2007年5月号
特集  - 国立高等専門学校と産学連携
課題の解決は現場に触れることから-技術者育成のポイントを座談会と2つの事例で探る。

座談会:技術者教育の課題-現場に触れることが創造性を生み出す
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江端 正直 Profile
(えばた・まさなお)

熊本電波工業高等専門学校 校長



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大成 博文 Profile
(おおなり・ひろふみ)

徳山工業高等専門学校 教授/
日本高専学会 会長


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小島 昭 Profile
(こじま・あきら)

群馬工業高等専門学校 特任教授



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四ツ柳 隆夫 Profile
(よつやなぎ・たかお)

国立高等専門学校機構 顧問/
東北大学 名誉教授/
宮城工業高等専門学校 名誉教授

聞き手:川村 志厚 Profile

(本誌編集委員)


●本日はお集まりいただきましてありがとうございました。産学連携を踏まえた上で、まず高専の現状、特色、役割などからお聞きします。四ツ柳先生から総論的なことを。

四ツ柳 国立高専における産学連携の基本方針を去年、私ども産学連携委員会で設定いたしました。6カ条あります。1つは拠点。それは当然各高専に置かれている地域共同テクノセンターです。次に、主な対象。それは地域ニーズに力点を置いた活動です。3つ目は国際的な場でも通用する技術を育てること。4つ目は研究活動推進のプロセスとその成果を常に学生の教育の場に還元するという視点を持ちながら共同研究、開発研究をやること。5つ目は、連携活動を通してお互いの特質を補完しながら、企業側と高専側両方の人材の育成をやること。最後が、学生に創意工夫の意識付けを行うための実践的かつ創造的技術者教育を行うこと。ここが高専らしさの非常に大事な部分です。

●ただいまの1から3までの項目が産学連携、あとの項目が人材育成にそれぞれかかわると思います。きょう出席の先生方は研究と同時に教育を非常に集中してやっていらっしゃる。江端先生、どうですか。

江端 高専は大学に比べて学生を丁寧に教育しているという点では特筆すべきことだと思います。学生の資質はもともと高いから、施設は古くてそんなに立派じゃないけれど、出てくる学生の質は非常に高いものがある。うちは社会人の教育もやっています。ここ10年ほどで熊本セミコン塾は400人ぐらいに半導体の教育をしてきています。社会人の人材育成は、高専の産学連携の1つの柱として非常に重要だと思います。高専の人材育成能力というのは非常に高くて、大学の人材育成とはまた違った面があります。

大成 その通りで、40数年の高専の歴史を振り返りますと、教育に対して研究が常に内発的に対立するという構図があり、つまり教育しながら研究を発展させることに自覚的に悩む、この独特の「対立」が40年間も試され続けた教育機関は他になく、そこから貴重な「熟成効果」が出てくるようになってきたといえます。

●小島先生は、社会貢献、教育貢献というようなことに力を入れていらっしゃいますね。

小島 群馬という地域でどうやって群馬高専を生き延びさせていくかという問題意識が発端です。群馬は東京に近い。工業出荷額は第9位から10位。県内には国立大学が1つ、公立大学が4つ、私立大学はたくさんある。じゃあ群馬高専が地元の大学とどうやって勝負できるかといったときに、15歳から20歳までの若さを生かすほかない。高専生は感性が大学生よりは絶対強いのだから、これを生かした教育をしていこうというわけです。だから、新しいモノを作ったときには、何でこんなに強くなったの、じゃあもっと強くしてごらんと。もっと硬くしてごらん。もっと柔らかくしてごらんとか、「もっと、もっと」とオリンピック方式でやっています。

専任のスタッフのいないテクノセンター

●一般にはわかりにくいのが地域共同テクノセンターです。

四ツ柳 テクノセンターは、大学と違って定員がついてない施設です。全高専にはまだ行き渡っていませんが、各高専が独自にかなりの数を作っています。これらは実質的に地域共同テクノセンターの機能を果たしております。ただ、その中核となる専任教職員が定員配置されていないというのがネックで、これから解いていかないとならない問題です。大学に比べて高専はマンパワーが圧倒的に少ないわけです。対学生比でいいますと、おおむね大学は学生4、5人に教員が1人、高専は7、8人に1人ととらえています。ですから、高専として非常に大きな努力を払ってテクノセンターを運営して、そこから地域と結び付きながら実際に地域とWin-Winの関係を築くための努力をしています。

小島 私どものテクノセンターは、一般化学の教員が併任で入ってやっています。高専に来る研究費は非常に少ないし、大型の設備はなかなか入らない。ですから、センターができるときに一気に思い切ってそういうものを入れました。それによって先生たちが随分と元気が出ました。それだけでなく、地域の企業にも使ってくださいと言っています。私どもには群嶺テクノ懇話会という会があり、会員が140社ぐらい。会費は年間2万円ですので、280万円入ります。それで先生たちの旅費だとか何だとか、活性化のために活用させてもらっています。

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大成 博文氏

大成 全国の高専にセンターができ始めるのが90年代初めですが、当時は、「地域貢献」とか「地域連携」という概念はほとんどありませんでした。私は、会議室に1枚の看板を掲げたのみの段階から、この取り組みを開始しました。何事も手探りの状態で、とにかく1年間で100社訪問して仲間を作ることから始めようと考えました。会社からは何をしに来たかと言われましたが、社長さんと1時間も語り合うと大変仲良くなりました。外国留学のために、結局77社の訪問で終わりましたが、貴重な経験と連携基盤作りとなりました。また、このときに自分がオリジナル技術を持っていない「恥ずかしさ」にも気付き、それを克服しなければならないと切に思うようになりました。

小島 産学連携という言葉はすごく美化されているように思います。お金が絡んでくるので、一歩踏み込むとすごい世界だとわかります。私どもでは産学連携をどうしてやるんだといったら、お金を稼ぎたい、外部資金を入れたいためです。先生たちの研究費は年間わずかしかありません。学生への教育を充実するためには、研究費を稼ごうと。今年度は8,000万円外部資金を入れています。営業活動に効果があったのはメディアです。群馬高専は、テレビで紹介されるものですから。

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小島 昭氏

●小島先生のホームページを見ると、メディアに出演したのがずらずら出てきて驚きましたけれども。

小島 情報が発信されてよかったのは、高専間連携が進んだことです。この指とまれ方式ですが、あれは面白そうだねということでしょう。

●高専間連携ということでは、大成先生は何校かとやっていらっしゃいますよね。

大成 有明海再生の問題は有明、神戸、徳山の各高専などですね。それからもう1つはマイクロバブルプロジェクト、この連携は徐々に発展し、10高専ぐらいになっています。この規模の高専間連携のプロジェクトが10から20程度出来上がり活躍し始めると、高専は社会に対してかなりの影響を与えることができるようになると思います。この連携の次に考えていることは企業群との連携です。55の高専が連なり、その連携を基盤として、将来的には、数千、数万社の企業との本格的な共同ができるようにしたいと思っていますし、高専こそ、それができる唯一の組織ではないかと思っています。

●その構想は非常に素晴らしいので、ぜひ実現していただきたいと思います。

アイデアは現場に行き現実の問題に触れることから

●実際の産学連携のスタンスは、先生によっても相当違いますけれども、高専ならではのスタンスというのもありそうな気がします。

小島 私は、企業に対してもわかりやすいことをやれば、いろいろな意味で研究が進むと思っています。しかしこれは、先生にとっては、すごく難しいのです。学生にとっても難しい。そういうことで、私は研究というのはできるだけシンプルにして進めましょうと、学校の中で口を酸っぱくして言います。そうすれば、世の中が認めてくれる。群馬高専では何を研究しているのか、あるいは地域センターは何をしているのといったときにも、それがわかればいろいろな意味で評価が高くなってきます。

●大成先生も論文の中で、現場の課題を解決できなければ意味がないという趣旨のことを何度か書かれていますね。

大成 ええ、これは広島のカキ養殖の改善に取り組んだときに思い知りました。カキはあまり食べていないし、カキの生態を知らないままでの取り組みとなりましたが、結果的にマイクロバブル技術で広島の若ガキを30年ぶりに復活させることができました。これを経験して、現場には宝物がいっぱい転がっていることを知りました。やはり、積極的に現場に出かけ、その問題解決を目指して格闘することが大切でした。それに、現場で起こる問題は常に総合的ですから、自分がやっていることがいかに狭く無力に近かったかがよくわかりました。そこから、新しい研究のアイデアや勉強の方法を見いだそうとする知恵を引き出す経験こそが重要です。この現場経験の重要性は、高専全体においても、まだまだ、十分には認識されていないのではないでしょうか。

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江端 正直氏

四ツ柳 創造性って何でしょう。それは例えば非常に簡単な化合物でエチレンという分子がありますね。あれがどんな働きを持っているかといったときに、黙って見ていれば、ポリエチレンをつくるか、燃料にするかでしょう。あれがバナナのむろの中にあって植物の成長ホルモンになるなんていうのは、エチレンをいくら見ていてもわからないんです。だから、物は、働く場へ連れて行かないと絶対機能がわからない。場は無限大にありますから、机の上で考えていたら、いつまでたっても答えは出ないですよ。無限大の場を相手にしてコンピューターシミュレーションをやれるわけがない(笑)。発散しちゃう。やはり現場そのものを見ながら触発されてアイデアが出てくる、これ以外には方法はないんですよ。

江端 電波高専ですので、私の学校は半導体が一応得意な分野の一つです。九州はシリコンアイランドと言われるくらい半導体企業がたくさんあります。立地条件はいいように思えて、共同研究なんかのニーズもたくさんあるように外から見えるのですが、九州にあるのは半導体の工場なのです。工場だから研究者レベルの人がそんなにいるわけじゃない。産学連携という意味では関東なんかのほうが多分立地条件はいいんだろうと思うのです。しかし最近は、中企業の半導体メーカーも来ていますので、そういうところと結構共同研究が成立はしてきています。

求められる強力な支援団体

●高専発ベンチャーは今後、どういう方向に行ったらいいのでしょうか。

小島 ベンチャーさんが随分立ち上がっています。私どもは研究成果を企業に振っています。そこから企業がどんどん動き始めて、1つの産業が起こり始めています。ですから、11年前にカーボンファイバーをたまたまドブに落っことし、それを拾い上げたらごみや葉っぱがくっついてきたということがきっかけです。今は日本全国150カ所ぐらいで行われています。高専間連携によってベンチャーさんが動いています。

●先生ご研究の炭素繊維ですね。

小島 そうですね、カーボンファイバー関係は、魚を殖やしたりしましたので、地元では6億円の経済効果と言われています。榛名湖では、ワカサギがいなくなっちゃって、困っていました。そこに、カーボンファイバーを入れたらワカサギが増え、お客さんが増えたのです。1人2,000円落としますから、年間3万人来ると6,000万円です。そんなお金の計算をしていますけれども(笑)。そこまではできます。あとは、それをやってくれる人がいればいいなというスタンスでやっています。

四ツ柳 小さな企業にとって、自分たちが関与して公定法の裏づけになる仕事をしたとき、連名で名前が載っかっているというのは、非常に大きな励みになるんですね。そういう企業を元気づけるような効果も、作業そのものとは別にあるように思います。

大成 これからは高専でも起業が大切だと思っています。現在は、大学発ベンチャービジネス会社(VB)が1,500以上もできる時代となっていますが、私が聞いた範囲では、うまくいっているのは各大学で1件程度しかないようです。そこには、さまざまな問題があると思っていますが、大学でその状況ですので、高専でのVBの起業にはさらに厳しいものがあります。しかし、高専を本当に発展させるには、高専を強力に支援する目的を持ったVBの起業がぜひとも必要です。これとの連動がないと、社会に対して大規模な働きかけを持続的に行うことができないのではないかとさえ思っています。また、せっかくの素晴らしい成果が社会のなかで十分に生かされてきた事例も少なく、その意味からもVBが果たすべき役割を考えることが重要です。

高専発VBにおいては、次の3つの原則を整備することが不可欠です。その第1は独創的な技術のノウハウを確立することで、第2は、その知財構築と洗練化を行い、その積極的な知財戦略を持つことです。第3は、それらの技術に関する「情報ネットコア」を形成することです。これらが整ってくると、自然にインターネットを通じて問い合わせや発注が来るようになります。3年前に、(株)ナノプラネット研究所というVBを立ち上げ、これまでに日本の主要企業の約500社と取引を行うまでになりました。また昨年、(株)ナノプラネットという別会社も創設し、これから新商品を売り出す準備を行っています。私が一番願っていることは、これらの事業を通じて、高専の先生方との全国的な連携を発展させる強固な基盤形成を実現し、特に高専の若い先生方の支援を強力に行いながら、高専間連携を持続的に発展させることです。

大学発ベンチャー企業も、「つくってはつぶれる」時代に入っているのですから、これからは技術者教育だけではなく、企業としての経営問題を学ぶ課題も重要です。これは、これまでの技術教育において死角になっています。起業の意義や経営の重大さを認識し、企業が果たすべき社会的責任をも理解する、高専自らが、これらを実践的に理解する必要があると思います。また、企業との共同研究やインターンシップなどの交流を通じて、高専生においても、このような理解が一層進むことも大切ですね。

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四ツ柳 隆夫氏

四ツ柳 うちは先輩を使っているんですよ。先輩の社長が何人かいます。彼らを特別講義に呼んで、先輩ですから、先輩が自慢しても割と無事なんですよ。相手は「もの」ですから、本物に触れて、そこから苦労して何かをつかみ出していくトレーニングというのは、とても泥臭いものですけれども、それがやはり一番大事なんでしょうね。

ですから、やはりしようがないから学外へ、先輩の社長のいるところに弟子入りさせる、トレーニングをすることが、あまり金がかからない一番手っ取り早い方法なのです。ただ、そんなに大量に出せません、相手も小さいですから。ですけれども、学生というのはいいことに、行って帰ってくると、口コミで周りに体験を語って広げるんですね、こうだったと。それから、私どもも外国と交流していて、目下一番いい効果が上がっていると思うのは、外国から帰って来た学生たちが、向こうの学生の気迫が違ったと言うのです。かっこいいこと言うから、何が違ったのと言ったら、要するに授業中に寝ているやつがいなかったんだと(笑)。

教員の育成システムに課題

●ただいまの高専発ベンチャーのお話に関連して、先生方の育成システムはどうでしょうか。

江端 学生の創造性教育とか、そういういろいろな観点からいっても、例えば先生が何かアイデアを特許にしてそれを製品化することは、生きた授業として非常に教育効果があると思うのですけれども、実際にはなかなか難しい。何件かそういう事例があったんです。先生、これ、何とか製品にして売り出すともうかるような気もするんですがどうしましょうと言うので、やれやれと言うのですけれども、さっきおっしゃったように、いろいろな難しいことがちらちらとして、やめましたという感じなんですね。そういうものをあるところまでシステム的にバックアップするような何かがあるとだいぶ違うんじゃないかなと。特許のレベルの問題は、TLOとかそういうところで一応支援をしてもらうことにはなっていますけれども、それを自分で売り出すとなると、また、別のハードルがある。ものを単に作るということの他にマネジメントといいますか、そういうものについて、考えただけでも頭痛いからやめたというような感じなので、そういうシステムというかノウハウがあればいいんですがね。高専の先生方に要求するのは無理かもしれませんが、そういうものがあると、幾つかベンチャーが育ったかもしれないなという気はしています。

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聞き手:川村 志厚
    (本誌編集委員)

●今のお話は、高専の先生方に限らず大学の先生方も全く同様なわけで、やはりそこが日本の大学、高専の先生方の育成システム自体に問題があるんだろうとは思いますね。

四ツ柳 一番典型的なのはシリコンバレーをはじめとした米国ですけれども、外国では非常に若い人がベンチャーに乗り出す。動機がどこにあるかというと、優秀なベンチャーを立ち上げる人材に対してカリフォルニア州がバックアップしているんですね。どういうバックアップかというと、これは非常にインセンティブの高い強力なものです。30歳まで自由に何やっても冒険してもいい、30歳になって全部失敗したらおまえの骨は拾ってやる。要は、30歳になって全部失敗した子を州が州の職員として雇用してやる。だから、職の保障なんです。

小島 じゃあ頑張りますね。

四ツ柳 そうでしょう。ですけれども、その特権をもらえるのは、大学の卒業生の上位何%か以内なんです。

こんな保障があるから、学生たちは在学中も頑張るわけですよ。その中に入れば自分の好きなことを30歳までやれるし、骨は拾ってもらえる。これは日本にないんですよ。これはNASAの研究員から聞いたのですけれども、どうして米国はそれをやれるのと聞いたら、あの仕事をやりたいと戻ってきた学生に対して、必ず半年後にそのポストを用意する。だって、場所ないじゃないと言ったら、いや、パンチアウトするんだと言うんですね。今、そこにいるそれほどでもない人に、6カ月の猶予を与えて、あなた、ほかへ行ってくれと。この制度を持っているからできるんですよ。日本でそんなことやったら大変ですよね(笑)。猶予を6カ月もらったって、あなた、6カ月後に辞めてくださいなんて。だから米国があれだけ若い人を、しかもトップクラスがチャレンジする原動力はそこにある。これは日本じゃできないですよね。

(記事編集:登坂 和洋 本誌編集長)

事例紹介:群馬工業高等専門学校の産学連携

群馬高専の概要

群馬高専は、高等専門学校制度創設の昭和37年4月、全国12校の一つとして群馬県前橋市に設立された高専である。上越新幹線高崎駅から約8km、JR新前橋駅から約3km、関越自動車道前橋インターチェンジから約500mという立地条件である。当初、機械工学科、電気工学科、土木工学科が置かれたが、時代の要請に応えて改組・増設され、現在は、機械工学科、電子メディア工学科、電子情報工学科、物質工学科、環境都市工学科の5学科となり、平成7年4月に専攻科(生産システム工学専攻、環境工学専攻)が設置された。現在の学生数は約1,100名、教員数84名である。

教育理念として、科学技術を通し、地球と人の調和を図り、人類の繁栄に貢献できる人材を育成することを掲げている。スーパー・サイエンス・カレッジを目指しての基本戦略は、一貫した工学基礎教育による教育貢献と産学官民連携による地域貢献である。群馬高専の特色は、専攻科および大学・大学院への進学率の高さにあり、とりわけ難関の大学・大学院への進学者の多いことが目立っている。平成12年4月に産学官連携推進拠点となる「地域共同技術開発センター」を設置、平成17年5月には生産システム環境工学プログラムが日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定となっている。

群馬高専の産学官連携の特色

群馬高専地域共同技術開発センターは、地域の産業振興を図り、科学・工学教育の推進に貢献することを目的に設置され、技術相談室、セミナー室、精密測定室、研究開放室等からなる。最先端の分析・測定機器を活用した共同研究によって、世界に通用する新技術の開発を目指している。地域産業界との共同研究・受託研究、地域産業界への技術相談・学術情報の提供等を積極的に行っている。群馬高専と地域産業界等とを結ぶ連携組織は、平成9年8月に発足した「群嶺テクノ懇話会」である。群馬県内企業110社と県外企業5社(うち製造業約8割)、自治体等19機関が参加する地域密着型産学官連携組織の草分け的存在である。群馬県内には14の4年制大学(国立1、公立4、私立9)が、関東信越には他高専8校(国立6、公立1、私立1)があるため、一方では相互連携の動きがあり、他方では厳しい資金獲得競争が常態となっている。群馬高専では実効ある産学連携(「なんぼ」の地域貢献)を重視した取り組みを行っている。平成17年度の共同研究は19件、受託研究は11件であった。獲得外部資金も約7,150万円(17年度)で増加傾向にある。例えば、最近の産学連携の成果として、機械工学科下田教授(地域共同技術開発センター長)他による共同研究「半導体ガス用ボンベのウルトラクリーン技術の開発(カンサン(株))」で開発されたウルトラクリーン容器は国内のみならず米国、欧州、韓国等へも広く流通し、国際規模でのITビジネスの一端を担っている。また、共同研究「鉄骨加工用定規作成装置の開発((株)吉田鉄工所)」で実用化された製品「鉄骨くん」は、三菱重工業、川崎重工業などの大手企業をはじめ現在47社で大型鉄骨の加工に使用されており、鉄骨加工業界の技術の高度化に貢献するとともに、国内はもとより海外にも輸出され企業収益向上にも貢献している。

また、機械工学科小川准教授の受託研究「重度障害者向けインテリジェント電動車椅子の開発(群馬県中小企業振興公社)」の成果についても高い評価を受けている。活発な産学連携の成果として、群馬高専の特許による売上金額は、年間約1,000万円に及んでいる。

高専発! 産学連携の代表的事例
~人間が困った時に登場し、解決するのは炭である~

群馬高専の産学連携の具体的事例として、小島 昭教授の研究シーズ「炭素繊維による水質浄化・藻場形成」および「アスベスト無害化技術」をベースとする産学官連携について、小島教授への取材および提供いただいた資料を基に紹介する。

炭素繊維による水環境整備技術の開発は、11年前、炭素繊維が出している超音波に微生物が引き寄せられ付着、活性化し、水質を浄化していく作用を突き止めたことに始まる。その後の実験で、炭素繊維は微生物だけでなく、魚介を集める効果もあることが判明した。炭素繊維の持つ生物親和性を活用した新しい水環境整備技術は、微生物の大量固着、急速固着、生物代謝活性による水質浄化技術および魚介類の蝟集(いしゅう)、産卵、増殖、藻の育成促進による藻場の再生技術として大きく発展している。この水環境整備用炭素繊維は、関東経済産業局および群馬県の支援を受けて、織物産地の産業振興として製造され全国販売されているほか、伊勢湾再生プロジェクト技術シーズとして中部経済産業局に採択され、公共事業へも展開中である(横浜市:野島橋架替事業)。

図1

図1 水質浄化・藻場形成実施場所

この連携事例の特色は、市民レベルへの技術普及・促進を環境NPO(ジャパン・ウォーター・ガード等)や市民団体が担っていること、学校における環境教育教材として展開し(静岡県立三ヶ日高校、群馬県立藤岡高校、福島県立白河旭高校等)、全国150カ所以上の湖沼、河川、港湾(榛名湖、白河市南湖、稚内、天塩、伊豆沼、猪鼻湖、横浜金沢漁港等)で実施していること(図1)、新聞、TV、雑誌等のメディアによる取材・報道を活用していること、地域の小規模企業がかかわっていること(柿文織物、櫻井医科器研究所、フクオカ機業等)、これらの展開を官が支援しやすいかたちにしていることであり、産学官民連携のモデル的取り組みとなっている。具体的成果も顕著であり、例えば榛名湖では、炭素繊維人工藻場の設置によりワカサギが豊漁となり6億円の経済効果をもたらしている。この研究は外務省から世界145カ国に配信している「Japan Video Topics」にも紹介されている。

平成17年6月、アスベストによる健康障害問題が大々的に報道され、以降、アスベスト無害化処理技術の開発が世界的課題となった。従来、アスベストを分解するには1,500度の高温が必要でコストが高いため、埋め立て処分が主流となっている。小島教授はすでに平成10年ごろから無機繊維の一種である石炭灰繊維の用途研究とフロン分解物の再資源化の研究を行っていた。アスベストの有害性がつねに念頭にあったことから、平成15年、フロン分解物のフッ化カルシウム・炭酸カルシウムをアスベストに混合し700度で無害化する技術を開発した。しかし、フロン分解物は年間約1,000トンしか生成されず、量の確保が課題であった。平成17年、小島教授の指導する卒業研究から、塩化カルシウムや塩化ナトリウムを添加して低温の700~800度で無害化できる技術が開発された。各方面から多大な関心が寄せられているが、例えば、美濃窯業(株)とのアスベスト含有複合材の無害化処理装置の開発は、平成18年度「独創的シーズ展開事業委託開発」に選定されている。この技術普及のためにも市民との連携が必要であることから、平成17年10月にNPO法人アスベスト処理推進協議会(AMC)が設立され、活動している。

産学官連携事例から学ぶこと

小島教授によれば、その研究課題は、紙→炭→ゴミ→水→海→髪→石綿と変遷してきたが、研究開発の基本は「ミーハー研究のススメ」であるという。それは、ずばり「主婦がわかる研究、水戸黄門の印籠、新聞記者が書ける」研究である。炭素材と生物の関係を基本に据え、人工歯根、人工心臓、繭、きのこ、野菜、水質浄化、魚、藻場と範囲が広がってきた。産学官民連携の視点で、小島教授の新聞記事から引用して読者の参考としたい。「自分の研究が実際に何に役立つのかを常に考え、それを人々に使ってもらいたいという社会還元の視点を持つ必要があると感じます。また、他人のまねをせずオリジナリティのある研究をするべきだと思います。私はテーマを選ぶときは、『日陰』の研究を選びます。『日なた』にある研究を選んでも自分が後追いするほうになるからです。今注目されていないことは、これから必要とされ日のあたる時がくるのです。はるか先の話であっても『これを研究すると将来こうなるのだ』と夢を与え、ビジョンを示すことが科学者として必要なことではないかと思います」

(記事編集:川村 志厚 本誌編集委員)

事例紹介:徳山工業高等専門学校の産学連携

徳山高専の概要

JR山陽新幹線徳山駅から東に直線距離で約5km、山陽自動車道徳山東インターチェンジから北に約1kmの緑豊かな山の手に徳山高専のキャンパスがある。

徳山高専は昭和49年6月山口県徳山市(現、周南市)に設立された比較的新しい工業高専である。機械電気工学科、情報電子工学科、土木建築工学科の3つの複合学科からなり、境界領域を含めた専門分野において基礎理論に習熟し、実技に明るく、総合判断力に優れた実践的技術者の養成を目指している。平成7年4月専攻科(機械制御工学専攻、情報電子工学専攻、環境建設工学専攻)を設置、現在の学生数687名、教員数は61名である。

平成16年5月に、専攻科カリキュラムで構成している設計情報工学プログラムが日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定となり、平成18年度には「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に2件選定されている。平成3年10月発足の地域協力開発センターを発展的に継承し、平成6年4月に「テクノ・リフレッシュ教育センター」が、平成9年12月に「徳山高専テクノ・アカデミア」が発足し、産学官連携に貢献している。

徳山高専の産学官連携の特色

徳山高専では、教育・研究・地域貢献の有機的一体化、すなわち、教育-研究間の資源還元、教育-地域貢献間の人材活性化、研究-地域貢献間の産学官連携を基本思想としている。産学官連携組織の中核は、テクノ・リフレッシュ教育センターとテクノ・アカデミアである。前者は、交流の場をコンセプトに設計され、全国高専最大の広さを誇るもので、山口県や周南地域の行政、産業支援機関、大学、他高専と連携して、地域産業界との技術交流および地域社会における生涯教育推進活動を行っている。後者は、企業会員24社と徳山高専により構成され、定期的な企業訪問、人材養成講座、技術研修会、研究会、共同研究等を通じて産学官連携を推進している。平成17年度の研究契約件数は、共同研究20、受託研究2、寄付金40の計62件で、獲得外部資金も2,500万円を超えており、民間等との共同研究が年々増加しているのが注目される。技術相談件数は平成16年度から大幅に増加し、優に100件を超えている。いずれも地域企業等の課題解決に直結する連携事例である。例えば、最近の産学連携の成果としては、「人工関節の機能高度化に関する研究(機械電気工学科 桜本助教授:ナカシマプロペラ(株)メディカル事業部)」、「捕+虫紙上の衛生害虫同定のための特徴抽出画像処理アルゴリズムの検討(情報電子工学科 百田教授:(株)ブンシジャパン)」、「洗身シャワー装置用マイコン制御盤の開発(情報電子工学科 山田教授:(有)ネオ山口」、「タンク塗装用自走足場の設計(土木建築工学科 原教授:柏原塗研工業(株))」等がある。

高専発! 産学連携の代表的事例
~世界を変えるミラクルバブルの誕生物語~

徳山高専の産学連携の具体的事例として、大成博文教授の研究シーズ「マイクロバブル」から発展した多様な産学連携について、大成教授への取材および提供いただいた資料を基に紹介する。

平成7年、「マイクロバブル」という「未知の物質」を大量に発生させる装置が大成教授によって開発された。開発に至るまで10年余りにわたる研究の成果であった。

図1

図1 広がるマイクロバブル技術の適用分野

マイクロバブルとは、「その発生時において直径が10~数十マイクロメートルの気泡径を有する気泡」と定義されている。マイクロバブル技術は、「生物適応物質」としての「水」と「空気」を主原料とし、安全安心であるばかりでなく、優れた「生物活性作用」(生理活性作用と成長促進効果)を有することが最大の特徴である。平成16年、以下に述べる成果を踏まえ、発生装置とその利用技術普及のためにベンチャービジネス会社として(株)ナノプラネット研究所が設立されている。また、日本混相流学会および日本高専学会が中心となって、フォーラムやシンポジウムを連続開催、マイクロバブル技術の最先端ノウハウ開示と普及に努めてきたが、大成教授は、その中心的役割も果たしてきた。現在、マイクロバブル技術の大規模かつ急速な浸透が、「科学技術創造立国」政策の基本を成す重要分野で始まっている(図1)。

マイクロバブル発生装置開発から4年後、その真価が問われる機会が相次いで到来した。広島湾におけるカキ養殖(平成11年)、北海道噴火湾におけるホタテ養殖(平成12年)、三重県英虞湾における真珠養殖(平成13年)という二枚貝養殖の現場において、すでに発生していた「大量斃死(へいし)」問題をマイクロバブルの供給によって克服し、驚くべき成果を収めることとなった。例えば、400年に及ぶ広島カキ養殖史上はじめての「夏カキ出荷」や30年ぶりとなる「若カキ」復活、グリコーゲン含有量の多いホタテ、真珠生産額の大幅増等を実現させ、多数の水産養殖関係者を救ったのである。いずれも、地元の漁協、自治体、漁師等からの強い要望と期待に基づく産学連携の成功事例である。

これらの水産養殖現場における成果を踏まえ、マイクロバブル技術は、閉鎖水域の水質浄化、排水処理、温泉、洗浄、食品分野等へと適用され、予想を超える成果を上げている。

閉鎖水域であるダム等の貯水池は、その多くが生態系と生活環境に深刻な影響を与える水質汚濁問題を抱えている。ダム貯水池用マイクロバブル発生装置が中電技術コンサルタント(株)との産学連携により開発され、ダム貯水池全体をかき混ぜないで下層の無酸素水域を有酸素化する技術が確立された。貯水池のような閉鎖水域にとどまらず、諫早湾の閉鎖に関連して環境悪化した有明海の蘇生(そせい)にもマイクロバブル技術が生かされた。この有明海再生のプロジェクトは、地域3高専(有明、神戸、徳山)を中心に産学官連携組織を立ち上げて実施された。その結果、装置を設置した浜では、有明海再生の指標となるタイラギおよびアサリの飼育に成功、浜砂の質が向上したほか、アオサ、赤貝、岩ガキ、ヤドカリが大発生し、多数の生物が多様に生息する環境が出現した。

排水処理へのマイクロバブル技術の適用として、シャープ(株)の半導体製造主力工場である福山工場での取り組みがある。マイクロバブル発生装置により、エアレーションタンク内の微生物総量が大幅に増加し、無希釈で高濃度のアンモニア性窒素および過酸化水素水を含む排水の処理が可能となり、発生装置1機が約20倍の効率をもたらした計算になる。

温泉へのマイクロバブル技術の適用として、俵山温泉白猿の湯での取り組みがある。湯治客の減少により深刻な経営状況に陥っていたが、発生装置の移設により温泉水の生理活性をより高めることが可能となり、客数8割弱増というV字回復を果たした。

マイクロバブル技術を各種の洗浄に適用する事例が急増している。半導体、機械加工部品、自動車部品、繊維、布、野菜、食料品等、さまざまな分野での発展が期待されている。例えば、メガネレンズ製造の洗浄工程が20分(12工程)から3分(1工程)に短縮されている。マイクロバブル技術を船舶の摩擦抵抗軽減に適用して省エネ化を実現する取り組みが三井造船昭島研究所において実施されている。

産学官連携事例から学ぶこと

大成教授の産学官連携への取り組みには明確なプリンシプルが読み取れる。以下に講演論文から引用して読者の参考としたい。「マイクロバブルには優れた物理化学性と機能性があり、それらを踏まえた技術開発、新商品づくりが重要である。その際、独創的な戦略商品性の検討が必要となる。独創とは、従来にない新規性を有することであり、戦略性とは、既往の商品と戦って勝てる能力を有することを意味する。……このような新規市場の開拓が可能になるかどうかにおいて、もっとも重要な問題は、マイクロバブルの物理化学性とヒトへの生物活性効果において抜群の優秀性を見いだせるかどうかにある。それを踏まえ、今後も、独創的戦略性に富むマイクロバブル技術の新開発に取り組み、それを新産業創成に結び付けることがより一層重要な課題となるであろう」

(記事編集:川村 志厚  本誌編集委員)