能率である**1

図3

図3 マイクロポンプの一体成形システム

図2に、超塑性引き抜き加工によるマイクロチューブ成形の例を示す。素材は、アルミ、チタンなど超塑性を示す材料を用いる。引き抜き成形には、通常のマクロの加工では、ダイスの中子が使われるが、マイクロ加工になると、ダイスの使用が困難であり、ガラス細工で行われるように、加熱・冷却と引っ張り速度の制御によるダイレス引き抜き加工が行われる**2

図3に、マイクロポンプの一体成形の例を示す。いくつかの並列に並ぶラインの組み合わせにより、1分間に数十個の成形が可能である**3

超微細技術だけでは、ナノ・マイクロ技術は育たない

先端のさらに先端を追うナノテクノロジーの研究開発は、多くの新しい理論、新しい発見を伴う技術の競争の場である。研究手段としては、高価で複雑な超微細加工機、超精密計測設備を駆使し、これまでに類例のなかったものをつくらねばならない。しかし、多くの場合それらは大量生産には向いていない。低コストでもなく、世に広がる生産技術となるのは難しい。

また、コストと能率だけでなく、従来のマクロな成形技術に含まれているいろいろな項目に対応する付加的管理技術が必要となる。

例えば

素材の材料特性  ・品質管理 ・表面粗さ、仕上げ
形状精度 ・バリ取り ・角のR ・搬送  ・組み立て
環境管理、温度、清浄度…

ナノ・マイクロ製品では、これら諸項目の相対的影響度がマクロ製品とは大きく変わるので、コントロールの方法にもそれなりの新しい工夫が必要となる。

イノベーションの担い手

ナノ・マイクロの技術シーズのイノベーションの担い手は、「研究者・教員」が主役である。日夜、最先端を走る研究開発が必要である。また、社会ニーズ創出の観点から見て、企業の役割は極めて大きい。図1から図3に示したいずれの例も、企業の密接な協力により進められている。しかし、この「ナノ・マイクロ」と「マクロ」との間で、いろいろと異なる立場の組み合わせにおいて、一見ばらばらなものを結び付けていく「耳」と「足」を持つ者の役割が重要となる。

コーディネータは聞き役、支援者である。順調に進んでいる研究に対しても、多少行き詰まり感のある研究に対しても、それぞれ聞き役、情報伝達の役で、貢献できるチャンスを持つ。コーディネータの役割は、その持っている「耳」と「足」を活かし、ひたすらこれに聞き、共鳴し、企業に伝え、その感動を事務組織に伝え、展示会などへの出展とPRを行う。そのような中で、イノベーションは静かに、しかし確実に進んでいくものと思う。

むすび

ナノ・マイクロ技術は、今やひたすら先駆的に探求するのみの段階から、世に広がる成熟へ進む段階へ入ろうとしている。 そのような段階にあって、広く従来技術との接続を図る研究開発が重要となり、あらゆる分野と協力して、総合的なイノベーションを進めるべき時を迎えている。

●参考文献

**1 :日刊工業新聞. 2005年11月30日.

**2 :古島剛;真鍋健一; 酒井孝. 超塑性ダイレス引き抜きによるマイクロチューブの創成実験.塑性と加工.Vol.47, No.548, 2006.9, p.61.

**3 :楊 明.金属材料による微小電子機械(MEMS)の一体成形技術に関する研究.第71回型技術セミナー:戦略的基盤技術力強化事業I.2005.7.14, 工学院大学.

*1AFM
Atomic Force Microscopeの略で、電子間力顕微鏡のこと。

*2STM
Scanning Tunneling Microscope の略で、走査型トンネル顕微鏡のこと。