2007年3月号
イベント・レポート
「国際特許流通セミナー2007」報告

(1)「パネルディスカッション:大学TLO活動がもたらしたもの」(1月23日開催)に出席して
セミナー全般

本年1月22日、23日の両日、「国際特許流通セミナー2007」がホテル日航東京で開催された。今回の総体的な印象であるが、「産学連携はどう進んだか~産学連携のグローバルコンペ~」「バイドール法25年の成果及び総括~米国産学技術移転の現状と将来~」「大学TLO活動がもたらしたもの~日本の大学TLO活動の総括~」などのパネルディスカッションのテーマに見られるように、改めて産学連携活動の意義を考える絶好の機会であったように思う。「なぜ、産学官連携を行うのか?」という命題を、それぞれのセクターが自分のものとして考えるべき時機にあるのだろうという印象を強く抱くに至った。

パネルディスカッション:大学TLO活動がもたらしたもの

大学に籍を置く筆者として、特に、「大学TLO活動がもたらしたもの~日本の大学TLO活動の総括~」のセッションでは、自身の問題として考えることが多かったように思う。この中で、「TLOが特定非営利活動法人(NPO)との付き合いをどのようにするのかが今後の課題である。大学のバックアップがなければ、NPOとの付き合いもできない」との考えには、強く共感するものがあった。

大学の研究成果をプロデュースし、多くの分野にイノベーション効果を発揮することが大学の持つべき大きな役割と考えたとき、TLOがNPOとの付き合いができないのであれば、技術移転機関としての役割が改めて問われる可能性が高いと言えよう。また、ライセンスという観点から見ても、短期的にライセンスの実現可能性の低い分野の研究成果に関して、TLOがどのように関与すべきかが問われ始めているようにも感じている。一人の研究者を例にとっても、その研究者の研究分野には、短期的にライセンス可能なものや困難なものが混在しており、短期的にライセンスが可能な技術だけをTLOが扱うのであれば、結果として、研究者との間の信頼関係が毀損(きそん)される恐れもあろう。一方で、TLOにその責任をすべて預けることは現実的対応とはいえず、これまで以上に、大学としての技術移転に対する考え方を明確に打ち出す必要があるものと考えられる。

感想

今回のセミナーは、こうした問題を初心に戻って考えることができる絶好の機会であったように思う。フロアからの意見に、「わが国の大学の産学官連携の組織は、知的財産本部にしても、TLOにしても、大学内での十分な議論抜きに、米国でやっているから、あるいは、政府が必要というからといった理由で導入してきたのではないか。ここで、改めて自分たち自身の問題として考えるべき時機にあると思う」との発言があったが、まさしく名言であろう。

何のために産学官連携を行うのか、それぞれの大学あるいはTLOが、自分の問題として考え、大いに議論を巻き起こすべきではないだろうか。

(金沢大学 知的財産本部長/本誌編集委員 吉国信雄)

(2)「パネルディスカッション:バイドール法*1 25年の成果及び総括」(1月22日開催)に出席して
パネリスト

ジョン・フレーザー(AUTM*2会長)

ジェニファー・ウォシュバーン(新アメリカ財団*3フェロー)

モデレーター:西澤昭夫 (東北大学大学院教授)

議論の概要

米国の技術開発の促進、産業活性化を目的としたバイドール法が成立したのは1980年、法律制定から25年が経過し、これまでに2万8,000件以上の技術移転(大学から企業へ)を成立させ、5,000社以上のベンチャー企業を輩出するなど多大な成果を挙げてきた。

しかし、さまざまな問題点が見えてきた。中でも大きい問題は利益相反問題の増加である。大学での特許取得と技術移転を強調するあまり、大学の利益追求が行き過ぎたケースも多々見受けられる。例えば、研究ツールに関する権利主張が強過ぎ、他の大学でこのツールが研究に使えなくなり支障をきたしたケース、IT系の研究者がオープンソースとして開発を促進したいのに対し、大学の学内TLO(技術移転組織)が高い使用料を設定し研究者とトラブルになったケース、製薬会社が採取した臨床試験データを大学のデータとしたことなどである。

このようにさまざまな問題が出てきているものの、バイドール法の精神、仕組みは今後とも重要であり、産学連携を途中で投げ出すことのないよう留意しなければならない。 どのような場合にも問題は常に存在するし、もともと人間は過ちを犯すものという前提で考えておく必要があるからである。要は産学連携・技術移転の促進と利益相反に対する規制のバランスの問題である。

今後、産学連携に関する情報開示をさらに進めること(白日の下にさらすこと)、大学の役割と企業の役割をもう一度考えることなどにより問題解決の道は開けるであろう。

大学の役割で最も価値があるのは学生教育であり、教育により社会に役立つ人材を供給することにある。教育と事業化は相いれないように見えるかもしれないが、学生教育により事業化マインドを養成し起業家を社会に送り出すことには大きな意義がある。(企業の役割は、大学の研究成果を事業化し社会に提供すること、利益を得て納税すること、雇用を促進することである。←筆者注)

また、利益相反における規制の面で日本にアドバイスできるとすれば、規制は国レベルで設けるのが良いということである。これは、20年近く産学官連携で先行している米国の現状を考え、ハーバード大学でさえも緩やかな基準に流れているという反省を込めての話である。

利益相反に関する適切な規制に基づいた産学連携は、今後とも積極的に進める必要があるというのが結論であった。

感想

今回の議論で最も強い印象を受けたのは、「金の卵を殺すな」、「大学は学生教育を通じて起業家を育て、世の中に送り出すことで社会に役立つべき」というパネリストの発言であった。日本の土壌から考えると多少違和感はあるが、一つの考え方であると感じた。

また、利益相反については一定の基準は当然必要であるが、研究者の意欲を削ぐことなく、研究者のインセンティブを最大限引き出す配慮が必要と思われる。

なお、今回のパネルディスカッションは、通訳付きとはいえ英語で行われたものであるため、誤解しているところがあるかもしれない。ご叱責いただければ幸いである。

(独立行政法人 科学技術振興機構 技術移転支援センター 技術参事/本誌編集委員 藤川 昇)

*1バイドール法
1980年に米国で制定。政府資金で大学が研究開発を行った場合、知的財産権をこれまでの政府帰属から大学や研究者に帰属させることができるようになった。これにより知的財産権の活用が促進されるようになった。日本では1999年制定の「産業活力再生特別措置法」が日本版バイドール法と呼ばれている。

*2AUTM(The Association of University Technology Managers)
米国大学技術管理者協会。国際的な大学技術移転の専門家3,500人の会員を擁する。

*3新アメリカ財団
ワシントンとロサンゼルスにオフィスを持つ公共政策機関。目的は、公開講演に新しい有用な意見と考えをもたらすこと。

国際特許流通セミナー2007
日時:平成19年1月22日(月)~23日(火)9:40~17:00
会場:ホテル日航東京(東京・台場)
主催:(独)工業所有権情報・研修館