2007年6月号
連載4  - ヒューマンネットワークのつくり方
産学官連携におけるネットワーク構築と活用
-早稲田大学におけるインキュベーションと地域振興の現場から-
顔写真

池田 泉 Profile
(いけだ・いずみ)

早稲田大学 産学官研究推進センター
インキュベーション推進室 主任


インキュベーション活動と東京都墨田区との連携事業で経験した多くの人々との交流。具体的な成果を急がないネットワークづくりの意義を説く。

はじめに
インキュベーション活動および東京都墨田区との連携事業の現場で学んだこと、得たことは数多い。現場で難題にぶつかるたびに地域・企業・行政の方々のネットワークに助けられ、身をもってその有効性、重要性を痛感してきた。そこで培ったネットワークは私たちの活動にとって貴重な資産となっている。本稿では2つの業務に携わってきた経験の中でネットワークの構築・活用に関連した取り組みを報告し、併せて現在計画中の話題についても触れてみたい。

インキュベーション活動とネットワーク構築・活用

早稲田大学発ベンチャーの創出および支援を目的に、2001年10月にインキュベーション推進室*1(現在は産学官研究推進センター)を開設した。 活動も5年を経過し、ようやく学内のベンチャーに対する啓発や組織を横断した協力体制も整いつつある。一方、私立大学で先駆けたインキュベーションの構築という使命により懸命に走ってきたものの、支援の原動力とも言えるネットワークの構築・活用については、十分とは言えない。この点の反省も踏まえて幾つか議論検討している中から、以下新たに展開する2つの取り組みを紹介したい。

1. ワセダ インキュベーション コミュニティの構築

本学の会員数50万人を超える校友会組織は、まさに人材とネットワークの宝庫であると言える。ベンチャー支援に意欲的なOB人材を広く取り込むことで、その知識・経験をインキュベーションに活用していく。また、既存会員の金融系企業に加え、共同研究先企業や技術移転先企業、すでに成功を収めたベンチャー企業にも支援する立場としてネットワークに参加してもらう。これらはアーリー期ベンチャー事業推進の有力なパートナーとなる。TLOは両者の情報を持っており、効果的な新規事業のコーディネートを行えるであろう。

最後に、再構築した新しいネットワークを活性化させるツールとして、ビジネスプランコンテストの開催、WTLOテクノロジーリンク(学外向けのマッチングイベント)でのビジネスプラン&シーズ発表会、会員向けメールマガジンの発行等を順次実施していく。また、本学出資制度の次のステップとしてファンドの検討や試験的運用の場としても機能させていきたい。

2. インキュベーター間のネットワーク構築

本学には産学連携に意欲的な大学との協定が多数ある。その一つが九州大学知的財産本部との連携である。2007年3月に九州大学が主催した単位科目「ロバート・ファン/シリコンバレー・アントレプレナーシップ・プログラム」に本学の教職員2名、起業志望の学生ら4名が参加した。授業を通じての九州大学の学生との交流は、刺激的で貴重な経験であったと思う。今後、お互いのノウハウやネットワークといった資源の共有を行い、人的交流を深めながらインキュベーションを推進していくことを検討している。また、同じく交流がある財団法人 京都高度技術研究所には、会員ベンチャー向けのシェアードオフィスがある。本学も同様のサービスを提供することで、両ベンチャーの相互利用を実現させる。やがてはベンチャー同士の連携につなげていければと考えている。これが、他の協定校や各自治体、海外のインキュベーターへと広がればさらに強力なネットワークになるであろう。

墨田区との連携事業-地域振興におけるネットワークの形成

本学は、2002年12月に墨田区と地域振興を目的とした包括協定の締結を行った。共同研究や技術移転の産業振興のみではなく、人材育成、街づくり、教育活動等、大学が持つ資源をすべて投入しての幅広い地域振興を行うことを目的にしている。現在、年間30ものプロジェクトが進行する先進的なモデル事業になり、さまざまなプロジェクトの活性化につながっていった要因は、具体的な成果を急がず地道なネットワークの形成を優先してきたことにあると考えている。現在も継続して行っている取り組みを簡単に紹介したい*2

1. すみだ産学官連携クラブに意欲的な墨田ものづくり人材・企業が集結

協定が調印されると間もなく、産学官連携の事業に未来を託した経営者約30人が集まり「すみだ産学官連携クラブ」を発足させた。大学・行政にとっても協定を形骸化させないためにも、コアとなるネットワーク・プロジェクトを立ち上げて具体化することが必要だった。クラブが中心となり、大学教員・ベンチャー企業も参入して、マルチマイクロ発電機(MMD)の開発プロジェクトがスタートし、2005年に製品化され各地に納入された。この代表的なプロジェクトに誘引され、以降、他のグループの設立や、参画に躊躇(ちゅうちょ)していた中小企業も産学官連携事業を積極的に活用するようになった。2006年2月にはMMDに次ぐ第二弾として「すみだエコモビリティ開発コンソーシアム」を立ち上げ、2011年の事業化を目指している。

2. 早稲田ビジネス講座が中小企業と大学研究者をマッチング

年間6回程度を目安に、大学研究者がすみだ産学官連携プラザを訪問しセミナー&研究会を開催している。昨年度からは地元企業・区民の方々を大学に招いて研究活動の現場を体験していただくツアーイベントも行っている。狙いは、一方的な講義だけでなく、研究者との自然な交流・対話を行う場を提供してネットワークを形成していくことにある。地元企業との共同研究・出願に至ったケースの大半は、この講座によって研究者と経営者の交流が始まったことがきっかけである。

3. リエゾンオフィス設置と行政との綿密な連携

すみだ産学官連携プラザには早稲田大学発ベンチャー企業や研究室を入居させ、地元企業や区民団体と共に活動を行っている。そのうち1室は、早稲田大学リエゾンオフィスとして、担当職員やTLOアドバイザーが、区の窓口である「すみだ中小企業センター」との企画調整や、区内企業から持ち込まれる相談に対応しており、ネットワーク形成の拠点としても有効に機能している。

最後に

なにしろ私自身経験不足であり、いかに「ヒューマンネットワーク」を形成し活用していくか? という課題と常に格闘しているのが実情である。例えば、一職員の立場で考えると、築いてきた貴重なネットワークをどのように継続させていくかに危機感を覚えている(人事の異動によりネットワークが寸断されることがあってはならないと思うが、これは何も自分の組織だけの問題ではないような気もする)。今後は築いたネットワークにおいて、相互の資源やノウハウを共有し、情報の流通量を上げていくことが使命だと感じている。読者の皆さまにとってご参考になったかどうか不安だが、これを機会に私どもの取り組みに関してご意見・ご指導を賜ることができれば嬉しい。また、今後さらに産学官連携にかかわる皆さまとの新しいネットワークが拡大し、交流が生まれることを願っている。

*1
早稲田大学 産学官研究推進センター/インキュベーション推進室
http://www.waseda.jp/incubation

*2
墨田区・早稲田大学産学官連携事業紹介サイト
http://www.wic.waseda.jp/sumida/