2007年12月号
単発記事
日本版バイ・ドール制度の変更について
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花輪 洋行 Profile
(はなわ・ひろゆき)

経済産業省 産業技術環境局
産業技術政策課 課長補佐


バイ・ドール制度は、政府資金による研究開発から生じた特許等の権利を受託者に帰属させるもの。わが国のこの規定は産業活力再生特別措置法に盛り込まれていたが、2007年8月から産業技術力強化法へ移管された。この日本版バイ・ドール規定の一部変更について解説する。

1. 制度創設の経緯

バイ・ドール制度は、米国で、1980年に民主党バーチ・バイ上院議員と共和党ロバート・ドール上院議員を中心とした超党派議員が、政府資金による研究開発から生じた特許等の発明に係る権利について、その活用と民間による事業化を促進するため、国に帰属させることなく、民間や大学等の発明者にそのまま帰属させることを骨子とした改正特許法(バイ・ドール・アクト)を成立させたことに端を発する。日本では1999年に成立した産業活力再生特別措置法(平成11年法律第131号、以下「再生法」)に同様の規定が盛り込まれ、国の委託研究によって生じた特許権等を受託者に帰属させることが可能となった。

〈日本版バイ・ドール制度の概要〉
政府資金を原資とした国、特殊法人、独立行政法人等(以下「国等」)が行う委託研究開発および請負によるソフトウエア開発(2.(2)参照)の成果から生じた知的財産権について、次に示す3つの条件をあらかじめ受託者が約する場合に、当該知的財産権(2.(3)参照)を委託者(国等)が受託者から譲り受けないことを可能とする制度。
研究成果(知的財産を含む)が得られた場合には遅滞なく国等に報 告すること
国が公共の利益のために特に必要があるとして求める場合に、当該 知的財産権を無償で国等に実施許諾すること
当該知的財産権を相当期間利用していない場合に、国の要請に基づ いて第三者に当該知的財産権を実施許諾すること

再生法が施行されるまでは、国の資金を原資とした委託研究開発の成果は全て国に帰属させていたわけであるが、これは特許権や実用新案権などの知的財産であっても国有財産法上の国の財産となり得るため、国の資産を特定の企業等に無償で譲渡することを制限した財政法が根拠となっていた。発明者を保護し、発明を促進するための特許法がある一方で、国の資金を利用した委託による研究開発活動は財政法の制限を受けるため、自ら発明した特許であってもその実施に当たっては国に実施料を払わなくてはならず、発明のインセンティブを低下させていたのである。従って、再生法は成立以来、企業等による事業化の促進のみならず、国の委託による研究開発活動を活性化する役割も大きく担ってきたと言える。

2. 日本版バイ・ドール規定の一部変更

日本版バイ・ドール制度は再生法に規定され運用されてきたところであるが、再生法は名前のとおり「特別の措置」を規定する法律である。しかしながら、日本版バイ・ドール規定は立法当初から恒久的な措置を念頭に置いており、また、制度として十分に認知され定着してきたことから、同規定を恒久措置とし、国による研究開発の実態に即して適用範囲を拡大するため、2007年の第166回通常国会において「産業活力再生特別措置法等の一部を改正する法律案」が提出され、同法案は2007年4月末に成立、同年8月6日から施行された。以下、変更された点を紹介する。

(1) 再生法から産業技術力強化法(平成12年法律第44号)への移管

日本版バイ・ドール規定について、旧再生法第30条から、恒久法である産業技術力強化法(以下「産技法」)の第19条に移管した。これにより、日本版バイ・ドール規定の恒久化が措置された。

(2) 日本版バイ・ドール規定の対象となる研究開発に「請負によるソフトウエア開発」を追加

従来、日本版バイ・ドール規定は国の委託研究開発のみを対象としていたが、政府の「知的財産推進計画2006」(2006年6月8日:知的財産戦略本部決定)を受け、ソフトウエア開発については、産技法へ移管の際に条文を修正し、国の請負契約についても対象に加えた。これにより、国からソフトウエア開発を請け負った企業等にも知的財産を帰属させることが可能になった。

(3) 日本版バイ・ドール規定の対象となる権利の一部変更

日本版バイ・ドール規定の対象となる権利について、旧産業活力再生特別措置法施行令(平成11年政令第258号)では、[1]特許権、[2]特許を受ける権利、[3]実用新案権、[4]実用新案登録を受ける権利、[5]意匠権、[6]意匠登録を受ける権利、[7]プログラムの著作物の著作権、[8]データベースの著作物の著作権、[9]回路配置利用権、[10]回路配置利用権の設定の登録を受ける権利および[11]育成者権の11の権利が規定されていた。法律改正により産技法に移管されたため、これらの権利も産業技術力強化法施行令で規定されることになったが、その際、[7]と[8]の著作権に係る部分については「著作権」としてまとめられることになり、全ての著作物の著作権が対象となった。この権利の一部変更の理由は、知的財産の事業化を図る上で必要な設計図やマニュアルなども著作権の発生する著作物であるため、著作物としてデータベースとプログラムに限定されている旧規定を改正し、限定を解除する必要があったからである。なお、同政令の改正を受けて経済産業省では契約を見直すこととし、平成20年度契約からは委託研究成果として受託者から納入される成果報告書についても、あらかじめ国の利用を許諾させた上でその著作権を受託者側に帰属させ、広く活用を図ることとしている。

3. おわりに

平成11年に日本版バイ・ドール制度が創設されて以来、各省庁の委託研究開発契約におけるバイ・ドール適用率は年々増加しており、平成13年度のバイ・ドール適用率は全省庁で57%であったのに対し、平成15年は94%、平成17年には99.9%となっている。現在の国等における委託研究開発は、ほぼ全ての契約において日本版バイ・ドール規定が適用されており、実際に国等から受託した民間企業からも高い評価を受けている。

国の資金を原資として行う研究開発の多くは科学技術の振興に貢献するものであり、科学技術分野でわが国の国際競争力強化に資することを目的として行われている。また、米国がバイ・ドール・アクトを成立させた背景には、米国産業の国際競争力の低下に対する懸念があったことからもわかるように、特に産業界において科学技術の進展による国際競争力の強化は、諸国にとって共通の課題である。科学技術は実用化され、産業活動に組み込まれることで大きな価値を生み出すことから、日本版バイ・ドール制度が引き続きわが国経済の活性化に果たす役割は大きいと考える。

※ 本件に関する問い合わせ先
経済産業省 産業技術政策課
電話:03-3501-1773