2007年9月号
インタビュー
仙台フィンランド健康福祉センター研究開発館長 メリア・カルッピネン氏
優れた技術の中小企業、高レベルの大学が仙台の魅力
-中小企業同士の連携だと時間もかかり補助金も
必要-
顔写真

メリア・カルッピネン
(Dr. Merja Karppinen)

仙台フィンランド健康福祉センター
研究開発館長・理学博士


聞き手・本文構成:西山 英作 Profile

(東経連事業化センター
副センター長/本誌編集委員)

国際的な産学連携によるイノベーションが期待されている仙台地域。その一つの施設、仙台フィンランド健康福祉センター研究開発館長に2007年7月に就任したメリア・カルッピネン氏は「優れた技術を持つ中小企業やレベルの高い大学が仙台の魅力」と語る。

筆者は、産業構造の方向性を左右するものとして、[1]ハイバリュー(大学等のR&D、大企業のR&D、ハイテクベンチャー企業、マーケティング、知財の専門家の機能)、[2]ミドルバリュー(デザイナー、エンジニア、試作等の機能)、[3]ローバリュー(大量生産機能)の3つがあると考えている。

戦後、わが国はこれらの機能をフルセットで国内に保持しようとしていたが(図1)、冷戦崩壊以後、量産機能をアジア諸国に求めるようになった。21世紀に入り、欧米だけでなくアジア諸国もより高い機能を身につけようとしている(図2)。筆者は、「わが国が国際競争に打ち勝つには、わが国と他の先進国とのハイバリュー、ミドルバリュー機能を連携させ、付加価値がより高いイノベーションを創出していく必要がある」(図3)との仮説を立てている。

筆者は、前号で国際的な産学連携で仙台地域に新しいイノベーションモデルが生まれつつあることを紹介した。ここでは、本年7月に3代目の研究開発館の館長に就任したメリア・カルッピネン氏に、この仮説をもとにインタビューを行った。

●フィンランドと日本の両国が国際競争に打ち勝つには、お互いのハイバリュー、ミドルバリューの機能を連携させる必要があると考えています。仙台フィンランド健康福祉センターはそのモデルになるのではないでしょうか。

カルッピネン 同感です。フィンランドが欧州の、仙台がアジアのそれぞれのイノベーションのゲートウェイを目指せば、世界のモデルになると思っています。

●仙台の魅力は何でしょうか。

カルッピネン フィンランドには数多くの零細企業がありますが、首都圏の大企業と連携した場合には飲み込まれてしまいます。仙台には優れた技術を持つベンチャー企業や零細企業、そしてレベルの高い大学が存在します。仙台とはイコールパートナーとして質の高い新しいモデルを作れると考えています。

連携の成果

●センターが設立されて3年。どのような成果が生まれていますか。

カルッピネン 2004年2月にヴァイーノ・コルピネン社(フィンランド)と(株)ジェー・シー・アイ(仙台市)の間でトイレ用補助手すりと洗面台等の販売提携が結ばれました。2005年9月にはオーディオライダーズ(フィンランド)と弘進ゴム(株)(仙台市)とが就寝者の生体情報を検知・判断するセンサーシステムの開発業務提携を結びました。2006年10月に、東北大学、仙台大学とオウル大学との間で骨粗しょう症の共同研究が開始されています。

2007年に入ると、西花苑コミュニティと呼ばれるフィンランドのコンセプトを取り入れた高齢者向け賃貸住宅プロジェクトが民間ベースで立ち上がり、1月にはノルディックウォーキングを推進する日本ノルディックフィットネス協会が仙台市に設立されました。さらに4月にはマウウェル社(フィンランド)とライズ(株)(仙台市)が歯科矯正ソフトウエアの共同研究と平行して共同でのマーケティングをスタートさせました。このように本年に入りフィンランドと仙台市との連携が加速しています。

両国の文化の違いを埋める

●連携の成果が着実に生まれ、大変感銘を受けました。ところで仙台でビジネスを行う上で障害はありますか。

カルッピネン 先ほど、仙台の魅力は高い技術力を持つベンチャー企業や零細企業の存在と申し上げましたが、これがボトルネックにもなっています。大企業同士の連携であれば、成果も大きく早いのですが、国際的なビジネスに取り組んだことがない零細企業同士だと時間もかかります。このため、補助金も必要です。あるプロジェクトでは、フィンランドと仙台市が同じプロジェクトに共同で補助金を出しました。

さらに両国の文化の違いを埋めることも重要です。R&Dユニットはこの役割も担っており、ビジネス開発ディレクターを配置して支援しています。このように手間はかかりますが、その分だけ両国にノウハウが蓄積されると思います。長期的にみれば、このアプローチは両国の強みになると確信しています。

●最後に新館長として、今後の抱負をお聞かせ下さい。

カルッピネン 女性の視点を大事にし、日常生活や人間の内面に着目したいです。仙台は極めて生活の質の高い地域でありますので、これが可能だと思っています。

●インタビューを終えて

フィンランドが仙台市に目を向けるのは高い技術力によるものだと考えていたが、仙台が誇る質の高い生活環境も大きな魅力だと感じた。確かに生活の質の高さは、優秀な人材を惹きつけ、イノベーションを引き起こす源泉である。仙台がアジアのイノベーションのゲートウェイになるためには、生活の質の高さを保持しながらの国際競争力強化が重要であると痛感した。