2008年2月号
海外トレンド
韓国・大田市 大学発ベンチャーの聖地へ
-2007 UNESCO-WTA 国際トレーニングワークショップに参加して-
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西山 英作 Profile
(にしやま・えいさく)

社団法人東経連事業化センター
副センター長/本誌編集委員


韓国・大田(テジョン)市は、大学や研究所が集積するテドクバレー研究団地があり、年間200を超えるベンチャー企業が生まれている。同市で開催された「2007 UNESCO-WTA 国際トレーニングワークショップ」をレポートする。

はじめに

韓国・大田市は、ソウル、プサンの中間地であり、ソウルから153km、プサンから283kmに位置する。大田市は面積539.83㎞2、人口139万人で、仙台市よりも面積は若干狭いが人口は多い都市である*1。また、24大学が立地する学都であるが、民間セクターの層が薄く、全国規模の大企業が少ない。

この大田市がIMF危機を乗り越え、いまや年間200社(2004年)を超える大学発ベンチャーを生み出す“世界的な大学発ベンチャーの聖地”とも言える地域として注目を集めている。

筆者は、昨年11月20日~22日に同市で開催された「2007 UNESCO-WTA 国際トレーニングワークショップ」*2の招待を受け、東経連事業化センターについてのプレゼンテーションを行った。ワークショップ開催期間にたくさんの韓国の政府関係者や研究者と意見交換を行うことができた。本稿では、筆者が印象に残った韓国・大田市の現状と課題を紹介したい。

韓国・大田市“テドクバレー”の歴史

韓国・大田市の研究開発の中心地はテドクバレーである。その心臓部であるテドクバレー研究団地は、1973年に日本の筑波研究学園都市をモデルにつくられ、韓国科学技術院(KAIST)、原子力研究所、電子通信研究院、生命工学研究院等、17の政府関連研究機関と忠南大学(国立大学)、韓国情報通信大学院大学等高等教育機関やサムスン、LG等企業の研究所など105機関が2,777万㎞2に集積し、約1万7,000人の研究者が研究開発を行っている*3

韓国は1997年末の通貨の大暴落をきっかけに経済危機に陥り、IMF(国際通貨基金)の救済支援を受けるに至った。いわゆるIMF危機である。IMF体制の下で経済の自由化が大きく進められた。当初行われたIMFによる緊縮政策の下で韓国経済を支えてきた数多くの財閥も倒産に追い込まれ、生き残った企業もリストラを迫られた。そこで発生した大量の失業者を引き受ける政策として、政府が取り組んだのは大学発ベンチャーの創業支援策である。これまで財閥中心に政策展開してきた政府は、IMF危機をきっかけに大学発ベンチャー企業の創業政策に大きくかじをきったのである。

大学発ベンチャーの創業数 年間200超

1990年にたった2社であった大田市の大学発ベンチャー創業件数は、IMF危機以後に展開された政府の政策により、ジャンプアップする。1999年には154件、さらに2004年は219件となった。世界に冠たる産業クラスターとして有名なテキサス州オースティンが1999年にベンチャー企業創業件数が200件を超えた時点で「The top U.S. city for high-tech startup」(ダン&プラドストリート社)の第1位にランクしたことを考えれば、いまや韓国・大田市は、1997年のIMF危機を乗り越え、世界的な大学発ベンチャーの聖地に生まれ変わったと言っても過言ではないだろう。

WTAの事務局長で忠南大学教授のDeong-Seong Oh博士は、サイエンスパークの発展を3段階に分けている。第1ステージはベンチャー企業のスタートアップが活発化すること、第2ステージはベンチャー企業の製品の事業化が活発に行われること、第3ステージは創業や成長が自己増殖し、集積が集積を生み出していくとしている。現在、大田市は第1ステージから第2ステージに移るための重大な段階にある。

大田市の多くの関係者は、「大田市の最大の課題はインキュベーションからコマーシャリゼーションに移行している」と語っていた。問題意識の中心が創業支援から事業化支援に移りつつあり、わが国の課題と大きく重なる。

韓国・大田市の陰

懇親会の席上で大田市の大学発ベンチャーの現状について詰めて質問する機会を持つことができた。そこで分かったことは、多くの大学発ベンチャーは、研究者が政府からの研究開発補助金を呼び込むための受け皿としてつくった企業が多いことである。また、多くの社長は大学の研究者も兼務しており、「世界的に優れた技術なので事業化できるに違いない」と考えている。しかし、事業化のためのマーケティング等の知見は乏しいという。

こうした状況はわが国でも古くから経験している。日本へ戻ってから何人かの産学官連携コーディネータの方にこのことを話題にした。多くのコーディネータからは、大田市の将来を大変心配する声を数多く聞いた。

実践力に勝る韓国

一方、大田市でこんな声も聞けた。「われわれは常に日本の政策に注目している。それは、日本の政策が美しいからだ。韓国はそれを参考に短期間で政策をつくり、少々乱暴でも実践してしまう。われわれは実践力が高い」とのことだ。

先日、山形県米沢市のキーパーソンの1人であるNECパーソナルプロダクツ株式会社執行役員の柴田孝氏とお話をする機会があった。柴田氏は「韓国は実践力があるから、そのぐらいの課題はちゃんと乗り越えますよ」と語った。

Deong-Seong Oh博士はワークショップの出席者に対して「欧米、日本が先行し、そこに韓国が続く。ぜひ発展途上国の出席者は、われわれに続いて欲しい」と語っていた。しかしながら、私は、韓国の実践力の素晴らしさに圧倒された。

*1
仙台市の面積は788.09㎞2、人口102万人。

*2
WTAとは、World Technopolis Associationの略。韓国・大田市に拠点を持ち、科学技術を通じて人類の繁栄に貢献するため、ユネスコと密接に連携して、世界の科学技術振興に取り組む都市の情報交換、協力を促進することを目的とする組織。

*3
「大学連携型インキュベータ整備等基礎調査」(東北大学[平成16年1月])