2008年1月号
連載  - 九州大学発創薬ベンチャーが世界を目指す
(前編)
米国で最終の臨床試験(第Ⅲ相)実施中
顔写真

鍵本 忠尚 Profile
(かぎもと・ただひさ)

アキュメンバイオファーマ株式会社
代表取締役社長


九州大学発創薬ベンチャーのアキュメンバイオファーマ株式会社が開発中の医薬品の1つは米国で臨床試験の最終段階の第Ⅲ相にまで進んでいる。起業という道を選んだ眼科医の鍵本忠尚社長は「日本に眠る新薬シーズを掘り起こし、それを米国から開発して世界中への上市を狙う」という。

私は九州大学医学部を卒業した眼科医だが、起業という道を選んだ。きっかけは、研修医として働いていた時、ある患者さんと出会ったこと。当時70歳だったその患者さんはその10年前に両眼を加齢黄斑変性に侵され失明されていた。彼から「科学も進歩しているんですから、何か治療法は出てないですか?」と尋ねられた。

それから5年、いま、私たちが開発中の医薬品の1つは米国で臨床試験の最終段階である第III相にまで進んでいる。

これから2回に分けて、当社が開発中の医薬品、経営戦略、福岡から世界を目指す夢、医師としての使命、私の考えるイノベーションなどについて述べてみたい。

まず、開発中の医薬品およびその開発段階について説明する。次の3つのパイプラインがある。

網膜硝子体疾患用など3つのパイプライン
A0001
適応疾患: 黄斑円孔等の網膜硝子体疾患、白内障
詳  細: A0001は安全で効果的な眼科手術のための青色の染色薬剤である(写真1)。無色透明な網膜表面の内境界膜や、視認性が低くなった水晶体の前嚢部分を染色することで、安全で簡便な手術の実施に寄与することが期待される(写真2)。対象とする疾患は、黄斑円孔や黄斑上膜等の内境界膜の剥離が行われる網膜硝子体疾患、そして白内障。このうち、内境界膜剥離を伴う網膜硝子体疾患は国内で年間約6万人、米国で年間約20万人、そして白内障は国内で年間約70万人、米国で年間約180万人の患者がいると推定している。
開発段階: 米国:臨床試験第III相
日本:臨床試験第II相後期準備中
A0003
適応疾患: 加齢黄斑変性
詳  細: 加齢黄斑変性とは、黄斑部に異常な新生血管障害が発生して視野の中心部に障害が起こる疾患で、米国では中途失明原因のトップ、日本でもここ数年患者数が急増している(写真3)。A0003は疾患の本体である異常血管新生の抑制に強い効果を発揮することが期待されている。現在、日本では約43万人、米国では約64万人の患者がいると推定している。
開発段階: 前臨床試験
A0006
適応疾患: 増殖硝子体網膜症、増殖糖尿病網膜症
詳  細: 増殖硝子体網膜症とは、眼内で細胞が増殖して増殖組織といわれる線維性の膜を形成し、この組織が瘢痕収縮する際に網膜を引っ張って牽引性網膜剥離を引き起こす疾患(写真4、5)。また、増殖糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症のひとつである糖尿病網膜症が進行した重症な段階で、この段階になると、新生血管の発生に伴って硝子体出血を起こしたり、増殖組織の瘢痕収縮によってやはり牽引性網膜剥離を引き起こすことがある。ともに失明に至る可能性がある重篤な疾患だが、現在のところこれらの疾患に対する有効な治療薬はない。これらの疾患のうち本薬剤の対象患者数を合計すると、日本では年間約3,000人、米国では年間約1万3,000人と推定している。
開発段階: 前臨床試験


写真1

写真1 A0001眼科用染色薬剤イメージ



写真2

写真2 染色時の眼底写真




写真3

写真3 発症による見え方のイメージ






写真4

写真4 増殖硝子体網膜症眼底所見




写真5

写真5 徐放製剤埋植イメージ


米国でのIII相試験一番乗りは人材がポイント

2004年の国立大学の法人化後、数多くのバイオベンチャーが大学から出てきた。当社はこれらの創薬バイオベンチャーの中で、最も早く米国で臨床試験第III相までたどり着いている。通常、医薬品は市場に出る確率が1万分の1、市場に出るまでかかる期間が10年ともいわれている。そのような厳しい環境の中、大学から出た研究成果を最も実用化に近いところまでもってきたという実績により、願わくは後に続くであろう日本の大学に眠る優れた研究成果のけん引役になることができるのではないかと考えている。

大学発ベンチャーとして初の米国でのIII相試験にたどり着けたのは、人材が一番大きな理由だと考えている。会社設立後、私はすぐに渡米して米国の開発拠点、およびコアとなる人材の獲得に乗り出した。その際に出会ったのが、ミッチェル・グラス氏である。彼はもともと、呼吸器科の医師であり、グローバル製薬企業での開発経験やバイオベンチャーを米国のNASDAQ上場まで導いた経験を持っていた。すぐに彼を社長として米国子会社を設立し、そこに米国で開発を行っていけるだけの体制を整えた。

実際にFDA(米国食品医薬品局)との折衝においては、グラス氏が交渉をリードし、臨床試験第III相を無事に開始することができた。また、日本側でも大手製薬企業で豊富な経験をもった方々が当社に参加してくださり、現在当局と臨床試験に関する話し合いを行っている。

また、A0001の特性も見逃せないポイントである。この技術は九州大学医学部眼科の研究者が発見したものだが、ライセンスインした時点で非常に完成された技術だったため、その後の前臨床試験や当局との折衝もスムーズに進めることができた。

日本に眠る新薬シーズを掘り起こす

当社は治療薬が少ない眼科の病気を治すべく、技術を集め、日々その研究開発を行っている。また、それぞれの技術の持つ価値を最大化するために、迅速な国際開発体制を敷いている。加えて、今後の長期的成長、そして「失明の撲滅」というミッション遂行のために、今後も継続的に日本の大学や研究機関に眠る画期的な新薬シーズを求めていく予定である。

日本に眠る新薬シーズを掘り起こし、それを米国から開発して世界中への上市を狙う。これが当社の事業計画の根幹である。

各国の事情に通じたプロフェッショナル

日本と米国および欧州との違いを、開発スピードとコストの面から比較してみると、一般的に日本はスピードが最も遅く、かつコストが最も高いといわれている。一方で米国ではスピードが最も早く、コストは欧州と同程度だといわれている。このため、当社は新薬開発のスピード、コスト面から考えて最も有利だと考えられる米国での開発を先行して実施している。

ただ、私が最も重要だと考えているポイントは、これらの各国事情の違いを正確に認識した上で、それらの事情に精通したプロフェッショナルを集めて開発を進め、グローバルに最も優れた選択肢を柔軟に採用していくことだと考えている。