2007年9月号
単発記事
産学の個々の研究者のつながりを重視する東芝の産学連携
顔写真

山下 勝比拡 Profile
(やました・かつひこ)

株式会社 東芝 理事



東芝は産学連携の柱の1つとして大学の人材育成への協力と支援を掲げている。2005年度にスタートした研究インターンシップ制度は3年目。この特徴は、研究テーマを東芝から提示し、組織間協定を結んで面での運用をしていることなどだが、インターン生を介して大学と東芝の研究者の出会いの場を設けて共同研究などにつなげる狙いもある。インターンシップ運用後、それまでの師弟、先輩・後輩中心のつながりが面へと拡大する効果が出ている。同社の2006年の国内の共同研究/委託研究費は海外のそれを上回った。東芝の産学連携の取り組みを解説する。

はじめに

産学連携の仕事を引き受けてすぐに、全国の北から南にある20あまりの大学の産学連携推進組織を訪問しヒアリング調査を行った。その際、組織的な枠組みの連携協定が成立した話もいくつか聞いたが、どこか現場感に欠けていると感じた。次のラウンドではできるだけ研究現場を訪問した。そこでわかったことは、大学の現場の研究者の多くは独自での研究活動を好んでいることであった。この傾向は企業の研究現場でも大差は無い。いわゆる、NIH(Not Invented Here)症候群である。しかし、研究テーマによっては産学の研究者が連携したほうがより多くの成果が期待でき、相互に意義のある連携ができることも多い。また、食わず嫌い的な面もあり、実際に会って情報交換すると一緒にやりましょうという場合も多い。産学連携の活性化のために必要なことのひとつは現場の研究者の出会いの機会を提供することであるとの結論に達した。

海外の大学との連携

東芝では、海外の大学との連携では地域に応じて異なった対応をとっている。技術先進国の大学とは共同研究やスポンサーシッププログラムに参加して、技術獲得、アンテナ基地、情報発信基地として活用している。一方、アジアを中心とした発展途上国では奨学金制度やインターンシップ制度を運用して、まず大学との関係構築と人脈づくりを行っている。時間の経過とともに技術や研究レベルが高まった中国などでは共同研究もいくつか始まった。また、他の途上国では、新しい教育科目やコース設立企画支援や、次のステップとして、大学キャンパス内に大学との共同ラボ設立の話が進んでいる。

図1

図1 日本企業の国内外大学・研究期間への研究
     費支出の推移

経済産業省の調査では日本の企業が産学連携で使用する費用の海外、国内比率は海外のほうが2倍半以上多くなっている(図1)。

1989年に逆転して以来、年々その差は開いている。

米国の大学と国内の大学との違い

日本の企業による海外の大学への研究費支出が国内への支出より多くなっている要因はいろいろ考えられる。ひとつには、米国を中心としたトップレベルの大学は世界最先端の研究を行っていて、日本企業にとっても魅力的であり、資金を出す価値を感じている。次に、大学のマーケティング活動が活発で、教授自ら企業を訪問してマーケティングを行っている。待ちの姿勢の国内の大学とはかなり差がある。また、米国の大学は期待された成果を、期待された期間に出す努力をしているところが多い。要約すれば、米国の大学は世界トップの研究をしているところが多く、企業との連携のためのマーケティング活動が活発で、連携後のアフターケアが良いということになる。

人材育成も産学連携の大きなテーマ

産学連携においては、大学側から見れば外部資金の入る共同研究や受託研究などに一般的には関心が高いと言える。一方で、大学の本来の使命の中で最も重要なもののひとつとして教育とそれによる優秀な人材の社会への供給がある。東芝では産学連携の柱のひとつとして、大学の人材育成への協力と支援を掲げて活動している。

研究インターンシップ制度とその効果

3年前に大学側に研究インターンシップ構想を提案し、2005年度より運用を始め、今年で3年目を迎えた。国内の大学が中心である。東芝の研究インターンシップの特徴は次の点にある。[1]研究テーマを東芝から提示。[2]1カ月から数カ月の長期間。[3]組織間協定を結んで、面での運用。[4]インターン生を介して大学と東芝の研究者の出会いの場を設けて、共同研究などの産学連携につなげる。

受け入れ部門はコーポレート、社内カンパニーの各研究・開発・技術センターで、研究テーマは東芝のビジネス領域をカバーし、多岐にわたっている。現在、8大学、18研究科/研究機構から院生を受け入れている。インターン終了後、各大学で終了報告会が開催される。

参加した院生には「計画的で時間的制約を意識した研究、研究の管理と進め方、市場を意識した研究などが体験できた」、「コミュニケーション、プレゼンテーション、グループワークの重要さがよく分かった」、「研究に対するイメージが具体化し、自分の研究に対するモチベーションが高まった」、「コスト、品質、安全に対する意識が高まった」と好評で、期間的にはもっと長くしてほしいとの要望も強い。研究インターンシップは一種の異文化体験で院生の視野の拡大に間違いなく貢献している。

研修期間中に大学の先生方が研究現場を訪問したり、東芝の研究者が研究テーマ説明会、終了報告会などで大学を訪問して研究者間の交流が行われている。その結果、いくつかの共同研究が始まった。インターン生への指導の質を高く維持するためには、すでに、現在の受け入れテーマ数は限界に近くなっている。他の多くの企業でも同様のインターンシップ制度を運用していただき、日本の大学院の人材育成に産業界として協力できればと望んでいる。

かつては、師弟関係、先輩・後輩の関係のつながりが中心であったが、研究インターンシップ運用後、徐々に今までに無かった糸がつながり始め、面へのつながりへと拡大しつつある。

図2

図2 産学連携 国内外研究費支出の推移(東芝)

図2は東芝における共同研究/委託研究費の海外と国内の比率の推移を示している。1997年の支出総額を100とした場合の2003、2005、2006年度の相対値をグラフ化した。政府の産学連携政策に呼応して東芝の国内連携比率が高まってきている。1997年に総支出の34%であった国内比率が2006年には総支出の62%に増加した。その内訳を分析すると、総費用は2倍近くになっていて、その増加分がほとんど国内の大学との連携に向けられた。研究インターンシップ制度がこの傾向に部分的に貢献している。

産学連携活性化のために

最近では多くの大学が情報開示に努力され、研究成果や内容の発表会が社会、特に、企業に向けて行われている。その効果は確実に出ていると言える。東芝で最近始まった共同研究もこのような機会に産学の研究者が接触したのがきっかけになったものもある。大きな目標を持った組織的な連携を行うのは理想であるが、やはり、最終的には大学と企業の個々の研究者が意気投合し、相互に連携の価値が出ないと共同研究もうまくいかない。そのためにも、研究者同士の出会いの機会をできるだけ多く作って、NIH症候群の人たちの意識改革を図ることが望まれる。

日本はエネルギーや環境問題、少子化、高齢化問題など多くの課題を抱えている。これらの課題を解決していくことで新しい価値が生まれ、日本発のイノベーションにつながる可能性を秘めている。テーマによっては複合的な領域の研究者が共同で研究を行うことも必要となる。そのためには、複数の研究者が参加するプロジェクトをうまく管理して推進していく機能が大学側にも必要となる。どちらかというと“個”を尊重する大学において組織的運営の必要性が高まりつつあると言える。