2007年4月号
連載3  - ヒューマンネットワークのつくり方
ネットワークづくりに必要な顧客とサービスの視点
顔写真

丹生 晃隆 Profile
(たんしょう・てるたか)

島根大学産学連携センター講師、
産学連携マネージャー


文系出身で若手のコーディネータの登場である。前歴のインキュベーション・マネジャーで重視していた顧客とサービスの視点を大事にしつつ、新しい仕事の場でのコーディネータのヒューマンネットワークづくりを語る。

はじめに

筆者は2006年4月に島根大学に着任し、産学官連携活動に携わっている。まだこの分野にかかわるようになってから1年弱であり、筆者自身が考えている「連携」なり、「ネットワーク」活動を行えるようになっているかというと、まだまだその途上にあるのが現状である。今回の「ヒューマンネットワークのつくり方」の寄稿に際し、先輩コーディネータの方々のご投稿をあらためて読ませていただいた。諸先輩方のご投稿からあらためて勉強させていただくと同時に、筆者は何が書けるのか考えた。

筆者は、コーディネータとしては少数派と思われる文科系出身であり、まだ社会人としても7年目の若輩者である。このような若輩コーディネータが、どのような経緯でこの分野にかかわるに至ったのか、現在どのようなことを考え、活動をしているのか、以上についてざっくばらんに書くことが、今後コーディネータを志す方々にも何らかの参考になるのではないかと考えた。今回あらためて振り返ってみると、産学官連携にかかわるようになったのも、今までの人と人とのつながり、ネットワークの延長上にある。そして、現在もそのネットワークの中で仕事をさせていただいている。今後、コーディネータとしてどのようなネットワークを構築し、活動を行っていきたいか、以上の抱負と決意も込めて本稿をまとめたいと思う。

インキュベーション・マネジャーからコーディネータへ

筆者は、大学院修了後、経済産業省系のシンクタンクを経て、前職では、北九州市の公的ビジネスインキュベーション施設において、起業家支援にかかわっていた。常駐のインキュベーション・マネジャーとして、特に情報通信関連分野の起業家の方々からの多様なビジネス相談に対応するほか、インキュベータにかかわるさまざまなステークホルダーとのネットワークづくりにまい進した。東京出身の筆者にとって、北九州市は、全くの「新しい」土地であった。ネットワークを一からつくり上げていく重要性なり、勘所といったようなものは、ここでの仕事を通じて学ばせていただいたと思う。

在職中さまざまなビジネス課題に直面する中、自身のスキルアップのため、夜間の専門職大学院に通った。そこで、MOTや産学官連携に関するマネジメントを学び、仕事としてこの分野を志すようになったのが、産学官連携にかかわる直接的なきっかけである。ちょうどそのときに島根大学の公募をホームページで見つけ、応募しようと考えたのが2005年11月。大学院の恩師、そして、島根大学の方々との出会いがあったからこそ、現在のコーディネータとしての筆者がある。

顧客とサービスの視点

インキュベーション・マネジャーの仕事をしていたときに、特に重視していたことは、「顧客」と「サービス」の視点である。シンクタンク時代に、海外、特に米国のインキュベータを訪問する機会に恵まれた。そのときに、あるマネジャーから言われたことが強く印象に残っている。「インキュベータは、直接的な顧客である企業に対して支援サービスを提供する。この顧客へのサービスを通じて、より上位のミッションを実現させる。顧客との関係の中で何よりも重要なことは信頼関係の構築である」。この言葉は、現在も私の活動の根底にある。顧客に対するサービスの視点の重要性、これはインキュベーションに限らず、産学官連携活動にもそのまま当てはまるのではないだろうか。

われわれのようなコーディネータにとって、顧客は誰かというと、時には、大学の研究者であり、大学の社会貢献のミッションとしては、産業界、中でも地方大学にとっては、地元の中小企業であり、行政も含めた地域経済そのものである。具体的な連携活動を通じた「教育」面での効果も考えると、学生さんたちも顧客になるであろう。また、一方、これらの連携活動の過程には、大学の事務部門の方々、行政機関の方々など多くの人たちのご協力のもとに、産学官連携活動は成り立っている。その意味においては、コーディネータは、どの部門よりも、Service-orientedでなければいけないのではないだろうか。さまざまな相談対応に当たっても、まずは相談を持ちかけてくれたことに感謝し、その中でコーディネータとして何ができるのか、もし現在難しいのであれば、将来的にはどのようなフォローができるのか、一過性でない関係性構築の中から、具体的な連携につながっていくものと考えている。筆者自身、この顧客とサービスの視点は、産学官連携活動を進めていくに当たって、何よりも大事にしていきたいことと考えている。

新しい土地でのネットワークづくり

筆者にとって、北九州と同様に、島根は全く新しい土地であった。以前からのつながりはあったとはいえ、またネットワークを一からつくっていくところにやってきたという状況であった。北九州でも同じような経験をしたのだが、ネットワークはつくろうと思ってつくれるものではない。しかしながら、自分で何かしらのアクションを起こしていかない限り、何のつながりも生まれてこない。筆者も着任早々は何をしてよいのか分からない時期もあったが、センターの他のコーディネータの方々からのご紹介、シーズ発掘試験などの研究資金の情報提供、研究者の方々との具体的なやりとり、一つ一つの相談対応等を通じて、今では少しずつネットワークなるものの幅も広がってきた。実際に、新しい土地でのネットワークづくりは非常に時間がかかる。しかしながら、この「時間がかかる」を言い訳にせずに、一つ一つのご相談に応え、自身のできること、お手伝いのできる「顧客」を増やしていく、この過程が何よりも重要であると考えている。

具体的には、地元で開催のイベント、セミナー、展示会に参加する、質問をする。その後のメールのやりとりだけでなく、関連のある情報があれば、こちらからも情報発信をする、ネットワーク組織づくりにかかわる等々。ネットワークとは、これらの一つ一つのコミュニケーションの積み重ねにあると思っている。また、筆者自身、日本の歴史の舞台を訪ねることを趣味にしており、島根、出雲地方は、興味深い寺社、史跡・旧跡が数多くある。その土地の歴史文化に触れ、その土地の食べ物を食べ、一緒に飲み明かし、その土地が舞台になった小説、映画の舞台を訪ねる。自身がその土地の「住人」となることも、ネットワークの基盤として重要な意味を持ってくるのではないかと考えている。

文科系、若手コーディネータの悩み

筆者は大学時代からずっと文科系であり、技術的なバックグラウンドを持っていない。最近特に痛感しているのは技術的な素養の重要性である。大学で行われている研究は極めて高度なものであり、企業サイドの技術的なニーズも、技術的な素養があってこそ、理解の土台に立てるものである。この点については、筆者も、知らない専門用語に出会うたびに一つ一つを調べ、できるだけその技術的な内容を理解しようと努めている。最近、ある先輩コーディネータから、「研究者の言っていることが理解できなければ、連携も何もできない。まずは、高校の教科書でいいので、物理、化学、生物を勉強し直すこと」という言葉をいただいた。文科系であるということを言い訳にはできない。コーディネータであれば、ここから逃げることはできないのであろう。幸いに、周りには技術的なことを教えてくれる専門家の方々がたくさんいる。筆者も、「顧客」の方々から学ばせていただく姿勢を持ち続け、今後さらに具体的な連携につなげていきたい。

また、コーディネータというと筆者のような30代はまだ少数派であり、周りの研究者も年上の方々がほとんどである。若手コーディネータとして、この「年齢」的な側面についても少々言及する必要があるであろう。この経験年数が短いということは、これからコーディネータとしてステップアップしていく、ということしか解決策はないであろう。しかしながら、年齢的に若いということは、フットワークが軽い、物事を「まっさら」な視点でとらえられること、組織や既存の考え方などに染まりきっていない、という強みもあると考えている。筆者自身、経験年数は少ないが、今までの経験の中から、ビジネスを戦略なりマネジメントの視点から大局的にとらえる、連携活動全体を一歩下がってとらえることができるという強みを持っていると考えている。今後の技術的な素養と合わせて、コーディネータ力を磨いていきたいと考えている。

最後に

筆者の今までの経験から、ネットワークづくりについて考えることを書かせていただいた。まだ活動は始まったばかりであるが、筆者のアプローチから、具体的な連携につながりそうな芽もいくつか生まれ始めている。今後コーディネータとして、顧客とサービスの視点を大事にしながら、一つ一つの案件に応えていきたい。きっとその先に、筆者が考える「ヒューマンネットワーク」があるものと考えている。