2007年8月号
連載3  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
がん診断にスピードと信頼を確立する -画像処理によるライフサイエンスへの貢献- 高松 輝賢 氏(株式会社クラーロ)に聞く
がん治療に欠かせないのが病片の診断。最近は顕微鏡ではなく、デジタル画像のバーチャルスライドを駆使する方向へ進んでいる。株式会社クラーロは、この分野で世界の大手光学メーカーと競っている大学発ベンチャーである。

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代表取締役 高松 輝賢氏

本年5月、イノベーション25戦略会議は最終報告を発表。2025年の日本の姿をさまざまな角度から描いている。最初に「生涯健康な社会」を挙げ、「がん、心筋梗塞、脳卒中の克服により生死をさまよう大病にかかることはほとんどなくなる」としている。がん撲滅の役割を担うひとつが今回紹介するベンチャーだ。

社名の「クラーロ:CLARO」*1とはポルトガル語(スペイン語)で、「CLEAR」と同義語。「鮮明な画像を提供する」企業理念に由来している。この言葉が当該企業のすべてを表しているといっても過言ではない。代表の高松氏は、大学では視覚工学を専攻し、卒業後は画像処理に関する業務を続けてきた。故郷弘前にて、仕事が縁で弘前大学医学部の佐藤達資先生と出会うことになった。がん治療に欠かせない病理医の顕微鏡による組織診断で高い問題意識を持っていた佐藤先生のアイデアが高松氏の技術と融合した。

今、がんを診断するのは顕微鏡をのぞくのではなくバーチャルスライドを駆使する方向に進んでいる。高松氏はこのバーチャルスライド分野で「世界最高の品質と他に負けないコストパフォーマンスを持っている」と胸を張る。日本の、世界の大手光学メーカーと真正面から、がちんこ勝負を挑んでいる。

人材不足が課題の病理医

採取されたがんの疑いがある細胞を顕微鏡により診断するのも病理医の仕事だ。死亡原因の1番にがんが登場した日本の医療に病理医の確保は欠かせない。しかし現実には、全国に1,875人しかいない(平成17年3月現在)。ちなみに内科医7万3,000人、外科医2万3,000人、小児科医1万4,000人が登録されている。しかも50歳以上は938人。将来に期待される若手医師は1,000人に満たないのが現状だ。今後ますますその業務が重要となっていくが、根本的な人手不足が解消されるめどは立っていない。

ミクロの世界に「バーチャルスライド」が登場

ミクロの世界でバーチャルスライドは革命を起こしている。これまでは、顕微鏡をのぞきながら作業をする形態だった。標本をデジタル画像としてディスプレーで見えるようにしたのがバーチャルスライド。複数の人が同時に画像で見ることもできるようになった。また、標本のデジタル保存はこれまで問題となっていた劣化を防ぐことの意義が大きい。今、世界の潮流はバーチャルスライドに移行しつつある。

医療現場の課題をバーチャルスライドで解決

病理診断の判定は難しいという。1つの病片に対し複数の医師が同じ判定を下すとは限らない。極端なことをいえば、1つのがん細胞が、クラス分類1(正常)からクラス5(がんであることを強く疑う)まで診断される可能性もあるという。デジタル情報であれば、判定に他者の意見を求めたいときに、電子ファイルの送受信で時間と距離の問題を克服することができる。弘前大学の佐藤先生は病理診断に危機意識を持っている。がんの種類、部位によっても診断は変わるが、診断する人によって必ずしも一定ではない。これまでのプレパラートによる診断から、バーチャルスライドに変わることで、立体的かつより詳細に診断することができ、診断の標準化も確立したいと考えているようだ。高松社長の品質は、25ミリ四方の標本を120億画素で画像解析する。分かりやすく例えると、切手サイズの標本を300万画素のデジタルカメラ4,000台で写すようなもの(らしい)。高い画像解析能力にハイスピードの処理能力は佐藤先生が求めるニーズに次々と応えていく信頼感をも醸し出している。

がん撲滅は人類の悲願?

近年、寿命が延びてくるにつれて、がんで死亡する数値も増えている。バイオテクノロジーが目指している目的の大半はがん治療に関するものだ。決定的な治療法が確立されても、そもそもがん細胞の診断が正しく、かつスピーディに行われなければ目的が達せられない。そのためには病理の医師を十分に確保し、レベルを上げていかなければならない。しかし、現実には限られた医師に過酷な業務を押し付けるような状況がすぐ目の前に来ている。高松社長は常に佐藤先生の要求に応える高パフォーマンスを提供する形で、2つの課題を解決しようとしている。2025年が遠い日となるか、近い日となるかは本システムの普及にかかっている。

筆者の言葉

良いものは必ず売れるに違いない。しかし高いクオリティにあぐらをかいていては1つも売れないどころか会社の存続そのものを危うくすることもある。そのためにも、有力な市場でデファクトスタンダードを獲ることが近道となる。

●取材・構成: 平尾 敏
(野村證券株式会社 法人企画部 公益法人課産学官連携シニアマネージャ/本誌編集委員)

*1株式会社クラーロ
http://www.claro-inc.jp/