2007年11月号
連載3  - 産学連携で世界に挑む
ナカシマプロペラグループ
プロペラに続き人工関節でも世界トップを目指す
顔写真

稲村 實 Profile
(いなむら・みのる)

岡山県立大学客員教授(MOT)



船舶用プロペラで世界の3割のシェアを握るナカシマプロペラ(本社岡山市)は最近、プロペラの曲面加工技術を利用して人工関節の開発、生産に力を入れている。産学官連携の研究会を主催し、技術力を養っている。

岡山市のナカシマプロペラグループ(以下、「ナカシマ」という)*1は世界のトップレベルのプロペラメーカー。最近は人工関節でも業界トップを目指し健闘中である。「産」主導で産学官連携の研究会活動を主催し、技術力を養ってきた。

強みは翼表面の加工技術

ナカシマは1926年創業で、現在までに造り続けたプロペラは約100万個。主製品の船舶用プロペラでは、現在でも世界で約3割、国内で約7割のシェアを誇る世界トップメーカーである。20万トン超の大型タンカーから競艇用のボートまで多岐にわたり、船の大きさや性能に「最適」なプロペラを一品ずつ設計・生産している。

写真1

写真1 大型固定ピッチプロペラ

海水中で高速回転するプロペラは、過酷な腐食とキャビテーションにさらされるが、廃船の日を迎える時、プロペラはなお健在である(写真1)。

同社の一番の強みは、翼の表面を加工する技術。その道30年を超える熟練技術者が、翼面の1/100ミリ単位の凹凸でも見抜き、翼を滑らかに加工する。この技術が高く評価され2005年には「第1回ものづくり日本大賞・内閣総理大臣賞」を受賞した。

職人技とデジタル技術の2つのテクノロジー。一見矛盾しそうな人間の能力とコンピュータサイエンスの成果が融和して、今日、同社のプロペラは、高い性能や信頼性を発揮することになった。

近年の海運需要の高まりを予見して2006年2月、県内玉島に大型プロペラ専門工場を稼働させた。2007年にはベトナム工場を稼働させ、需要増をこなしている。

日本人の身体に合わせて開発
写真2

写真2 人工膝関節

一方、人体に埋め込まれる人工関節は、「異物」として生体組織から拒否反応を受けず、生体親和性の高い材料を吟味して製作される(写真2)。船舶用プロペラの曲面加工技術を転用して、人工関節の製作に応用した。国内市場は年間1,000億円。輸入品が85%を占める日本で、輸入品に対抗し得る技術力で、日本人の身体に「最適」な人工関節の開発・生産をしている。欧米製品は寸法も欧米人の骨格向けで、一般的な日本人にはサイズが大きい。生活様式も日本人は正座をする時に大きく膝関節が屈曲するなど、いすだけでなく、畳の上での生活も考慮しなければならない。

産学官連携の人工関節研究会を主催

同社は、人工関節にかかわるさまざまな分野の研究・開発について、医学および工学の専門家や医療機器メーカーを交えた研究会を定期的に主催し情報交換を行ってきた。

「人工関節の機能高度化研究会」*2は、11年の長い歴史を持つ。当初参加機関は千葉大学医学部と山口大学工学部がメンバーだった。設立より数年後、研究会事務局を打診された岡山県産業振興財団が「産」が1社なので公共性の観点から辞退したといういわく付きの研究会であるが、「やる気のある産学官連携活動」で、ますます活発に活動しているのは誠に喜ばしいことである。「医療の信頼性向上、オートメーション化に関する知能化医療研究会」*3も10年の歴史を持ち、活発に活動している。

インターンシップなどで社会貢献

中国地域では、経営者一族が手分けして産学官連携活動を実践・推進している*4

1992年からハーバード大学と国際ロータリークラブとの間で行われている「夏期日本インターン・シップ」について、同社が岡山での受け入れ企業になってきた。参加する学生は、夏休み2~3カ月を利用して、日本の企業で働きながら日本文化を勉強する。今までに国内の大学やスタンフォード大学などからも学生を受け入れている。最近では国内の学生も対象にしている。

絶版になり手に入れることは難しいが、昭和30年代に運輸省船舶技術研究所など「学」の協力を得て、ナカシマは「マリンプロペラ」という技術書を刊行した。それは今でも業界関係者にとってのバイブルとして珍重されている。

新規事業は要素技術の延長

表1 ナカシマのコア事業拡大

表1

ナカシマの原点はプロペラにあり、その事業が生み出したものがコアテクノロジーである。新規事業はすべてプロペラの要素技術を延長して創造されたモノである(表1)。この事業展開はリスクが低い。会社を広げるうえで重要・堅実な開発方針であったといえる。今後は技術もマーケットも全く未知の領域にチャレンジするべきである。同社はその余力を内包している会社といえよう。

ナカシマプロペラ株式会社の概要
(本社所在地:岡山市上道北方、URL:http://www.nakashima.co.jp/
代表取締役社長: 中島 基善氏
設立: 1948年11月(創業:1926年5月)
資本金: 1億3,000万円
従業員数 447名(男401名 女46名、2006年11月現在、グループ計590名)
売上高: 187億円(2006年11月期決算実績)
工場: 岡山市、倉敷市、福岡市、ベトナムに現地法人(2007年2月竣工)

*1ナカシマプロペラグループ
「ナカシマプロペラ株式会社」を中心に、システム事業部門が分離した「株式会社システムズナカシマ」をはじめ、環境演出部門の「ナカシマエンジニアリング株式会社」、医療用具販売部門の「サンメディカル株式会社」、オフィス環境事業部門の「ナック株式会社」、2007年2月に設立された海外現地法人、レジャーボート向け小型プロペラ製造を担う「ナカシマベトナム株式会社」からなる。

*2「人工関節の機能高度化研究会」
当初参加機関は岡山地域以外の千葉大学医学部と山口大学工学部がメンバーだったが、その後大阪大学、岡山県工業技術センター、岡山大学、岡山理科大学、吉備国際大学、京都大学、産業医学総合研究所、信州大学、東邦大学、徳山工業高等専門学校、奈良先端科学技術大学院大学などが参加。

*3「医療の信頼性向上、オートメーション化に関する知能化医療研究会」
岡山県工業技術センター、岡山大学、吉備国際大学、京都大学、高知工科大学、千葉大学、東京大学、広島県立保健福祉大学、THK株式会社、コアテック株式会社、株式会社システムズナカシマなどが参加。

*4
中島一族(一部のみ) 中島 博会長(創業者善一の三男):岡山・産学官連携推進会議戦略本部本部長、岡山県中小企業団体中央会長などを務める。若いときに欧米を飛び回り、「精密生産技術」と「コンピュータ」をプロペラ製造技術に取り込んだ。最近は軸足をアジアに移して、中でも中国に月参している。
中島 稔副会長(創業者善一の四男、):内閣府科学技術 新エネルギー部門委員長。工学博士。
中島 基善社長 (保名誉会長(創業者善一の長男)の長男):日本非鉄金属鋳物協会副会長、日本舶用工業会副会長。
中島 義雄常務 (中島 博会長の長男):システムエンジニアリング岡山副会長、経産省産業クラスター形成懇話会委員。