2007年7月号
連載2  - 産学連携で世界に挑む
株式会社エリオニクス
超微細加工で世界トップ目指す 設備開放し研究者と連携
顔写真

藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 産学連携推進部
人材連携課 技術参事/本誌編集委員

東京都八王子市の株式会社エリオニクスは世界のトップレベルの超微細加工、測定装置のメーカー。その技術力はどう生まれたのか。年商25億円の中小企業の秘密に迫る。

大学や研究機関の先端的な研究成果は、経験上、大企業向けよりも研究開発型の中堅・中小企業向きのものが多い。しかし、先端的であるだけにその研究成果の実用化までには多くの人材、時間、研究開発費などを要するため、事業にまで結び付けている企業はそれほど多くないし、事業化しても市場の視野を世界に向けている企業は少ないのではないかと考えられる。

そこで産学官連携を軸に、企業規模は小さいものの、世界トップレベルの技術を持ち、世界の市場に製品を提供している元気な中小企業をいくつか紹介したい。

写真1

写真1 超高精度電子ビーム装置ELS7000

今回は、多くの大学や公的研究機関と連携しながら技術力を高め、ナノテクノロジー時代に必須とされる5nm*1の極細線が描ける「電子ビーム描画装置」(写真1写真2)など世界トップレベルの装置を開発・提供し続けている株式会社エリオニクスを紹介する。

エリオニクスの生い立ち
写真2

写真2 5nmライン

創業は今から約30年前の1975年。日本電子株式会社の物理系、電気電子系、機械系の技術者7名が設立した。いわゆるスピンアウトの形ではあるが、オイルショック後当時の日本電子(株)の苦しい状況を少しでも軽減したい思いの退社であったため、今でも両社は良好な関係が続いている。これは、「競合製品は一切つくらない」、「創業当時受けた恩義を今でも忘れない」という同社社長の本目精吾氏の言葉からもうかがうことができる。

世界トップレベルの技術力は産学連携により磨かれる

創業2年目の1976年、通産省(現 経済産業省)の肝いりで「超LSI技術研究組合」が発足、組合に参加した半導体製造装置メーカーと共同で電子ビーム、イオンビーム装置の開発を進めたことが同社のコア技術をさらに磨くきっかけとなった。

1990年代に入り、大手メーカーとのすみ分け(差別化)のため、従来よりも1桁微細なサイズへの挑戦を試み、超微細加工装置、超微細測定装置などを次々に開発していった。

開発にあたっては、東京大学、京都大学、東北大学、東京工業大学、長岡技術科学大学、産業技術総合研究所などの大学・研究機関との密接な連携がカギとなっている。

例えば、「こうすればこのような装置ができるはず、こんな装置が欲しい」という大学側の思いやニーズを、同社の「ものづくり技術」により実現していくプロセスを通じて技術力を磨いてきた。先端研究における加工装置、分析測定装置の占める役割が大きくなってくるにつれて、同社の果たす役割が重要になってくる好循環が生まれている。

特に、1cm角の小さい範囲に100万本以上の線を描く「極微細電子ビーム描画装置」、凹凸のある試料表面の精密計測ができる「電子線三次元粗さ解析装置」、超薄膜でも測定可能な「超微小押込み硬さ試験機」は他の追随を許さない。

例えば、微小押込み硬さ試験機では押込み量計測の分解能0.2nm以下の計測に挑戦しようとしている。0.2nmと言えば、原子1個に匹敵する。

連携を促進する仕掛け

同社には本社スペースの1/3を占める部屋があり、そこに超微細加工装置、分析測定装置など13台を設置しており、大学・研究機関等の研究者が常に使える状態にしてある。

オペレーションは同社が行うが、用途は研究者の自由で、中にはこれらの装置を使用して卒論を仕上げる学生もいるそうである(牧内昌幸常務)。

このスペースを通じて、大学・研究機関等のニーズが把握でき、研究者との連携・交流が深まっていく。さらに、将来、同社の装置を購入してもらえる顧客につながっていくため、マーケティングの主要な場ともなっている。

ちなみに、同社の装置購入先として、70以上の国公私立大学、40以上の国公立研究機関、大手企業研究所も200社以上が名を連ねており、海外では、北米、韓国、台湾、シンガポールなどに輸出している。

このような「仕掛け」は、他社でも十分参考になるのではないだろうか。

人の育て方

若手技術者には、受注から設計、制作、納入まで一貫して責任を持って担当させており、顧客からのクレームは解決するまでやってもらうことで自主性を養っている。また、地域新生コンソーシアムなどのプロジェクトへの参加や、博士課程への派遣を始めたところである(本目精吾社長) 。

しかし、ベテラン技術者の「できるはず」という態度を、若手技術者にOJTで見せている効果も大きいのではないかと感じた次第である。

取材して確認できたこと
1. 産学連携は研究開発型のものづくり企業を育てる。
2. 社内に大学等の研究者が自由に使えるスペースを設けることにより、産学連携を促進させるだけでなく、顧客開拓に生かすことができる。
3. 不安はあっても思い切って若手に業務プロセスを一貫して任せることにより、人は育つ。

(株)エリオニクスの概要(所在地:東京都八王子市、URL:http://www.elionix.co.jp/
代表取締役社長:本目精吾氏 設立:1975年3月
資本金:1億7,000万円 従業員数:80名 売上高:約25億円

*11nm(ナノメートル)
10億分の1メートル、 千分の1ミクロン、10オングストローム(原子の大きさは2~3オングストローム)