2007年7月号
イベント・レポート
産学連携学会 第5回大会
理論と実践の総合を目指す産学連携学会

写真1

「テキスト産学連携学入門」について説明する
     荒磯恒久会長(左、北海道大学)と編集を担当
     した長平彰夫氏(右、東北大学)

山形大学がホスト役を務め、産学連携学会第5回大会が6月28、29の両日、山形県米沢市で開催された。全国から産学官連携のリーダー、現場のプレーヤー200人以上が参加し、産学連携各分野における最前線を議論した。83件の一般講演、13件のポスターセッションに加え、JST有本建夫氏*1の「何故、今イノベーションなのか」と題する特別講演、国際産学連携をテーマとするシンポジウム、地域連携をテーマとするパネルディスカッションが行われた。一般講演の中でNEDO*2、JST*3、中小企業基盤整備機構*4による3つの特別セッションも行われ、国の政策と地域産学連携活動の連携を深めた。

大会で議論された主な課題は産学連携論、人材育成、国際連携、コーディネート、知的財産、学金連携、産学連携プロジェクト分析、地域連携分析等である*5

また、今大会で当学会編集になる初の書籍「テキスト産学連携学入門」が紹介された。

多彩な地域連携の実践

地域における産学連携の事例を集積することは産学連携学会の主要テーマであり、今大会ではこのテーマにかかわるセッションのほか、例えば金融連携のセッションでも地域連携がテーマとなるものが多く、全講演の半数は地域連携に関連するものであった。今大会は山形県での開催でもあり、地域の生の声が聞こえる講演も多かった。

大学の無い地域での産学連携
写真2

討論に立つ神戸大学・能見利彦氏

信州大学、松岡浩仁氏の「大学の無い地域における産学連携」は衝撃的なタイトルである。大会2日目、締めのパネルディスカッションで、長野市に居住する彼が180km離れた飯田市で午後6時から9時まで開かれるセミナーに毎回出席しコーディネート活動を行い、車で帰宅するさまを淡々と語ったとき、会場は息をのんだ。わが国で産学連携が叫ばれて10年余りが過ぎ、地域と学の熱意もここまで広がっている。

福島県喜多方市の小川修一氏の発表も注目された。喜多方市にも大学は無い。「だからこそ福島大学にも山形大学にも会津大学にも行けるのです。米沢ではまさか山形大学をおいて他の大学へは行けないでしょう」 。産学連携をてこに地域を振興する意気込みは大学の無い地域にも確実に浸透し始めている。

金融との連携

庄内銀行は店頭に「技術相談カード」を置き、山形大学との人事交流を行っている。10年前、国立大学の地共研が始めた相談受付フォーマットをついに銀行が行うこととなった。金融連携をテーマとする講演は7題、発表は大分、岡山、三重など全国に広がる。大学の基礎研究から最も遠い位置にあった金融が今や産学連携を担う重要な要素として認識されてきたことをうかがうことができる。

産学連携を通した人材育成
学生の参加、インターンシップ

学生が主体となる産学連携が同志社大学等から発表された。コミュニティービジネスへの参加は、地域における文化の駆け込み寺としての大学の持つ多様な可能性の一端を示すものであろう。インターンシップのセッションでは、産側・学側の両面から講演があり、学生の視野を広げる特効薬としての学からの期待、実質的に産学連携を進めるツールとしての産からの期待が議論された。

大学の意識改革を進めるカリキュラム構成

実社会のさまざまな要請に主体的に対応できる学生を養成するための産学連携・知的財産に関する高等教育カリキュラムの実践(九州大学)、産学連携実務者の育成(北見工業大学)等、大学の新しい動きが報告された。

理論編:産学連携のポイントは「研究」から「製品開発」に
写真3

挨拶する新会長徳島大学 佐竹 弘氏
     (任期:2007年7月1日から2009年6月30日)



写真4

パネル討論会「地域イノベーションと産学
     連携」

産学連携学会の特徴の一つは、産学官の連携の進展を理論的に解明し、一般的な指針を見いだそうとするところにある。今大会で目立った議論は、産学連携進展のポイントを「共同研究成立過程」から「市場を視野に入れた製品開発」へ発展させるものであった。このような議論は以前から指摘されていたものではあるが、今大会では多くの講演を通して通奏低音として響いていた。産学連携論のセッションで、サイエンスにおける方法「仮説→実験→検証」とテクノロジーにおける方法「設計→試作→試験」を総合する「計画→実施→評価」のサイクルを基本として各プロセスにおける産と学のかかわりから開発研究の位置付けを明確にし、さらに産学連携を類型化する試案(能見利彦氏:神戸大学)が提出されたことなどは、その典型といえる。同セッションでは潜在ニーズに対する開発研究分野を探る「未来クロスポイント探索」(池田裕一氏:(株)日本能率協会コンサルティング)のような実践との結び付きも議論された。国際連携のセッションでは、新製品開発を新たなターゲットとする総合商社機能を核とした国際イノベーションモデルが出され(永井明彦氏:東京工業大学)、産学連携プロジェクトのセッションでは「仙台堀切川モデル」等によりプロジェクト形成当初から製品化を目指す手法が議論された。

まとめ

今年度の大会では、現場から産学連携の大きな広がりが示される一方、「学会」らしく理論的に産学連携を見る演題も増加した。産学連携の発展の法則性を模索しつつ、実践例を積み上げてそれらを総合しようとする試みが徐々に実現に向かっている。最後に今後の産学連携学会に望むものとして、有本建夫氏の特別講演にも触れられていた「産学連携による新たな科学技術分野の創出」をもたらす高次の活動を期待したい。

(荒磯恒久=北海道大学 創成科学共同研究機構リエゾン部 教授/2007年6月30日まで産学連携学会会長)

*1
独立行政法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター長(http://www.ristex.jp/)、研究開発戦略センター副センター長http://crds.jst.go.jp/)

*2
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
http://www.nedo.go.jp/

*3
独立行政法人 科学技術振興機構
http://www.jst.go.jp/

*4
独立行政法人 中小企業基盤整備機構
http://www.smrj.go.jp/

*5
産学連携学会 第5回大会のプログラム
http://j-sip.org/
なお、講演予稿集および書籍「テキスト産学連携学入門」は、h18-office@j-sip.orgに申し込んで購入できる(講演予稿集:送料込み2,500円、テキスト産学連携学入門:送料込み2,000円)。

産学連携学会 第5回大会
日時:平成19年6月28日(木)~6月29日(金)
会場:「伝国の杜」置賜文化ホール(山形県米沢市)
主催:特定非営利法人 産学連携学会