2008年2月号
単発記事
大阪大学が発明承継基準を改定
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松本 和久 Profile
(まつもと・かずひさ)

大阪大学知的財産本部 特任教授



大阪大学は2007年度から発明承継の新しい基準を導入した。発明を「特許性・権利の強さ」と「市場性・活用発展性」の2つの軸で定量評価して領域に分類し、取り扱いを決めることなどが柱である。基準改訂の背景とその特徴を解説する。

改定の背景と新基準の特徴

大阪大学では2007年度から発明承継の基準を改定した。法人化後、産学連携の原資となる知的財産を確保するために比較的緩い基準で承継してきたが、3年を過ぎた。改定した理由は、2007年度から審査請求や中間処理など、経費を伴う事案が本格的に発生してくることが予想されたことと、より価値の高い発明の活用へ注力するための原資確保などである。

新基準の特徴は、届け出られた発明を「特許性・権利の強さ」と「市場性・活用発展性」の2軸で定量評価を行い、結果を領域分類して取り扱いを決定することにある。

第2の特徴は発明届け出時期に関する。これまで学会発表等の直前に届け出がなされるケースがあとを絶たなかったため、公開予定の発明の届け出期限を規定した。届け出が遅れ、かつ公開までに出願する場合は、不充分な特許価値評価で出願するとの認識で、発明者の属する研究室が出願費用を負担することとした。

評価項目と発明評価の基準

表1 評価項目(特許性・権利の強さ)

表1


表2 評価項目(市場性・活用発展性)

表2


表3 発明評価基準の例(市場性・活用発展性)

表3

評価の2軸である「特許性・権利の強さ」と、「市場性・活用発展性」の評価項目を、おのおの表1、表2に示す。各項目に対して3ランクの指標を設定した。例えば評価項目「クレーム対象:工学・医薬」の場合、「物質」>「用途」>「方法」となるよう、各ランクに配点する。配点は、その項目・指標のウエイトを勘案して決定する。

表1および表2のすべての評価項目を対象に、各項目で設定したそれぞれ3ランクの指標において、評価の基準を定義する。

表3には「市場性・活用発展性」の評価基準の例を示す。「収入の大きさ」では、尺度は当該発明にかかわる「市場の規模」ではなく、当該発明による「収入の大きさ」としている。また、若干異質な評価項目として「公共性」を設定した。近年の地球温暖化や鳥インフルエンザ等の地球規模での問題解決に資する発明についてのみ加点する。

以上より、対象発明が各評価項目において該当するランクを選択して評点し、「特許性・権利の強さ」および「市場性・活用発展性」のおのおのの合計点が決定される。

特別承継・特別非承継

前述の評価とは独立に、「特許性が無い」、「権利行使ができない」、「侵害確認ができない」、「収入が極めて少ない」という4つの場合は評価点にかかわらず非承継とする。逆に特許性があり、実施が確実な場合は承継する。また、特許性があり、発明者が共同研究を計画するのに必要な発明や、特許性があり、発明者による具体的なベンチャー起業計画があり、その柱として不可欠な発明も承継することとしている。

新基準による評価
図1

図1 評価マトリックス

各発明を評価点によりA~Dの4領域に分類する(図1)。それぞれ次のような基準を設けている。

A領域: 出願して維持する
B領域: 出願して共同研究等を推進し、活用性の向上を図る
C領域: 出願して見直し時期に活用性の発展がなければ放棄する
D領域: 非承継

さらに特別承継・特別非承継の判断を加えて、各発明の取り扱いを決定する。本評価基準の実施によりおのおのの発明の特徴が見えやすくなるとともに、発明評価にかかわる関係者間で認識を共有することが容易になった。

今後の方向

特許としての価値の高い発明を厳選して承継して活用し、適宜評価して維持価値の高い案件を選択維持していくことは、不変の原則である。活用方法としてライセンス以外にも、企業等との共同研究などによりその発明の価値を大きく発展させることも重要な活用方法である。

また企業がすべての権利を保有し、実施することが適当と考えられる場合は、大学権利の当該企業への譲渡を積極的に進めている。産学連携活動を継続発展させるためにも、その屋台骨の1つである知的財産活動を長期的視点でより筋肉質にしていく必要があると考えている。