2008年1月号
特集1  - 人材を問う 今のままで産学連携を担えるのか
課題は若手が活躍できる場の構築
顔写真

門田 淳子 Profile
(もんでん・じゅんこ)

東京大学産学連携本部 産学連携
コーディネーター 兼 東京大学産
学連携協議会運営本部

大学の第3の使命として知の社会還元が求められており、産業界と大学をつなぐリーダーシップのある人材の確保と育成が急務である。若手人材は能力がないのではなく経験、気付きが乏しいだけである。現場で鍛え人間力を付けることが必要と説く。

産学官連携において、人材育成は最も重要な課題である。人材育成については取り上げられて久しく、その重要性と必要性において関係者の合意はあるものの、広範に十分な成果がでるまでにはある程度の時間を要する。

知の社会還元は第3の使命

特に大学関係者やTLOにコーディネータ(以下、CD)のコーディネート力やノウハウの向上を求める声が多いのでは、と言われている。「教育」と「研究」に加えて大学の第3の使命として「日常的産学連携の推進による知の社会還元」が求められている昨今、大学側としても、産業界と大学とをつなぐリーダーシップのある人材の確保と育成とは急務である。

現実にはいわゆる技術CDと言われる人の大半はシニア世代である。見識が深い、人脈も豊富という点においてシニア世代が長けていることは言わずもがなであるが、一方、年齢が若いということも同様に尊重すべき価値の1つである。大学という、多様性を最も大切にすべき母体において、各人の有する多様性と資質を最大限に活性化し活用する文化の醸成は重要だ。

若手コーディネータの活躍と育成を目指すならば、まずは、年長者が自己にプライドを持つことである。自己の美点をさらに伸ばし、劣等感の克服・絶対価値の向上を図り、年齢差以外の面で年少者に対して人間として誇れる部分を持つことである。

個の良さを活かして補完し合う

以前に、米露の国家的宇宙飛行士の平均年齢が10歳異なるという話を聞いた。これは、経験値・判断力・体力・持久力・瞬発力ほか多様な選考基準のうち優先価値が異なることに起因する差である。ここで注目すべきは、国家的規模の選考の場ですらもこれだけ価値観が多様だという点である。つまり、この事例は、年齢差を単純な上下ととらえるのではなく、差異を尊重し、偏見と先入観を排除し、個の良さを活かして補完し合うことによる総体価値向上の可能性を示唆しているのではなかろうか。

「ジェネレーションギャップ」という言葉は誰でも知っているが、ひと言で「ジェネレーションギャップ」といっても年齢の差異と世代の差異という2つの意を含む。つまり同じ年齢でも、時代が異なれば異なった思考傾向にあるのは自明の理で、社会背景や教育環境を無視してこの問題を論ずることはできない。見方を変えると、この二重のギャップこそが、多様性と学びの幅の拡がりをもたらすチャンスともいえるのではなかろうか。

求められる視野の広い応用力

一方、大学のみならず産業界からも、創造性に長けた視野の広い応用力のある人材を求める声は多く聞こえる。

2005年1月17日に東京大学が立ち上げた「東京大学産学連携協議会」に産業界の重鎮と弊校理事からなるアドバイザリーボード・ミーティングを設置しているが、この会議において、これまで最も多く話題とされてきたことは、人材育成についてであった。

産業界からは、広い応用力、視野、問題発見・解決力、マネジメント能力、コミュニケーション能力を有する人材が求められているが、筆者も、実際に2003年2月の着任時より、常に学生を秘書として雇用してきており、確かに産業界からのご指摘を待たずして学生の創造性・自発性のなさに愕然(がくぜん)としたのは記憶に新しい。

しかしながら、彼らには能力がないのではない。あくまでも、気付きあるいは経験がないだけである。特に、優秀な学生は、叱られた経験、挫折体験に乏しく、従って、自己を見つめ再構築する機会に恵まれない場合が多い。だが、仕事の現場で求められる能力は、「よーい、どん」で決められた課題を訓練された手法で速く正確に解くというのとは異なり、別の思考回路の活性化と実践による経験値の向上が必要となる。よって、筆者のもとでは、その場その場での細かい叱り学を元に指導しているわけであるが、最初は叱られることに対してピンとこない顔をしている学生も、時を経るにつれ、やがてしっかりとその意味が理解できるようになると、自発的な気付きの部分が拡がり、そこからは伸びが著しいから不思議であり頼もしい限りである。

考える力を伸ばす自発的気付き

おおむね、彼らに欠けているのは知識や資質ではない。それよりも、考える力、そしてそれを伸ばすための自発的気付きである。気付くと、調整力、洞察力、観察力、自発性、コミュニケーション能力、創造性、忍耐力、問題発見力、解決力などが総じて飛躍的に向上する。極端な話、知識は後からでも付いてくる。人間力が付けば、面白いように他の分野でも成果がでるから不思議であり、これはわが門田塾の学生に共通する成長であり、若者にとって、まずは自己を見つめ直し再構築する機会が必要であるということを実証している。

やはり、大切なのは、現場で鍛えられること、現実に課題に直面することによって磨かれる力の大きさである。つまり、教室での学びだけでは社会に通用しない面があり、その点、インターンシップ等の場の効用は大きい。

変わり始めた大学

産学官連携の場において、若手人材が活躍できるような場を構築することは重要な課題でもあり、また人材の流動化が円滑になされるようなしくみを国全体として作っていくことも必要である。

資源小国でかつ少子高齢化が顕著なわが国にとって、知的財産と人材とは宝である。ゆとり教育の負の成果の補填もさることながら、知識を持つだけでなく、その知識をいかに活用できるかの方がさらに重要なのであって、その活用能力のある若者を育てて行かねばならない。

これは、産学官の共通の課題であり利益である。

求める人材像としては、価値を広いところに置く人間である。短絡思考、短期的視野ではなく、長期的視野、広範な視点に立って物事を判断し遂行できるような人間、リーダーシップを有する人間の育成である。リーダーシップとは、強靱(きょうじん)な精神力と状況把握力である。得てして、視野の狭い人間、弱い人間ほど、ほんの自己の周囲の他者との比較で勝とうとするが、何と愚かしいことか。愚者は勝つために戦うが、賢者は闘うために克つものである。競争相手は自己の内面にこそあるということを忘れてはならない。無論、資本主義社会における競争の原理を無視しては現実の経済社会で生きては行けないが、それでもなお、やはり真に豊かな社会生活、人生を送るためには、人間性を保ちバランスを失わずに生きて行きたいと願わずにはいられない。

つまるところ、産学官いずれにおいても、求められる人材の能力は、広い視野、バランス感覚、調整能力、公正公平な視点、多様な価値観を受け入れ咀嚼(そしゃく)できる能力、人への優しさ、思いやり、私心無く自己を成長させ組織に貢献する力であり、組織はそれを活かせるような文化を醸成する必要があろう。

大学は、今まさに変わり始めたばかりである。