2007年8月号
巻頭言
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生駒 俊明 Profile
(いこま・としあき)

東京大学 名誉教授
独立行政法人 科学技術振興機構
研究開発戦略センター センター長


産学連携とイノベーション

イノベーションが政策の重要なキーワードとなった。イノベーションというとすぐ出口指向の研究と考え、基礎研究から応用研究へのシフトと考える人が多いが、これは間違いである。イノベーションとは単なる「技術革新」ではなく、もっと大きなインパクトを期待して言われるものである。すなわち「新しい価値の創造」を指していうと考えてほしい。出口指向の研究では研究開始のときに出口が想定されるから、新しい価値の創造に結び付かない。トランジスターの発明は固体増幅器を作ろうという「意志」と、半導体表面の基礎研究とが結び付いて生まれた。その当時はこれほど大きな「出口」があるとは誰も考えていなかった。イノベーションの源泉は基礎研究の成果であるが、単に論文を書いて終わってしまう基礎研究ではないということである。応用研究はいわゆるMOT(技術経営)の課題である。MOTでは主として企業研究の問題を解くために、効率的な研究開発をマネージする方法を探求する。イノベーションは非効率で、リスクの大きい研究を要請するから、MOTのゴールとイノベーション政策とは180度方向が異なる。私はこの二つをいつも対比させて講義している。

イノベーションを誘発するのは、異質のものの連携・融合であることは歴史が教えている。シュムペーターも「新結合」をもってイノベーションであるとした。学問分野の融合するところにイノベーションの種がある。異能の持ち主がイノベーションを牽引する。そういう多様性や、異種が出会い、攪拌(かくはん)され、相互作用して、新しいアイデアやコンセプトが生まれ、それらの新着想が「ダーウィンの海」を泳ぎ切って、市場という新しい岸辺にはい上がったところがイノベーションである。イノベーションとはそういう長いプロセスを経て生まれる。そこには多くの人や、セクターが関与し、お互いに助け合い、競い合い、進化して生まれる。だからイノベーションを誘発する社会システムはエコシステムでなければならない。

そのようなエコシステムの「場」を提供するのが産学連携である。私が20年ほど前に産学連携の重要性を唱えたときは、そのような「場」の提供を産学連携のもっとも重要な役目であるとした。しかし、ここ数年は技術の移転やIP関係をあたかも産学連携の重要事項とする政策が続き、関係者もそのことばかりに熱心になっているのは問題である。日本版バイドールもそのような方向に使われているが、これでは逆にイノベーションを目指す産学連携を阻害してしまう。

そろそろ産学連携の王道に戻ってもらいたい。