2007年5月号
連載2  - 産学官連携コーディネーターの事例に学ぶ
研究者と共同作業で公募申請

近藤 孝 Profile
(こんどう・たかし)

岩手大学 東京オフィス 客員教授

補助金申請の手続きなどで研究者をこまめに支援して信頼関係を築き、連携の実績を挙げていった体験談。研究者とのコミュニケーションが大切であるというメッセージでもある。

はじめに

文部科学省の産学官連携コーディネーターとして岩手大学に配置され、3年間活動を行ってきた。全く人脈のないところで研究者との信頼関係を築き、種々の競争的外部資金に研究者との共同作業で応募することができた。今回は科学技術振興機構(JST)の試験研究制度「シーズ育成試験(現在のシーズ発掘試験)」を例にとり、活動の事例を報告したい。

研究者との信頼関係の構築

岩手大学に着任して、まずは研究者のシーズ調査から始めた。1日に3~4名の研究者を訪問しシーズを教えていただいた。並行して、INS(岩手ネットワークシステム)の企画会議に参加させてもらい、INSの行事に積極的に参加し、講演会などの場合は受付、会場準備などの手伝いをしながら懇親会にもすべて参加して研究者との信頼関係を築いていった。さらには、平成17年3月にINSとして初めて東海地区でイベントを行ったが、その際には文部科学省の産学官連携推進企画の募集に応募し採択を受け、イベントの費用約190万円を調達したことで信頼関係が深まった。

INSとは
図1

図1 INSと岩手大学・地域

INSは、図1に示すように、岩手大学と地域(岩手県、産業振興センター、地域の企業)とがアメーバのように緩やかに連絡を保ちながら、情報が行き来する私的な組織である。比較的異動の少ない岩手大学の研究者が事務局業務を行っていること、私的な組織であることがこの仕組みを長続きさせている秘訣(ひけつ)である。平成15年には、この活動に対して産学官連携功労者表彰を受けている(図2)。

研究者と親しくなり産学官連携活動を行うにはふさわしい組織である。

「シーズ育成試験」が始まる
図2

図2 平成15年度産学官連携功労者表彰

学内シーズの調査活動中であったところに、タイミング良くJSTから「シーズ育成試験」の公募が出された。それまでの活動で親しくなった約60名の研究者をピックアップし、研究者に申請の意向を電話で確認した。この意向確認はメールよりも、電話で行うのが良いし、学内で出会ったときに申請を勧めるのが効果的であった。

コーディネータネットワークが威力を発揮

JSTから申請に関する説明があったが、威力を発揮したのは、他のコーディネータからいただいた「応募のポイント」である。研究者は科学研究費補助金の申請書を書き慣れているので、つい研究内容に重点を置いて書いてしまう傾向があった。しかし、「シーズ育成試験」は新規性・独創性、実用化の可能性、今後の研究計画に採点の重点が置かれている。自ら「応募のポイント」を理解し、研究者に申請書の書き方に注意するように促した。

申請書の作成

大学の研究者は論文や著書を書き慣れているので、他人に自分の意思を伝える作業は“おはこ”であろうと思っていた。ところが、「シーズ育成試験」の申請書を読んで驚いた。文章の起承転結がはっきりしていない申請書、表現が分かりにくい申請書が意外と多く見受けられた。シーズは良い内容であるにもかかわらず、このままでは不採択となるのが目に見えており、もったいないと感じた。研究者が述べている趣旨は変えないように注意しながらコーディネータが申請書を書き直し、研究者に了解を求めた。全員の研究者がコーディネータの書き直しを認めてくださり感謝されたのは意外であり、またうれしかった。

超多忙な研究者に代わり実務

コーディネータが研究者の論文を読み、研究者のシーズを聞き取り調査して、研究内容を含め申請書をすべて作成したものもある。超多忙な研究者に対しては、コーディネータとしてこのような支援が必要であると思う。口先だけの評論家は必要ないが、実務面での支援を研究者は求めている。

コーディネータの活動の「見える化」ということが昨今言われているが、コーディネータが表舞台に立つということではなく、黒子に徹しながら研究者や大学に存在と必要性を認められるということが「見える化」であると思う。

高い採択率を確保

「応募のポイント」を理解し、研究者と一緒に申請書の内容を高めた結果、平成17年度の「シーズ育成試験」は採択率26%、採択件数は7件であり、平成18年度の「シーズ発掘試験」は採択率28%、採択件数は5件であった。そして、今回一緒に苦労を重ね、採択された研究者からはもちろん、不採択の研究者からも非常に感謝され、その後いろいろな依頼を快く引き受けてくださるようになった。こうした競争的外部資金獲得の活動を通じて研究者とコーディネータとの信頼関係が深まり、産学官連携活動を推進する大きな力となった。

失敗事例もある

「応募のポイント」を事前に連絡していてもそれを受け入れてもらえるとは限らない。科学研究費補助金と同じ感覚で申請書の研究内容を記載するという自分流を押し通す年配の研究者もいた。今後、相互の信頼関係を築く努力を継続する一方で、研究者とコーディネータとの連携不足は失敗することを認識してもらう必要がある。

また、1人のコーディネータが受け持つ件数には限界がある。平成17年度は1人で27件を申請したが、コーディネータが十分に内容をチェックする時間が無いケースもあった。コーディネータ1人の受け持ち件数は15件ぐらいが限度であると思われる。

地域のコーディネータとの共同作戦

地方大学にはコーディネータが潤沢にいるわけではない。平成17年度の失敗を踏まえ、平成18年度からは大学内の産学官連携の専任教員も「シーズ発掘試験」のコーディネータを務めていただいた。

さらに、岩手県内のコーディネータで結成した「コーディネータ研究会」で「シーズ発掘試験」の獲得作戦と分担などを相談した。「コーディネータ研究会」には岩手県庁の職員も参加して議論を行い、岩手県庁の職員にもコーディネータを務めてもらった。

このように地域、あるいは県を挙げて「シーズ発掘試験」獲得の作戦と分担を相談し、コーディネータがそこに参加することは、コーディネータが地域振興のために大きな役割を担っていることを物語っている。

まとめ

JSTの「シーズ育成試験」を例にとり、研究者とコーディネータが共同作業で競争的外部資金に申請し効果を挙げた経緯を述べた。コーディネータは普段から研究者と信頼関係を築いておくことが必要である。また、コーディネータは実務面で研究者の支援をすることが必要である。

そして、コーディネータネットワークを活用して申請の秘訣を入手したり、地域との共同作戦を行ったりして地域振興のために働く視点がコーディネータには必要であると思う。