2008年2月号
海外トレンド
タイ・ベトナム・フィリピンの産学連携の現状
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田中 義敏 Profile
(たなか・よしとし)

東京工業大学大学院 イノベーション
マネジメント研究科 技術経営専攻
准教授

東京工業大学で開催された国際産学官連携セミナーから、わが国であまり知られていないタイ、ベトナム、フィリピンの産学連携の現状を紹介する。

はじめに

2007年12月20日、東京工業大学で開催した第3回国際産学官連携セミナー「アジア地域における国際的産学官連携シンポジウム」*1において、タイ、ベトナム、フィリピンの行政府の担当者などがそれぞれの国の産学連携の現状について報告した。その講演要旨を紹介する。各国の文化、歴史、科学技術・産業等の社会情勢を反映し、独自の体制で産学連携および技術移転が動き出している。21世紀はアジアの時代。今後の国際産学連携に期待が寄せられる。

科学技術省がリードするタイの産学連携
     タイ国科学技術省 Dr. Korntham Sathirakul写真1

大学が企業に対し、製品の試験や解析などの技術コンサルティングを提供する形で、産学連携が進められてきた。産学の共同研究開発は、まだ低い数字になっている。産学の研究の資金源は50%以上が政府。各プロジェクトの規模は2万5,000米ドル以下。市場志向型の研究を支援する資金を調達する必要があり、また、産業界自身が研究開発を促進する必要もある。産業界は、研究開発に重きを置いていない。むしろ職業訓練校での研究開発、イノベーション創出が期待されている。産学連携における知財管理も重要であり、政府としても真剣に取り組んでいるところ。さらに、研究開発の商業化プロセス、特に、大学での研究成果に基づくスピン・オフをどのように商業ベースにのせるのかも重要。政府は、業界に対して税額控除などの支援を行っており、今後も、産学連携においては、政府の役割が大きい。

写真1

写真1 Dr. Korntham Sathirakul

科学技術省が推進するテクノロジー・クリニックプロジェクトは、学術ネットワークを活用し、産業界における問題解決を支援している。また、技術移転においては、政府と大学が一緒になって、産業界に対しての解決策を提供している。予算は150万米ドル、プロジェクト数は2007年で180件。それほど大きくはないが、今後この分野にはさらに力を入れることが必要。

科学技術省の下部機関のNSTDA(国家科学技術開発庁)のITAPと呼ばれる技術支援プログラムも重要。NSTDAの科学技術リソースセンターが中心となり、技術の提供、特定の産業界での問題解決にあたっている。NSTDAの専門家、大学、学会、海外の人的ネットワークが大きな役割を果たしている。その他、TGIST(院レベルのタイ科学技術研究所)、TRF等の機関による研究ファンド、海外の教授陣の招聘(しょうへい)、学部生向けの資金提供プロジェクト、職業訓練における資金提供、タイの科学技術研究員データベースの構築を推進している。

高等教育委員会は、大学にTLOを設置し、大学発の技術に基づく事業のインキュベーションを教授と学生で推進すべく、米国や日本と同様のTLO活動およびビジネス・インキュベーション活動を活発化させている。バンコク地区では、11校がUBIを設立した。マヒドン大学のスタング・ホールディング会社の起業、カセサット大学のヘルシースナック社の起業、キングモンクット大学のソフトウエア企業などが実績例。

国際産学連携には多くの課題が存在する。タイと日本の双方によるWIN-WINの状況を確保しなければならず、人、組織、文化におけるタイと日本の違いにも目を向ける必要がある。双方による共同作業が進展することを期待する。

動き出したベトナムの産学連携
     ベトナム ホーチミン市科学技術部 Ms. Truong Thuy Trang写真2
写真2

写真2 Ms. Truong Thuy Trang

ホーチミン市科学技術部の使命は、研究開発を推進し新技術を創造し経済の発展につなげること。そして、技術移転を促進しホーチミン市の知的財産として育てていくこと。技術情報データベースをつくり、大学および企業の研究成果の活用を促進している。産学連携の要として、1つは、大学と産業界が双方の技術を知り、適正な知財管理を運営できるようにすること。もう1つは、商業的な環境を整備すること。そのために、パイロット・プロジェクトを展開している。科学技術を活用し利益を得るという道筋を実現することが重要。ホーチミン市は、大学や産業界に資金を提供し研究支援を行っているが、科学技術部では、適正な知財政策がなければ産学連携は進まないと考えており、知財政策を策定してきた。ベトナムの知財法は、すでに25年前に制定されているが、十分に浸透しておらず、普及啓蒙(けいもう)に力を入れている。

ビジネス環境の整備のために、テクノロジー・ビジネス・インキュベーターを大学等に設立している。インキュベーターは、サイエンス・パーク内と大学内に設置。ビジネス環境という観点から、毎年、テックマートという展示会を開催し、発明者が、新しい技術を業界関係者に紹介する場として活用している。

大学では、知財の管理システムを構築し、権利帰属、収益分配等に関する規定を整備してきた。

2007年は、新たに、ホーチミン市の科学技術開発基金を立ち上げた。融資やさまざまな支援を行うことによって、技術革新や技術移転の支援をしている。この資金は最大で総額の30%まで、上限として1プロジェクトあたり3カ年で最大限30万米ドル。2006年までのテックマート開催による契約数は総額2,000万米ドル程度に上っている。テックマート・オンラインも設けており、5,000件の新しい技術のデータベースを掲載。さまざまな政策、具体策を練っており、産学の橋が構築されたと自負。今後の進展に期待する。

東南アジアの産学連携をリードするフィリピン
     フィリピン弁護士 Ms. Maria Gladys Vilchez写真3
写真3

写真3 Ms. Maria Gladys Vilchez

フィリピン科学技術庁(DOST)の科学技術部は、1991年から2000年まで推進してきた科学技術マスタープランの反省を踏まえ、2002年から2020年までの科学技術の新マスタープランNSTP2020を構築した。これは、抜本的な科学技術政策を18年間にわたって推進していくもので、長期計画かつ具体的なプログラム、特に短期においての具現化したプログラムを包含するとともに、研究開発、技術移転、人材開発、情報活用、ネットワーキング強化策などを提案している。フィリピンの大統領の調整委員会として、制度改革を推進し、政府、学術界、財界、NGOを巻き込んで、民間公共のR&Dの資金供給額を2010年までにGDPの0.5%に引き上げるというものである。

フィリピンには、182校の国立大学、1,465校の私立大学がある。行政府の大学と短大も含めて111校、県立大学が56校。センター・オブ・エクセレンス(COE)、もしくはセンター・オブ・デベロップメント(COD)に指定されている大学も多く、優れた教育研究を提供している。フィリピン大学電気電子工学部におけるAPEL(アステック・パワー・エレクトロニクス・ラボラトリ)、TIEL(テキサス・インストゥルメント・エリート・ラボラトリ)などがある。また、デラサール大学のマイクロソフト・イノベーションセンター、アテネオ大学のアテネオPLDT・次世代ネットワーク・テストベット、フィリピン・オープンソース・イニシアティブなど、産学連携の実績は多い。

DOST技術移転ワーキング委員会が、4つの問題を指摘している。民間企業による研究開発の遅れ、調和した形での技術移転システムの欠如、また、技術所有および情報共有という考え方の欠如、さらに、技術移転人材不足。これらの問題を解決するために、2010年までに質の高い科学技術志向の高等教育部門を確立、技術ナレッジベースの産業を構築、民間機関を含めた研究開発、科学技術の推進、また、長期的な観点で2020年においては、世界水準の科学技術大学、国際的に認識された科学者、技術者の輩出、中小企業に向けた科学技術の支援など、取り組みを本格化している。科学技術人材開発プログラム、高等教育に特化した科学技術、スキル開発、グローバル競争力、民間機関とのパートナーシップ、中小企業への支援策、大学でのインキュベーション、研究開発とマーケティングの結合、国際的戦略パートナーシップの構築など、さまざまな戦略を実行している。

*1
2007年12月20日、東京工業大学において、第3回国際産学官連携セミナー「アジア地域における国際的産学官連携シンポジウム」が開催された。中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピンの5カ国から第一線で産学官連携または技術移転をリードするキーパーソンを招聘し、また、産業界をはじめとする184名の参加者により積極的な質疑、交流がなされた。