2008年1月号
単発記事
あいまいな規定多い大学の著作物管理規則
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市毛 由美子 Profile
(いちげ・ゆみこ)

第二東京弁護士会 弁護士



大学で生まれるコンピューター・ソフトを世に送り出すには誰が著作権者なのかを明確にすることが前提。しかし、大学の著作物管理規則を見ると、著作権法などの法律に照らしてあいまいな点が多い。その問題点、課題を指摘する。

2007年9月にUNITT(産学連携実務者ネットワーキング)の著作権セッションでコンピューター・プログラムの権利処理の問題について報告するにあたり、インターネット上でいくつかの大学(8大学)の著作物管理規則を拝見したところ、著作権法その他の法律に照らして疑問に思うところがありました。同セッションで報告した内容の一部*1をここに紹介させていただきます。

I. 著作権法の前提知識
その1   著作権の原始帰属
(1) 著作権法2条1項2号で「著作者とは、著作物を創作する者をいう」とされ、同法17条1項で、著作者は著作者人格権及び著作権を享有するとあります。よって、著作権はまず原始的に自然人たる創作者に帰属します。
(2) さらに、次の4つの要件を満たす場合には、法人が原始的に著作者となります(著作権法15条1項)*2。 [1]法人等の発意に基づくこと*4
[2]法人等の業務に従事する者が職務上作成するもの
[3]法人等が自己の名義で公表するもの(ただし、この要件は、プログラムの著作物に関しては不要)
[4]作成のときの契約、職務規則、その他に別段の定めがないこと
その2   著作権の譲渡
(1) 相続等の一般承継の場合を除き、著作権の譲渡の効果は原則として「契約」によって生じます。「契約」とは当事者間の意思表示の合致であり、必ずしも契約書が必要というわけではありませんが、契約書があれば合意を証明する手段が確保されていることになります。大学の規則が「契約」に代替しうるかは、議論を詰める必要があります。
(2) 著作権法27条、28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。27条は翻訳、編曲、変形、脚色、その他翻案する権利(平たく言えば、本質は変えずに表現について変更を加える権利)を規定し、28条は二次的著作物の原著作者の権利(二次的著作物の著作者と同じ権利)を規定しています。通常は、これらの権利を含めて機関帰属させないと意味がありませんので、機関承継の際には「27条、28条の権利を含む」ということを明確にしておく必要があります。
(3) 著作権の移転は「登録」がなければ第三者に対抗できません(同77条)。現在、登録の制度はほとんど使われていませんが、研究者が移動して二重、三重の承継がなされた場合に、どの承継人が優先するのかという問題が起きたときは、移転の登録をした人が優先することになります。
(4) 氏名表示権、公表権、同一性保持権と言った著作者人格権は、著作者個人の人格と深くかかわる権利なので、譲渡できないとされています(同法59条)。しかし、現実問題としては、著作者人格権が譲渡(機関帰属)後に行使されると不都合な場合もあります。そのような場合は、契約において、譲渡人に「今後は著作者人格権を行使しない」という特約をしておくのが一般的です。

その3   著作権の保護対象
(1) 著作権は、創作的な「表現」を保護するものであって、特許とか実用新案のようなアイデアを保護するものではありません。また、表現であっても、「創作性」のないものは保護されません。
(2) プログラムの著作物に関しては、以下のものは著作権による保護が及ばないとされています(著作権10条3項)。 ・プログラム言語:プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系
・規約:特定のプログラムにおけるプログラム言語の用法についての特別の約束
・解法:プログラムにおける電子計算機に対する指令の組み合わせ方法(アルゴリズム*3

II. 著作物管理規定の疑問点
Q1 法人著作の要件を満たさない場合でも、大学に著作物を原始帰属させる規則は有効か?

著作権をはじめとする知的所有権は独占権であり、権利者が自分以外の他人の利用を排除する対世的禁止権を中核とする権利であることから、その創設・帰属は公の秩序にかかわるとなります。よって、権利の原始帰属は法律があってはじめて認められるものであり、私的な領域(契約や学内規則)で勝手にこのような権利の創設・帰属を決めることはできません。法人が著作権を原始取得できるかは、著作権法15条の要件を満たすかのみが判断基準であり、同条の要件を満たさない場合は規則で大学が原始取得すると定めても無効となります。

Q2 法人著作の要件を満たさない場合でも、大学に著作物を原始帰属させる規則は有効か?

以下、現実にある規則の例を掲げて検討してみます。

■大学が企画を立てて教職員が職務上作成したコンピューター・プログラム

企画を立てたことが「発意*4」にあたれば、法人著作の要件を満たし大学が原始取得します。

■教職員が大学の支援のもとで作成したコンピューター・プログラム

「支援」には経済的支援、物理的支援、人的支援等が考えられますが、「支援」と「発意」とは異なるので、「発意」要件を満たさない場合には、大学がどれだけ支援、貢献をしたからといって、大学が原始取得することはできません。

■教職員が研究活動の過程で作成したコンピューター・プログラム

「職務上」要件に関しては、研究活動がこれに該当する可能性もありますが、大学の「発意」かという点は別の要件であり、上記同様「発意」要件を満たさなければ著作権は大学に原始帰属しません。

■学生が大学の業務の一環として作成したコンピューター・プログラム

「発意」要件の問題の他、学生は、そもそも大学と雇用関係がないので「職務上」という要件もまた満たしません。大学と雇用関係のない学生が作成したプログラムについて、大学に原始取得させるのは困難でしょう。

■教職員が大学の発意のもと職務上作成したが、大学名義では公表されな
     い仕様書、設計書、フローチャート

前述Iで説明したとおり、法人名義での公表は、「プログラムの著作物」に限り法人著作の要件から除外されています。プログラムはあくまでも機械に対して指令を送るものであって、プログラムを書く前提となる仕様書、設計書、フローチャートは、「プログラムの著作物」ではありません。よって、これらが大学名義で公表されていなければ、大学が原始取得することはできません。

■学生が教員の指導のもとに作成したプログラム

前述のとおり学生は大学と雇用関係にありませんので、著作権15条の適用は難しいでしょう。機関帰属させたいソフトウエアの開発をするにあたり、学生をアルバイトとして雇用する等、「職務上」の要件を満たすような手当ては考えられます。

Q3 大学が原始取得しない場合、「帰属する」との規定で著作者からの譲渡を定めたものと解釈する余地はないか?

大学が原始取得しない場合でも、「大学に帰属する」との規定に基づいて、個人(教員や学生)が原始取得したものを機関が承継するという考え方は成り立ちうる余地があります。民間の契約では、「帰属する」という文言がこのように解釈される場合は少なくありません。

しかし、大学が作成した規則があるということのみで、譲渡の合意(契約)があった場合と同じ効果を認めて良いかは疑問です。通常、学内規則は大学が一方的に作成するものであり、個々の教員や学生の意思が反映されてはいません。合意の形成という意味では、少し無理があるように考えられます。ただし、教員に関しては、規則が雇用契約に付随するものとして契約内容だと解釈する余地はあるかもしれません。この点は、学内規則の法的性質について議論を詰める必要があるのではないでしょうか。

また、規則とは別に個別の同意(契約)により機関承継する場合でも、前述の著作権法上の27条、28条の権利留保に関する処理、登録による対抗要件の具備、著作者人格権の処理ができているのか、ということが次の問題になります。

III. まとめ

産学連携という観点からすると、いくら優れたソフトでも、誰が著作権者なのかがはっきりしないと、企業が世にそれを送り出すインセンティブが働かないのは当然でしょう。ある程度の成果ができ上がってから、「譲渡に同意しない!」と言われてしまうと、大学も企業も非常に困った事態になるのは目に見えています。

この意味でも、著作物管理規則の規定の仕方は、不安定なもの、あいまいなところをできる限り排除する工夫が必要です。例えば、原始取得の場合と、権利承継(譲渡)の場合を明確に区別した規定とすることで、解釈の余地の少ない条項とすることができます。現状は、この問題を含めまだまだあいまいな規定が多いようですが、今後、大学発のソフトが注目されるようになるにつれ、解決しておかなければいけない課題となるでしょう。

*1
UNITT2007では、本稿で指摘した問題点の他、学生が研究活動で作成したプログラムについて指導した(作成行為はしていない)教員に権利は帰属しないのか、機関帰属したソフトウエアについて第三者の権利侵害がないことをどのように担保するか等の問題に言及したが、いずれも、結論が固まっているわけではない。

*2
特許法上の職務発明がいったん発明者のところで原始的に権利帰属し、使用者がそれを承継する構成をとっているのと対照的に、法人著作の要件を満たすものは、別段に定めがない限りは創作者たる個人には帰属せず、法人が原始的に取得する。

*3
アルゴリズムはいわばアイデアであり、アルゴリズムに従ってコード化する段階になって初めて「表現」となり、著作権の保護対象となる。

*4
「発意」とは、著作物作成の意思が直接または間接に使用者の判断にかかっているかどうかが決め手であり、例えば会社の従業員がアイデアを出し、または企画を立てて、上司の了承を得たという場合も含まれる(加戸守行著「著作権法逐条講義」)。