2008年1月号
特集1  - 人材を問う 今のままで産学連携を担えるのか
国際的に通用する知財人材の育成
顔写真

前田 裕子 Profile
(まえだ・ゆうこ)

東京医科歯科大学 知的財産本部
技術移転センター長、特任准教授


大学の特許を産業界に橋渡しするため、多様な技術に精通した目利き人材を大学に配置することが求められている。東京医科歯科大学は産業界から優秀な人材を募り、スキルアップするスタイルを取っている。講義はバイオテクノロジー、パテント、バイオビジネスの3本柱。米国大学ロースクールでの研修や米国弁護士事務所でのインターンシップも行っている。

ひと口に知財人材といっても、知財にかかわる仕事は多種多様である。企業で自社製品を生み出すべく特許を担当している方、特許庁へ出願するための明細書を作成する弁理士、特許庁で審査・審判を担当している方、特許調査やコンサルティング等にかかわっている方のほか、最近は大学の知財関係者なども増えてきた。

どの職種も技術の専門知識と知的財産権の知識を必要とすることはいうまでもない。最近は、国内だけでなく世界中で通用する特許を有することが必須であり、平成19年11月20日に開催した大学知的財産研修会(主催:文部科学省、東京医科歯科大学)の中で「国際的に通用する知財人材育成」に関するパネルディスカッションを行った。そこでの議論も盛り込み、大学における国際知財人材養成について述べる。

産業界に有用な特許創出が重要

知的財産推進計画2007でも「ライフサイエンス分野における基本特許の創出・保護・活用の在り方」が語られているように、基本特許を生み出すことが非常に大事である。わが国全体の研究者の3分の1は大学の研究者で、5分の1の研究費を大学が使っている。したがって、大学で基本特許を生み出すこと、特に、論文をそのまま特許にするのではなく戦略的にクレーム範囲を広げ、有益な特許を創出することが重要になってくる。

大学は製品を自分で作るわけではない。産業界へ橋渡しするため各分野の技術に精通した目利き人材を大学に配置することが急務である。

深刻な人材不足、養成が急務

知財における人材は不足している。とりわけ大学において深刻だと言われている。前述のように、大学の特許を産業界で使っていただかなければいけないので、コミュニケーション能力は必須。違う技術分野のところへ持っていく多様なスキル、文化の異なる大学と企業を橋渡しする柔軟性も必要になってくる。バイオテクノロジー、ライフサイエンス分野の人材不足はことさら深刻で、その養成が急がれる。

自分の力で掘り下げる能力
図1

図1 目利き人材に求められるもの

知財の目利きとはどのような人材か。絵で表したのが図1である。縦の細いラインが、深い専門知識を持っている人(博士号取得者等)を表す。目利き人材はこういう方ではなくて、ライフサイエンスに関する専門知識と、他の技術分野(化学・IT 等)の知識を併せ持つ人だ。また、法律の知識も、さらに市場に関する知識も持っていなければならない。

図1 の左下に書いたように、実社会のニー ズをくみ取り、必要に応じて直面する課題を 自らの力で掘り下げられるポテンシャルのあ る人材である。

マーケットに関する知識習得を重視

東京医科歯科大学は平成15 年に知的財産本部を発足させた。特許創出 のみならず研究者のよろず相談窓口的機能を有しており、特許請求範囲の 拡大や特許マップによる研究戦略の支援、共同研究(受託研究)先の探索、 競争的資金獲得の支援、さらには特許のライセンス業務を行ってきた。平 成16 年からは、ライフサイエンス分野における知的財産の目利きを養成 するプログラムを実施して、人材の輩出に寄与してきた。

本学における目利き人材養成を紹介させていただく。目利きの養成なの で、基礎的な特許法の講義や、技術の専門の勉強をする場所ではない。何 らかの専門家にそれ以外の知識をつけてもらうことが幅広い知見を実現す ると思ったので、産業界へ広報することに力を入れ養成者を募った。質の 高い人材を募集し、その方たちにスキルを高めてもらうスタイルを取って いる。おかげさまで毎年、募集枠の2倍から5倍以上の応募がある。弁護 士、弁理士、大学教授、特許庁の審査官にも大勢受講していただいており、 どちらが先生だろうというような状況で授業を行っている。

ライフサイエンスの目利き養成なので、何よりも習得すべきはこの分野 の専門知識、そして知的財産権の知識。日本の知識は当然ながら、欧米の 知識も必要。社会のニーズを踏まえるという点で重視しているのがマー ケットの状況で、ここに一番時間をかけている。さらに、ライフサイエン ス分野独特の必要事項として、生命倫理や利益相反の講義も入れている。

米国ロースクールの研修や米国特許弁護士事務所でのインターンシップも

このことを考えバイオテクノロジー(実習含む)、パテント、バイオビジ ネスの3 本柱で講義体系を組み立てている(表1は平成18 年度の66 時間 分の授業)。これらの講義の他に、シンポジウムや特別講演会を年5~6回 行い(なるべく海外からの講演者)、旬の話題や海外の情報を吸収できるよ うに努めている。

表1 H18年度 ライフサイエンス分野知財評価員養成制度 人材育成プログラム

表1

目利き養成にはOJT が大変重要なので、特許マップの研修や特許情報雑誌『ライフサイエンスレポート』の編集、さらには、ワシントン大学ロースクールのサマースクールに東京医科歯科大学オリジナルバージョンをつくっていただき米国大学ロースクールにおいて3週間の研修や、米国特許弁護士事務所での1~2カ月のインターンシップを行っている。余談だが、OJTとして本学知財本部で10カ月インターンシップを経験し、本学の職員になっていただいた方もいる。

このように実践的な経験を積むことで、大学の知財本部やTLO、ベンチャーキャピタルのような産学連携による技術移転を、高レベルで効率的に行うことができる人材が育てられるのではないかと思う。

大学における目利き人材雇用体制確立を

人材養成に関連する大きな課題は大学における知財(目利き)人材雇用体制の確立であると考える。特に、若年層の安定雇用、処遇改善がないことには、「大学知財部門」に対する若い人の関心を呼ばないし、育てても大学にとどまってもらえない。この研修会で、ワシントン大学ロースクール教授の竹中俊子先生が米国でも優秀な人材が条件の良いところに引き抜かれてしまうことが頻繁にあると述べていたが、養成された人材を上手に活用できる仕組みを作ることこそ重要である。

技術の理解はさることながら、コミュニケーション能力、ネゴシエーション能力、柔軟性のすべてを併せ持つ人材を大学が雇用することについて、みんなで考えていかなければならない時ではないかと思う。