2008年1月号
単発記事
ジェトロがベンチャー企業の海外進出を支援

荏原 昌 Profile
(えばら・まさし)

独立行政法人 日本貿易振興機構
産業技術部先端技術交流課
課長代理

日本貿易振興機構(ジェトロ)は日本のハイテクベンチャー企業の米国市場進出を支援するため、最長2年間ジェトロが提携する米国のインキュベーターの入居スペースとビジネスや生活のアドバイザリーサービスを無償で提供している。シリコンバレー、フィラデルフィアの2カ所では、バイオベンチャー向けにウェットラボ(生物化学系の実験を行う研究室)付きインキュベーターを用意、すでに日本企業が入居している。

ジェトロのベンチャー支援プログラム

日本貿易振興機構(ジェトロ)は2000年から日本のハイテクベンチャー企業の米国市場進出を支援するプログラム「ベンチャー・インキュベーションin USA」を実施している。本プログラムは、四半期ごとに実施する審査に合格した企業に対し、最長2年間ジェトロが提携する米国のインキュベーターの入居スペースとビジネスや生活のアドバイザリーサービスを無償で提供するというもの。これまでに約180社の応募があり、50社を超える企業が本プログラムを利用して米国市場への挑戦を行ってきている。

プログラムの開始時には、シリコンバレー、ロサンゼルス、オースティン、シカゴ、ワシントンの5カ所にインキュベーターを設置していたが、入居希望先が一部のインキュベーターに集中したこと等から、2004年にはシリコンバレーとシカゴの2カ所に集約した。2000年から2003年という時期は、いわゆるドットコムバブルの崩壊、同時多発テロ、SARS問題等が発生し、経済の停滞とともにわが国ベンチャー企業の米国進出意識が一気に冷え込んだ時期であった。

バイオ分野へ支援拡大

ジェトロは2003年から全米バイオインダストリー協会(BIO)が主催するアニュアルコンベンション(展示会)において「日本パビリオン」の運営を始めた。2003年のワシントンでは日本のバイオベンチャー企業6社が参加したが、翌年のサンフランシスコでは54小間に日本企業46社、12機関が参加し、日本のバイオ産業のプレゼンスを大いに示すことができた。以来、2005年のフィラデルフィア、2006年のシカゴ、2007年のボストンとジェトロが運営する「日本パビリオン」はBIOの中においても存在感を持ち続けてきた。

BIOは単なる展示会というよりも世界のバイオ関係者が年1回一堂に会して研究の進捗を確認したり、ビジネス情報を交換したりする場である。「日本パビリオン」に参加した企業も自社の研究開発成果をアピールしたり、世界の大手製薬企業へ売り込んだりと活発な活動を展開していた。BIOの「日本パビリオン」運営を行っていくうちに、米国市場に対して具体的な参入計画を持ったベンチャー企業からウェットラボを備えたインキュベーション施設設置のニーズが増えてきた。資金と時間に制限のあるベンチャーにとっては同じ資金で2倍の研究効率が期待できるといわれる米国は、新たに事業を立ち上げる地として選択肢の一つであることは間違いない。

ウェットラボ付きインキュベーター設置

ウェットラボ付きインキュベーターの設置を検討していく過程で米国西海岸と東海岸では、企業のビジネス領域に違いがあることがはっきりしてきた。西海岸は、スタンフォード大学やカリフォルニア大学サンフランシスコ校に在籍する研究者とのネットワークを活かした創薬や試薬ビジネスの展開を目指す企業が多く、東海岸は、具体的にFDA(米国食品医薬品局)への臨床試験申請や米国製薬企業へのライセンスアウトを目指す企業が多いということが分かった。

従って、インキュベーター選定にあたっては企業の事業領域や支援ニーズを考慮して決定した。もちろん入居するのは日本企業、日本人であるから日本と米国の商習慣や文化の違いを吸収しやすいということも重要なポイントとして考慮した。最終的にシリコンバレー、フィラデルフィア、ボストンの3カ所と提携をして2006年6月から新たに募集を開始した。

写真1

写真1 B-Bridge

シリコンバレーのB-Bridge International,Inc.(以下、B-Bridge 写真1)、フィラデルフィアのサイエンスセンターでは、クリーンベンチと研究開発に必要なベーシックな機材が一通り備わったウェットラボが利用できる*1。また、ボストンのケンブリッジ・イノベーション・センターはドライオフィスだけだが、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学のネットワークや地元のベンチャーキャピタルへのアクセスが比較的容易という利点がある。

写真2

写真2 桝本博之
     CEO

B-Bridgeの桝本博之CEO(写真2)はジェトロの事業趣旨に賛同いただき、日米間でバイオ関連試薬・機器の輸出入や遺伝子治療研究用試薬の開発を行いながら、わが国バイオベンチャーの事業立ち上げ支援に協力いただいている。現在B-Bridgeには、免疫制御技術を用いてスギやブタクサの花粉症治療薬の開発を行っている、株式会社レグイミューン(本社:東京都港区、森田晴彦代表取締役CEO)や、レーザーナノ粒子化技術(LiNTEC)および関連技術を用いて医薬品開発の効率を高め、より付加価値のある医薬品開発を目指す株式会社ABsize(本社:大阪市北区、王勇代表取締役)等、計4社がジェトロの支援を受けて入居している。

写真3

写真3 ケンブリッジ・イノベーション・センターの
    オフィススペース

サイエンスセンターは、ペンシルバニア大学を中心とした研究都市フィラデルフィアにある全米最古ともいわれる歴史を持ったインキュベーターである。サイエンスセンターはVC(ベンチャーキャピタル)ファンドを持ち入居企業へ出資を行うことで積極的に経営へ参画し、技術の商用化とビジネス化を支援している。また、組織内部にFDA申請に関するアドバイスを行うコンサルタントを擁しており、日本企業にとってはわかりにくく、時間がかかるFDA申請手続きをサポートする体制が整っている。現在サイエンスセンターには、B型肝炎患者のQOL(Quality of Life)を改善する治療機器を開発しているRed-Ion Medical株式会社(本社:東京都新宿区、平澤計介代表取締役社長)が入居している。

写真4

写真4
     インキュベーション・
     マネージャー
     Timothy Rowe氏

ケンブリッジ・イノベーション・センター(写真3)は、IT、バイオ、ナノテクといった分野の技術開発企業やコンサルタント、サービスプロバイダー等さまざまな業種の企業が入居していて、センターが、さながら産業クラスターのような状況になっている。インキュベーション・マネージャーのTimothy Rowe氏(写真4)は日本に滞在経験があり、日本語も堪能で日本人と日本企業に対する理解が深い方である。2007年の12月をめどに創薬企業1社が入居する準備を進めている*2

今後の展開とバイオベンチャーに対する期待

米国でのインキュベーション運営を欧州にも展開するため、2007年9月、英国ケンブリッジにあるベイブラハム・インスティチュートと提携して入居企業の募集を開始した。ベイブラハムという場所は欧州、英国のバイオビジネスの集積地であり、これまでに多くの成功企業を輩出してきている。

バイオベンチャー、特に創薬を目指す企業にとって2年間という支援期間は短いかもしれないが、企業はゴーイング・コンサーンの原則に従い継続発展するものであり、ジェトロの支援は企業活動の立ち上がり期をスムーズに乗り切るために用意したものである。これからも多くの企業が本プログラムを活用して米国のみならず世界市場へ挑戦することを期待している。

*1
機材の詳細、使用条件、費用等はジェトロへ問い合わせ願う。

*2
B-Bridgeは、入居スペースの都合により現在新たな入居者募集は行っていない。サイエンスセンター、ケンブリッジ・イノベーション・センターの募集枠についてはジェトロまで問い合わせ願う。