2008年2月号
連載1  - 九州大学発創薬ベンチャーが世界を目指す
(後編)
使命は失明撲滅 革新的技術を人類の幸福に生かす
顔写真

鍵本 忠尚 Profile
(かぎもと・ただひさ)

アキュメンバイオファーマ株式会社
代表取締役社長


開発中の眼科向け医薬品の1つが米国で臨床試験の最終段階(第Ⅲ相)にまで進んでいるアキュメンバイオファーマ株式会社。この大学発ベンチャーを起こした鍵本忠尚氏の使命は失明撲滅である。日本の大学には世界トップレベルの研究成果が眠っている、と見る鍵本氏は「その技術を必要としている人々に研究成果を届ける役割をベンチャー企業が担っている」という。

失明撲滅——これは私が眼科医として患者さんと向き合う中で生まれたミッションである。

科学技術の進歩には目覚ましいものがあるが、医学の世界においてはいまだ治療法のない疾患が多く存在している。このような状況の中、医師として治療薬がない現状に悩みながら日々診療にあたるのか、それとも起業することで世の中に治療薬を出して現状を打破するのか思い悩んだ。そして2005年4月、私は世の中に治療薬を出すため、起業という道を選択した。

  当社の沿革

表1 表2
福岡で最初のシーズ見つける

福岡で起業した理由は、私が最初に福岡でシーズを見つけ、そのとき福岡にいたからである。福岡で私の活動を支援してくださる方も少なくなく、迷いはなかった。

私は経営者として日本各地、米国、中国、欧州、インドなどを転々と飛び回り、世界各地の技術をみる機会があるのだが、それらと比較しても日本の大学には優れた技術がいまだ多く眠っていると確信している。加えて、後述するように比較的日本では起業する環境が整っていると考えている。そこで、今後もコアとなる拠点は日本に置いて、優れた技術を導入してグローバルに開発をしていく予定である。

最近では、通信網の発達により、世界のどこにいてもメールや電話でコミュニケーションが取れるし、テレビ会議で顔を見ながら話すこともできる。福岡、日本に本社を置いていることでの不便は特に感じていない。拠点をどこに置くにしろ、常にグローバルな視点を忘れず、虚心に広い視野をもって経営することが大切なのではないだろうか。

日本は起業しやすい風土

「日本は起業しやすいか」とよく聞かれる。私は起業しやすい風土だと感じている。最近では起業に対する世間の理解が進んでいることに加えて、特に日本で特徴的なこととして、政府からのさまざまな助成・補助がある。そのため、会社を作ること自体は比較的容易である。

ただし、起業した後、中後期まで会社の規模が成長してくると、まだ日本では未整備な面があるのではないかと感じる。

1つ目の問題は、日本でベンチャー企業が大規模な資金調達を実施するのがやや困難なことである。欧米では独立系のベンチャーキャピタルが多いのに比べ、日本は銀行や証券会社の傘下にあるベンチャーキャピタルが多く、リスクマネーが市場に流入していないように感じる。そのため、日本でスムーズな事業展開を行うのに十分な金額の資金調達を行っていくことに、比較的困難を感じている経営者が多いのではないだろうか。

2つ目の問題は、欧米に比べると人材の流動性が低く、日本では十分な経験をもったプロフェッショナルが獲得しにくいこと。大企業で素晴らしい業績をあげ、豊富な経験を持った方々が、ベンチャー企業に次々参加してくるような状況を作ることができれば、間違いなくその企業は成長することができる。

日本に素晴らしい技術が眠っていることは間違いない。あとは、そのような技術を市場に送り出せるだけの資金、人材を日本社会が供給できるようになれば、ベンチャー企業が大きな飛躍を次々と遂げていくという状況が作り出せるのではないだろうか。

研究成果を必要としている人に届ける

イノベーションとは、「革新的な技術によって、人類の幸福に大きく貢献すること」だと考えている。

繰り返しになるが、日本の大学には、世界トップレベルの優れた研究成果が眠っている。ただ、現状ではその研究成果が世の中に役に立つ形で出ていくまでには、やや距離が開いていると思う。学術的に意義ある論文や学会発表がなされても、そこで止まってしまい、その技術を必要としている社会の人たちまで届かなければ、社会的な意義は薄れてしまう。その研究成果と社会とのあいだに開いている距離を埋めるような役割を、私たちのようなベンチャー企業が担っていきたいと考えている。

人類の幸福のために、イノベーション、すなわち革新的な技術によって、私たちが少しでも貢献していきたい.そういう思いを持ち続け今後も会社経営を行っていくつもりである。