2007年10月号
単発記事
仙台堀切川モデル
-地域中小企業との産学連携成功の秘訣-
顔写真

林 聖子 Profile
(はやし・せいこ)

財団法人 日本立地センター
立地総合研究所 主任研究員


東北大学大学院工学研究科の堀切川一男教授は、1,000件を超える中小企業からの技術相談に応じ、実用化を支援している。地域中小企業のニーズをもとに製品化・実用化を産学連携で進める同教授の取り組みを「仙台堀切川モデル」と命名した林聖子氏がその成功の秘訣を紹介する。

はじめに

表1 堀切川研究室における産学連携開発リスト

表1

わが国の産学連携では「大学の研究シーズを企業へ技術移転し、企業が自力で製品化・実用化する」という認識が強く、企業は経営資源や研究開発人材を保有している大企業が対象であった。大学と大企業との共同研究も両者の思惑が合致し、活発に行われてきた。

一方、地域中小企業のニーズありきの製品化・実用化を産学連携で行うことは積極的になされてこなかったが、地域中小企業の救世主ともいえる“仙台堀切川モデル”が生まれた*1 *2。本稿では、地域中小企業からの1,000件以上の技術相談に対応し、産学連携で製品化・実用化33件の実績(表1)を上げている東北大学大学院工学研究科堀切川一男教授(写真1)が、仙台市地域連携フェロー*3として地域中小企業を中心に御用聞き型企業訪問等を行い、次々と製品化・実用化している仙台堀切川モデルの成功の秘訣等について紹介する。

仙台堀切川モデルの2大背景
写真1

写真1 堀切川 一男教授

1. トップによる産学官連携ラウンドテーブル

わが国が知財立国を目指すと表明した年の翌2003年、東北大学総長、東北経済連合会会長、宮城県知事、仙台市長から構成される地域の産学官トップ会談「産学官連携ラウンドテーブル」が開催され、地域の自立的な新産業創出のため、東北大学教員が宮城県産業経済部参与と仙台市地域連携フェローに就任することが決定された*2

仙台市は地域連携フェローとして東北大学の教員3人へ就任を依頼し、その1人が、山形大学工学部助教授時代に長野オリンピック日本ボブスレーチームのための国産初の超低摩擦ボブスレーランナー「ナガノスペシャル」の開発や、米油製造後に残る「脱脂ぬか」から硬質多孔性炭素材料「RBセラミックス」*4の開発を成功させた堀切川教授である*2

2. 堀切川教授の地域中小企業との製品化・実用化実績

山形大学工学部が立地する米沢は産学連携により人造絹糸を実用化し、後に帝人と日商岩井が誕生する等、産学連携の旺盛な風土*2である。1989年山形大学工学部の若手教官を中心に、地域中小企業の技術相談に門戸を開き、産学連携を推進しようとする任意団体YURNS(Yamagata University Research Network System:山形大学共同研究組織)が発足した*5 *6。1990年山形大学へ赴任した堀切川教授はYURNSへの参加を要請され、地域中小企業のニーズや課題を知る機会となり、1996年企業との最初の産学連携による製品化に成功した。堀切川教授は山形大学時代から技術相談は全て無料で行い、相談終了時にはアドバイスや回答を提示する方針をとっている。

仙台堀切川モデルの紹介
1. 御用聞き型企業訪問

2004年4月、堀切川教授は仙台市地域連携フェローに就任し、仙台市産業振興事業団ビジネス開発ディレクター村上雄一氏(当時プロジェクトマネージャー、地元企業の元取締役)、仙台市産学連携推進課担当者で検討し、「何か困ったことはありませんか」と3名の支援チームで地域中小企業等へ出向き、堀切川教授が技術開発課題等の相談に乗る「御用聞き型企業訪問」を開始した。現在は仙台市産業振興事業団新事業創出促進室主事加賀谷百合氏が加わり、支援チームは4名体制である。公設試験研究機関(以下「公設試」)を保有しない仙台市としては、企業が技術相談できる絶好の機会ととらえている。御用聞き型訪問先企業は40社を超え、依頼せずとも大学教授が企業を訪れ、技術相談に乗ってもらえるということで、評判は良い。

図1

図1 寺子屋せんだい

2. 寺子屋せんだい

地域企業技術者向けセミナーとして、堀切川教授のコーディネートによる「寺子屋せんだい」(図1*7が2005年1月に開始され、2007年7月末までに25回開催されている。講師の講演の後はサロン形式となり、技術者同士の情報交換や課題解決の場として機能している。

3. 地域企業との共同研究から製品化・実用化

図2

図2 仙台市地域連携フェロー活動による実績

御用聞き型企業訪問や寺子屋せんだい等を通して、堀切川教授は企業が最後の数%を解決できないがために製品化・実用化に至っていない案件等の相談を受け、共同研究し、高圧絶縁電線自動点検装置「OCランナー」等、専門のトライボロジー分野に限定することなく、仙台市地域連携フェローとして3年間で12件(図2)の製品化・実用化に成功している。

仙台堀切川モデル成功の秘訣
1. 堀切川教授の産学連携への集中力・熱意・スキル・方針等の素晴らしさ

[1]堀切川教授の産学連携による製品化への集中力と熱意。[2]堀切川教授の技術課題抽出力・問題設定力・問題解決力*8の素晴らしさ。[3]堀切川教授の地域中小企業のニーズありきの産学連携が製品化・実用化に成功するという確信。[4]企業からの技術相談には無料で対応し、共同研究による製品化後のライセンスフィーは要求しないという堀切川教授の方針の潔さ。[5]堀切川教授の各種共同研究において目標をミニマムに設定し、地域中小企業に達成感と成功体験を経験させようという方針の明確さ。

2. 制度上の良さ

[1]トップ会談「産学官連携ラウンドテーブル」で東北大教員の県や市への協力体制が決定したこと。[2]御用聞き型訪問先企業との共同研究に公的資金補助がないこと。[3]御用聞き型企業訪問を支援チームで行うことによる利益相反回避や信用度確保。

3. 運用上の良さ

[1]東北大学堀切川研究室*9の協力体制。助手山口健先生と大学院生等が一丸となり、評価試験等に迅速に対応している。[2]訪問先企業(新たな需要)を発掘できる村上氏の存在。[3]御用聞き型企業訪問支援チームによる最初の技術営業までの一貫支援。

仙台堀切川モデルの課題と解決方策*10
1. 地域連携フェロー業務量過多

堀切川教授と製品化・実用化に成功した企業は横展開を希望し、成功を聞いた他企業は相次いで相談に訪れ、地域連携フェロー業務量は過多となっている。宮城県の公設試へ橋渡しする仕組みの構築や地域連携フェローの増員等の方策を講じることが急務である。

2. 地域連携フェロー活動としての共同研究費用負担の増加

地域連携フェロー活動での企業との共同研究費用は堀切川研究室で負担してきたが、増加の一途で、しかも筋違いなため、仙台市が負担する予算確保が必要である。

3. 地域連携フェロー活動としての共同研究による製品化・実用化の知財問題

地域連携フェロー活動で製品化・実用化に成功すると知財が生じるが、従来その扱いが不明確であった。御用聞き型訪問先企業が最初から知財費用等を心配すると製品化・実用化への意欲が薄れるので、東北大学では教授が地域連携フェロー活動の中で発明した特許等は機関帰属とせず、共同研究先企業が出願できる仕組みの導入を検討および試行中である。

仙台堀切川モデルの意義と展望

仙台堀切川モデルの成功は、地域中小企業が製品化・実用化できない最後の数%の技術課題を大学教員が抽出し、問題設定し、解決支援することで、製品化・実用化が達成できることを明示し、地域中小企業、大学、地方公共団体の3者へ産学連携成功の可能性を示唆したという意味で、その意義は大きい。堀切川教授のような大学人を見つけることは難しいが、他地域でも仙台堀切川モデルが応用され、市場に受け入れられる地域中小企業の製品化・実用化が進展することが期待される。

*1
堀切川教授と筆者とのディスカッションから「仙台堀切川モデル」と命名し、2006年度産学連携学会第4回大会で筆者が発表。
林聖子.仙台堀切川モデルの成功シナリオに学ぶ産業支援機関の産学連携による地域振興.産学連携学会第4回大会講演予稿集.2006.6.

*2
林聖子.中小企業との産学官連携を成功に導く東北大学大学院工学研究科堀切川一男教授ー「仙台堀切川モデル」等〈産学連携による地域振興へのインフルエンサー11〉.産業立地.Vol.45, No.4, 2006.7.

*3
仙台市地域連携フェロー
http://www.siip.city.sendai.jp/cb_shinjigyo/fellow.html

*4
堀切川一男.プロジェクト摩擦tribologistー「米ぬか」でつくった驚異の新素材.東京,講談社,2002, 270p.

*5
林 聖子.産学連携による大学発ベンチャーの現況と支援人材〈特集産学連携による大学発ベンチャー等支援機能〉.産業立地.Vol.42, No.6, 2003.

*6
林聖子.産学連携による地域振興の課題と展望.産業立地.Vol.43, No.4, 2004.

*7
産学連携セミナー「寺子屋せんだい」
http://www.siip.city.sendai.jp/cb_shinjigyo/terakoya.html

*8
堀切川一男;林聖子.仙台堀切川モデルにおける「課題抽出・問題設定・問題解決」の手法分析.産学連携学会第5回大会講演予稿集.2007.6.

*9
堀切川研究室
http://www.glocaldream.mech.tohoku.ac.jp/

*10
林聖子;堀切川一男.仙台堀切川モデルの発展要因と新たなる制度設計.産学連携学会第5回大会講演予稿集.2007.6.