2007年3月号
連載2  - 産学官連携コーディネーターの事例に学ぶ
受託・共同研究成果の実施と実施料
顔写真

三島 克彦 Profile
(みしま・かつひこ)

早稲田大学 研究推進部 産学官
研究推進センター/文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業
産学官連携コーディネーター

早稲田大学の承認TLOでの受託、共同研究契約の取り組みの経緯と、そこでの紆余(うよ)曲折にも触れ、学内の理解が進んだところまで述べる。大学と企業の協力の枠組みとしてこの受託・共同研究成果の契約をとらえるべきであると、自身の経験から強調する。

はじめに

早稲田大学の産学官研究推進センター(承認TLO)が1999年にスタートしてから9年目を迎えている。私は、2003年から文部科学省 産学官連携コーディネーターとしてTLOに配置されて以来、発明の発掘、権利化、ライセンス、発明を基にした受託・共同研究(競争的資金の獲得を含む)の推進・調整、企業との契約交渉など、産学官連携にかかわる種々の業務に取り組んできた。本稿では、その中で産学官連携にとって基本的な業務である受託・共同研究の契約における取り組みについて述べる。

きっかけ
図1

図1 早稲田大学の特許出願の学内手続き

早稲田大学では、企業との受託・共同研究の成果として発明が生まれ企業と共同出願を行うことが多い。TLOでは発明者(教員等)からの発明届を受けて、その特許性や市場性の調査とともに企業との共同出願条件も含めて出願の可否を総合的に検討し、その結果を発明審査委員会に提案する。その過程で共同出願契約締結のために企業と共同出願条件の交渉を行う(図1)。その交渉においては、当事者の産学官連携に対する基本姿勢の差異が表面化するが、大学から見ると企業側が研究成果実施時の対価の支払い(いわゆる「不実施補償」を含む)を認めないなど企業側に著しく偏った内容と考えられるケースが多発していた。企業側の主張の根拠が、それまで直接TLOが関与していなかった受託・共同研究契約における知的財産条項にあることが判明し、それに対する対策の必要性が痛感された。

図2

図2 問題の所在と取り組みのきっかけ

当時は、受託・共同研究の契約締結は、企業との共同・受託研究の窓口であるいくつもの研究センターや研究機構(関係部局)で行われる一方、特許の出願は単独、共同を問わずTLOで行う体制になっており、相互の連携が不十分であったことがきっかけとなっていた(図2)。

問題解決への取り組み

この研究成果の実施に伴う対価の支払いをめぐる企業と大学の見解の相違は、大学がかかわる今後の産学官連携の推進にとって基本的な障害になるとの認識で、TLO所属の特許流通アドバイザーやコーディネータ間で一致し、この問題に取り組むこととなった。また、受託・共同研究を担当する教員・研究者、および窓口になる関係部局の事務局職員の理解がこの問題への取り組みを成功させる鍵であるので、個別にではあるが企業との話し合いの意味の説明や問題状況などの報告を行うようにした。

具体策の手始めとして、TLOに企業との共同出願の発明届が出るたびに、受託・共同研究契約における共同出願条件に問題があれば関係部局と相談し、その後の研究契約の更新締結の際にはその知的財産にかかわる条項については、関係部局の了解を得て、TLOのコーディネータが企業と改定交渉をすることとなった。

同時に、受託・共同研究の契約書のひな型を改定し、受託・共同研究の成果の実施に対して企業側が実施料を支払うことを明記した。そして、企業側の主張がそれとは異なる場合にコーディネータが企業と交渉するという学内慣行が自然に出来上がってきた。この慣行は、従来実質上、教員と企業担当者との個人的なつながりにより行われてきた産学連携を組織的なものにしていく第一歩とも言うことができる。

取り組み過程での紆余曲折

しかし、前述した取り組みの過程では、予期せぬ問題やトラブルも起き、その対応に手間取ることも多々あった。

その一つは、TLOのコーディネータが「受託研究成果実施対価支払いの原則」をめぐって交渉していたある企業が大学の要求は不当だとして、共同出願を断ってきたことである。大学の主張を企業側に十分理解してもらえなかったこと、対話が途切れたことが反省点である。

また、従来と異なるお互いの立場の理解のために交渉が長引くようになった。そのため、関係教員からは「研究の進展上支障があるので、(少々妥協しても)交渉を早期決着させてほしい」といった要求が強く寄せられた。

さらに、実施契約を結んだベンチャー企業が資金繰り不調で契約不履行問題が生じたこともあった。

取り組み過程でのこのような問題に対して、以下のような対策を検討し実行した。

まず、大学による研究成果の実施時の対価要求の正当性・妥当性について以下のように整理し、裏付けデータも集めた。

[1] 受託・共同研究の成果を生み出す原動力は、企業の負担する研究費のみでなく公的研究費負担や大学の自助努力による大学の知的蓄積(ポテンシャル)にあること。
[2] 産学連携が私企業への研究成果の移転を通じて社会に貢献するという基本的枠組みを持つので、研究コストに見合う対価要求の正当性があること。
[3] 大学が不実施機関であることにより、大学に権利譲渡した発明者に対する実施補償は事実上、共願相手企業からの実施料によって成り立つこと。

などである。

また、交渉が長引くことは企業にとっても問題なので、基本的な交渉姿勢として、大学側の原則的立場を貫きつつも、企業側の立場も考慮して柔軟に対応し、早期に決着を図るようにした。時には、両者の主張を契約書には明記することを避けて、共同研究契約を結ぶことが双方の利益になる。そして、双方の共同作業により相互理解が進み、成果の実施などが具体化する時点で研究成果の事業価値を踏まえてあらためて交渉することも必要である。その際には、特に中小・ベンチャー企業はそうであるが、事業化が成功するような配慮が重要である。

取り組みを通じて学内外の理解が進展
図3

図3 現在の共同研究等の契約の流れ

このような取り組みの結果として、契約についての学内の理解も進み、現在では受託・共同研究の契約更新や新たな契約の際に、関係部局の事務局からの連絡により企業から提案された契約文書の内容の検討をTLO(の契約担当者)が行い、必要に応じて企業と交渉するという慣行が定着してきた(図3の[2]と[3]の流れ)。また、このことにより契約業務の体制強化も実現した。

一方、企業に対しては、契約更新や新規契約の際に、研究成果の実施に対する対価の支払いの原則を明記するように要請し、前述した要請の根拠について研究費に関するデータを挙げて説明することが、TLOとしての基本的な活動パターンになってきている。

その結果として、これまで拒否反応を示してきた大企業も大学の要請に対する理解を示すようになりつつある。

おわりに-企業・大学の相互理解に向けて

共同研究成果の実施の対価の問題は産学官連携の進展の過渡期に生じた問題であり、教育と研究を通じて社会に貢献する使命を持つ大学と、モノ・サービスの供給を通じて社会に貢献する企業とが相互にその立脚点を理解しつつ、問題の解決を図ることが重要である。そして、両者がその接点となる産学官連携を通じてその使命を遂行することが、イノベーションの進展や地球環境などのさまざまな問題の解決につながることが期待されている。

従って、「受託・共同研究成果の実施料」の問題を単なる知財権問題として矮小(わいしょう)化せず、大学と企業の協力の枠組みのあるべき姿の追求の一つの局面としてとらえることが必要である。そのためには、知財部門や研究開発部門のみでなく、種々のレベルで企業との対話を継続することが望ましい。

また、企業には必須だが企業自らはできない研究において、優れた成果を出すことが大学に求められていることを、大学としては十分認識しておく必要があるだろう。