2007年8月号
単発記事
40年間イノベーションの創出に力を注ぐ
-新技術開発財団の理念 今に生きる-
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藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 産学連携推進部
人材連携課 技術参事/本誌編集委員

設立40周年を迎える新技術開発財団は一貫してイノベーションの創出に力を注ぎ、約500件の新技術開発の支援を行ってきた。民間でありながら対価を求めない同財団の設立の経緯、開発支援の特徴、最近の支援例を紹介する。

(財)新技術開発財団は、間もなく設立40周年を迎える。その間、新しいアイデア、新技術の開発のために約500件、22億円強の支援を行ってきた。もちろんそのすべてが産学連携ではないが、大学発ベンチャーへの開発支援、大学研究成果の技術移転による開発支援も数多く行ってきた。100%民間資金でありながら支援規模が大きく、対価を求めない-このような財団がどのように生まれたか、そこには旧理化学研究所の大河内正敏所長と財団の創始者市村 清氏との出会いが大きく影響している。

財団の生い立ち

同財団は、リコー三愛グループを統括していた市村 清氏が個人所有していた全有価証券(当時の時価で30億円)を提供して設立された(1968年)。

一方、旧理化学研究所(財団)の大河内所長は、1921年から25年間の在任中、科学によって国の産業基盤を形成する「科学主義工業」を提唱し、研究者の自由な発想を引き出す基盤作りとともに研究成果を社会に還元するための事業化に力を入れ、63社に及ぶ理研コンツェルンを作り上げたことで知られている。

両氏の出会いは1933年、一地方代理店の店主であった市村氏の働きぶりに大河内所長が目を留め理研に招聘(しょうへい)した時で、この出会いがなければ実業家市村 清の存在は無かった(従って、財団の存在も無かった)と言われている。そして、出会いの時の感激を市村氏は「士ハ己ヲ知ル者ノ為ニ死ス」と感じたと言う(「茨と虹と」尾崎芳雄著)。

1968年、病に倒れた市村氏が考えた社会貢献が「新技術開発財団」の設立で、当時の科学技術庁長官 鍋島直紹氏に相談し、事務次官の井上敬次郎氏が原案を練った。

開発支援の特徴

新技術の開発支援では、国産技術であること、独創性があり経済効果が高いことなど一般的な審査項目が並ぶが、技術開発に努力している人(姿)を重視している。

そのため、支援を決めるにあたっては、企業規模は問わないが、必ず現地調査を実施し、経営者の開発意欲、開発への準備状況、技術内容の確認を行っている。また、かなり早い時期、時には開発母体となる会社設立を条件に支援を決めることもあったようである。

このようなスタンスを見る限り、「技術の育成」に重点があるのは明らかで、同財団の事業のひとつである「少年少女の創造性育成」事業にも現れている。

最近の開発支援例

数多くの支援例があるが、ここでは産学連携およびベンチャー企業の観点からいくつか紹介する。

1.小型メンテナンスフリー海水淡水化装置(ニューメディカ・テック(株))

緊急災害時の飲料水確保のため、高い逆浸透膜性能と自動洗浄機能を備え、持ち運び自由な海水淡水化装置であり、開発成功が(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)と小型純水製造装置について共同研究を始めるきっかけとなった。

2.超小型ロボット・システム((株)アプライド・マイクロシステム)

細胞制御、半導体位置決めなど10nmの精度要求に応える超小型ロボットの開発を支援。この支援が電気通信大学発ベンチャー設立の契機となる。最近では、投資ファンドからの大型投資を受け実用化にまい進している。

3.環境ホルモンの高感度・迅速計測システム((株)イニシャム)

東京工業大学発ベンチャーとして設立されて間もなく、水晶発振子を用いたダイオキシン類などの環境ホルモンを高感度で迅速に測定する装置の開発を支援。現在では(株)アルバックの子会社として、主に大学・研究機関を対象に活動している。

余話

ご承知の方も多いと思われるが、(独)科学技術振興機構(JST)も理化学研究所とは極めて深い関係にある。

理化学研究所は1958年に特殊法人となったが、根底には旧理研時代の大河内精神が受け継がれ、当初は「研究部門」と「開発部門」の二本立てで出発している。

1961年、幅広く研究成果の技術移転を促進し国産技術の振興を図る目的で、「開発部門」を分離独立させ、わが国初の技術移転機関「新技術開発事業団(JSTの前身)」が設立され今日に至っている。

このときのモデルが、1948年に英国の技術移転機関として設立運営されていたNRDC(National Research Development Corporation)、現在のBTG(British Technology Group)である。

新技術開発財団の概要(1968年設立)
総裁: 寛仁親王殿下
会長: 牛尾 治朗
本部: 東京都大田区北馬込1-26-10
目的: 創意工夫を育成し、研究開発の促進を通じて技術社会の基盤を造成
事業: 新技術開発助成(毎年2回募集。本年度2次は10月1日~20日)
市村賞(産業賞、学術賞)の贈呈、少年少女の創造性育成、植物研究助成
URL: http://www.sgkz.or.jp/(各種募集要項等、掲載)