2007年5月号
連載3  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
携帯電話利用のQRコードシステム-ITイノベーションを生活に活かす- 宮内 淑子氏(メディアスティック株式会社)に聞く
利便性とセキュリティーの強化を同時に追求する携帯電話のデータベースシステム。ユビキタス社会を実感できるような技術革新である。

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代表取締役
      宮内 淑子氏

メディアスティック社*1は筑波大学発のベンチャーだ。北川高嗣教授の開発した個人認証、個人情報保護技術が基になっている。平成18年11月、つくばベンチャー大賞の「つくば・IT賞」を受賞した。ユビキタス社会の到来を迎え一人一人の暮らしに役立つアプリケーションとして提供しているのが宮内社長だ。社名の「スティック」とは「くっつける」と言うこと。企業理念に「ITストレスフリーのユビキタス情報環境の創造を目指す」とある。

携帯電話がユビキタス社会を実現させる

1993年、米国ゴア副大統領が情報スーパーハイウェイ構想*2として、いわゆるマルチメディア政策を掲げたとき、わが国ではその意味を正しく理解できる人は少なかった。それ以降、世界は「ウィンテル」と称されるマイクロソフトとインテルを中心としたITイノベーションが進行した。産業の米と言われた半導体の進化がデジタル化を加速した。「マルチメディア」は「IT革命」に読み替えられ、今や「ユビキタス」という言葉が当たり前のように使われるようになってきた。

わが国では、携帯電話の進化、発展が目覚しい。9,000万台と言われる携帯電話のうち、IP接続によるインターネット利用は8,000万台を超えた。iモードサービスが始まったのが1999年2月、1年後に447万人が利用したが、わずか7年間で20倍に膨れ上がった。サービスコンテンツも多種多様なものが開発された。電話機本体を見ても、デジカメ、音楽携帯、カーナビ、ゲーム、テレビ、ラジオ、決済システム等の機能を飲み込み、増殖は止まらない。日本におけるユビキタス社会を実現する役割を携帯電話が担うのはほぼ間違いないだろう。

ユビキタス社会を安全で身近なものに

メディアスティック社は携帯電話を利用し、QRコード*3を駆使したシステムを提案している。代表的なものとして

1. TV-X:テレビ画面用最適読み取りQRコード
2. データジグソー:個人情報管理システム
3. インサイトエクスプローラー:QRコードによるデータ収集システムがある。

テレビや雑誌のイベントに参加しようとする時、画面や誌面に表示されているQRコードを携帯電話で読み取り、送信するだけで申し込みが完了する。電話やパソコンから参加する場合は、伝達ミスや入力ミスの心配もあった。一方、イベント企画者にとっては、コールセンターの人員を減らしたり、受発注業務の効率化が図れるなどメリットは大きい。さらに最近問題となっている個人情報の漏えい問題もデータのジグソーパズル化で一気に解決してくれることになる。QRコードによるイベントシステムはキーボードの操作に苦手な人たちの参加も促すことになる。「くっつける」ということは、ITと人をくっつけたり、人と人との情報をくっつけることを意味するようだ。ユビキタス社会がもたらす豊かな生活に、すべての人たちが参加する機会を与えてくれるのがメディアスティック社ともいえるだろう。

人とのつながりを大事にして

宮内氏の原点は「人とのつながり」。NHK・民放のキャスター、パーソナリティー、ディレクターとして活躍してきたが、人と人とのつながりにこだわってきた姿勢は変わっていない。兵庫県の行政アドバイザーを務めていた縁で、阪神淡路大震災では「兵庫再生支援の会」をいち早く組織し活動した。1998年には、21世紀を迎えるにあたり、産業の革新を予見し、「次世代産業ナビゲーターズフォーラム」を立ち上げた。各界を代表するメンバーを組成し、80回以上の勉強会を開催し、現在も情報発信をし続けている。人と人とのつながりをプロデュースするときの宮内氏の行動は速い。メディアスティック社の設立は2000年6月だが、人とのつながりを一段と具現化するために、今度はベンチャーが最適な手段と判断し実現しようとしているに違いない。その意味では次の一手は何か? 既に考えているのかもしれない。

筆者の感想

宮内氏は独自の行動力を通して人的ネットワークを構築してきた。そこで培われた人的資産が次の行動を生んできたと思われる。しかし、ベンチャービジネスには、モノを売り、利益を株主に還元することが求められる。良いものが必ずしも売れるとは限らない世界に飛び込んでしまった。高い志をもって信念を貫くことは、自らが泥臭く売って歩くことに他ならない。一つ一つのシステムがデファクトスタンダードとして認知されるまで、これまでとは違う厳しい試練が待っている。

●取材・構成: 平尾 敏
(野村證券株式会社 公共・公益法人サポート部 課長/本誌編集委員)

*1メディアスティック株式会社
http://www.mediastick.co.jp/

*2情報スーパーハイウェイ構想
光ファイバーを用いた高速デジタル通信網で、家庭・公共施設・企業・政府を2015年までにつなぐ構想。

*3QRコード
白黒の線で直線的に読み込んでいくのがおなじみのバーコード。縦・横に情報を読み取るのが二次元コードで、その内のひとつがQRコード。情報量は文字換算で、バーコードであれば20文字程度のものが2,000文字程度と大幅に飛躍している。