2007年5月号
連載1  - 産業界に聞く産学連携
東京CRO株式会社 代表取締役社長 西山 利巳氏に聞く -製薬産業における産学連携:CROの役割を中心に
顔写真

西山 利巳 Profile
(にしやま・としみ)

東京CRO株式会社
代表取締役社長


聞き手・本文構成:加藤 多恵子 Profile

(前 本誌編集長)

臨床試験、データ解析、メディカルライティングなどで製薬会社の新薬開発を支援するCROの役割を説明し、わが国の製薬産業発展にはその活用が不可欠と説く。

●西山社長は大学卒業後、大企業で、当時花形産業だった化学繊維事業にかかわられ、会社の留学生として米国の州立大学で化学および生化学の博士号(Ph.D.)を取られました。帰国後、会社の未来事業としてスタートした医薬事業、医療事業に従事され、その経験をベースに起業家精神を発揮され、独立して現在の東京CRO株式会社*1を立ち上げられたと伺っております。

まず、貴社のCRO業務について、また、CROが必要となった時代背景の経緯も併せて伺いたいと思います。

CROの業務とは

西山 CROはContract Research Organizationの略語で研究開発の受託事業ですが、業務の中心は医薬品の臨床試験です。まず、なぜこの仕事が医薬品産業にとって大切なのかご説明しましょう。

新薬の承認申請に用いるデータを収集するための臨床試験を治験といいますが、治験では、それまでの非臨床試験(細胞・動物を用いる試験)の結果を受けて、直接にヒトを対象として新薬の有効性と安全性を確認する段階です。評価しようとする試験薬を被験薬といい、被験薬と対照薬を無作為にグループ分けした被験者さんたちに投与してその結果を比較します。これを無作為化比較試験と言いますが、ご自分がもらった薬がどちらの薬かが被験者さんには見た目では分からないようにする必要があり、これを盲検試験と言います。また、担当医にも分からない仕組みでやる場合は、これを二重盲検試験と言います。治験では、このように厳密な計画と管理のもとでデータを得なければ、有効性も安全性も確かなものにはなりません。治験は、数十名の健常者に行う第I相試験(1年間以内)、最大数百名の被験者さんで行う第II相試験(1~2年間)、最大1,000例の被験者さんを対象とする第III相試験(2~4年間)をこの順で行います。なお、被験者さんはすべて募集によるボランティアです。

CROの仕事は臨床試験全般に関する仕事ですが、特にCRO業務の中心である臨床試験モニタリングは、医療施設を訪ねて計画通り試験が進んでいるかを調べ、被験者さんに関する「症例報告書」をチェックして記入漏れや誤りを見つけたりします。「症例報告書」には有効性と安全性に関する基本データが書き込まれますが、ここがいいかげんだと臨床試験の信頼性は根底から揺らいでしまいます。

データマネジメント、生物統計解析業務も会社の重要な機能です。臨床試験のデータの取り方の設計、計画から始め、取られたデータの扱い方、解釈の仕方などは事前に生物統計解析により計画しておきます。ここでは生物統計学、医学統計学といった学問がベースとなります。この分野の日本のパイオニアである東京大学の大橋靖雄教授は、常々日本の臨床試験の生物統計解析能力が弱いことを憂いておられ、自らスタットコム株式会社を立ち上げてデータマネジメント、生物統計解析のレベルアップに努めてこられました。弊社はスタットコムと提携することで、レベルの高いDM統計本部を設置することができました。実際、データの扱い方や解釈の仕方を誤れば、研究開発の莫大な費用と時間が水泡に帰すこともあるのです。

次に、メディカルライティングの機能があります。つまり、治験総括報告書や申請書などの臨床試験に関連する文書の作成、専門誌に投稿するための報告論文・総説の作成、医薬品・医療機器の添付文書の作成、製品の安全性に関する国際的な情報の紹介や発信など、いずれにも専門的な知識と経験が求められます。この分野のレベルアップを図るべく、2002年に日本メディカルライター協会(2006年よりNPO法人 理事長 大橋靖雄)*2が発足しました。私は裏方として発足に協力しました。現在、同協会には、東京CROの社員、同業者や製薬会社、マスコミなどの社員や関係者が参加して研さんに努めています。欧米では早くからメディカルライターが専門職として認知されています。医師、看護師などの専門職に向けてのみならず、社会に向けての科学的に正しい情報伝達やコミュニケーションの重要性の認識が進んでいるようです。

以上から、臨床試験がいかに専門的な知識と細心の注意、多くの人手を要するものか分かっていただけたでしょう。個々の製薬企業がこのすべてを自社で備えるのは荷が重過ぎるし、リスクが高い。そこにCROの存在意義があります。

CROは1970年代から始まりましたが、1982年に米国ノースカロライナ州で、ギリングス氏が大学発ベンチャーとしてクインタイルズ社(Quintiles Transnational)を興しました。現在このグループ企業は総数16,000人の社員を擁する世界一のCRO企業に成長しました。このころ、アムジェン(Amgen Inc)というバイオベンチャーも設立され、今は大企業に成長しました。このころの米国のベンチャー設立の動きは、レーガン大統領の指揮のもとに1980年に米国で制定されたバイドール法(the Bayh-Dole Act, Patent and Trademark Act Amendments of 1980)がきっかけになりました。日本では1995年にできた科学技術基本法、1996年にできた第1期科学技術基本計画(主に基礎研究を支援)がこれに相当します。また、1997年に新GCP(Good Clinical Practice)省令が公布されて厳密な臨床試験が義務付けられました。ちなみに東京CROは1996年に設立しました。それ以前から、歴史的に製薬会社が臨床試験のモニタリングをやってきましたしCROもありましたが、臨床研究、臨床試験に対する認識は大変に低かったのです。医療機関の臨床試験実施体制も未熟で、試験の規模も小さく全体として低調でした。今でも臨床医学の国際一流雑誌への日本からの論文数は世界第14位にすぎません。徐々にレベルアップされましたが、今でも欧米にキャッチアップすべく官民挙げての取り組みが続いている状況です。

産学連携でのCROの役割

●新薬や新医療機器の開発では、最後の臨床効果を確認する段階はハードルが非常に高いのですね。それでは、産学連携でのCROの役割についてお話しください。

西山 医薬品で言いますと、生命科学の基礎研究では国際的な一流学術雑誌の掲載数で日本は米、英、ドイツに次いで4位に入ります。国立大学の行政法人としての整備も進み、最近は大学発バイオベンチャーの設立も盛んです。私も大学発バイオベンチャー協会*3(会長 水島 裕)の幹事長としてこれを応援してきました。しかし、薬は臨床試験のレベルまで進まないと本当の価値が分かりません。優れたシーズを持っている大学やベンチャー企業には、CROとの連携でそのあたりのデータが出てくると、製薬会社も目を向けてくれるようになります。そこまでいくのに10年かかります。大学発バイオベンチャーについて言えば、日本もこの5年から10年が勝負どころだと思います。

日本の製薬産業にとって、産学連携はすごい意味があるのです。成功体験を持つ民間の企業が加わって初めて製品が出せるのだと思います。中間に立ってその橋渡しをするのがCROなのです。私どもの取り組んでいる一例を挙げると、群馬大学医学部/工学部との医工連携によるDDS(Drug Delivery System)の開発があります。昨年、JSTのプレベンチャーに採用されました。

東京CROの今後の抱負

●東京CROの今後の抱負をお聞かせください。

西山 先に申し上げたように、日本のCRO活動は米国に15年のタイムラグがありますので、米国の様子を見ても、日本でこれから10年間は需要が膨らみます。顧客は大手製薬会社(内資、外資)、医療機器会社(内資、外資)、大学発バイオベンチャーなどのベンチャー企業、医師主導の臨床開発プロジェクトなどです。

臨床開発では、CROに関連した事業として、東京SMO株式会社(Site Management Organization)を立ち上げています。これは、臨床試験を実施する医療機関側においてサポートする会社です。さらにその先にある事業としては、製品を受託販売するCSO(Contract Sales Organization)、製品を受託製造するCMO(Contract Manufacturing Organization)などを目指します。つまり、総合CROとかCPO(Contract Pharmaceuticals Organization)といった概念の事業グループに拡大していきます。このような中期的計画のもと、事業開発部門の開発コンサルティング部は直近の課題に取り組んでいます。例えば、海外メーカーが日本で行う臨床試験の治験国内管理人の仕事、海外メーカーが原薬等登録原簿(MF:ドラッグマスターファイル)に日本で登録する際の、登録申請書類の作成やMFの国内管理人の仕事などにも取り組んでいます。

医療機器では、すでに東京メディカルCRO株式会社を立ち上げて業界をリードしています。

また、海外ではアジアのリーダーになることです。アジア戦略では、台湾のPPCというナンバーワンのCROとの取り組みをはじめ、また北京には3年前から常駐しています。中国の展開が本格化するのは北京オリンピックの後だろうと思っています。

●本日は貴重なお話をありがとうございました。今後のご発展を祈念しております。

*1 :東京CRO株式会社
http://www.cro.co.jp/

*2 :特定非営利活動法人 日本メディカルライター協会
http://www.jmca-npo.org/

*3 :大学発バイオベンチャー協会
http://www.daigaku-bv.com/