2008年3月号
特集  - 医療・福祉の地域産学官ネットワーク
富山、石川、福井の介護・福祉ポータルサイト
利用者、働く人、職を探す人のニーズに応える
富山、石川、福井3県を対象エリアとした産学官連携による介護・福祉のポータルサイトづくりが動き始めた。情報を共有し介護の質を高めるとともに、利用者、働く人、職を探す人のニーズに応える。

写真1


写真1 富山県厚生部長
     椎葉 茂樹氏

「介護保険制度導入はわが国の福祉施策としてはエポックメーキングなことであったが、そのコンセプトの1つが民間の参入。民間が主体で、大学、行政との連携でポータルサイトづくりが進んでいることは、介護に向き合う国民の姿勢が熟したということだろう。IT(情報技術)の仕掛けであることも興味深い」

椎葉茂樹・富山県厚生部長(写真1)はこう語る。ここに出てくる「ポータルサイト」が本稿のテーマ。富山*1、石川、福井の北陸3県を対象エリアとした、インターネット上の介護・福祉に関する総合情報サービスである。

07年11月から試行、2月に増強
サイトの概要

「29po.com」(URL http://www.29po.com/)がサイトの名称だ。「ふくぽどっとこむ」と読む。昨年11月に開設*2し、2月にコンテンツのラインアップを大幅に拡充した。とはいえ、まだまだ試行段階。今後、情報を提供してくれるサービス事業所、機器に関する企業、行政機関などを充実させる必要がある。しかし構想は遠大だ。目標とする対象者と提供する情報の概要は、以下枠内の通りである。 

人材ビジネス企業が運営、大学発ベンチャーが企画
ネットワーク

この介護・福祉情報ウェブサービスの運営主体は北証パトナ株式会社(富山市)、企画と運営に携わるのは金沢大学発ベンチャー企業の株式会社チアコム(金沢市)、さらにサイトの設計・制作はIT支援サービスの株式会社新世紀(金沢市)、創屋株式会社(白山市)である。これに、大学の知財関係者や福祉研究者らが「学生の就職支援・知識の交流」でかかわり、行政が情報の提供という形で支援している。富山県は「IT活用ビジネスモデル助成金」を出している。複数の県にまたがっているのも特徴。富山、石川両県をエリアにして始動したが、目標は北陸3県でのサービス提供だ。 

【介護を必要とする方やそのご家族へ】
介護・福祉の制度やサービス利用に関する基礎知識
介護・福祉に関する有識者の意見紹介
自宅介護の手法や活用できる機器の紹介(レンタル、購入)
ご本人の条件にあったサービス事業所の紹介
【介護・福祉業界に就職を目指す方々へ】
介護・福祉の制度やサービス利用に関する基礎知識
介護・福祉に関する有識者の意見紹介
実践で役立つ介護手法や活用できる機器の紹介
自分の個性にあったサービス事業所の紹介
【介護・福祉の仕事に従事している方々へ】
介護・福祉の制度変更や講演・勉強会に関する情報の提供
介護・福祉に関する有識者の意見紹介
実践で役立つ介護手法や活用できる機器の紹介
他の事業所での工夫や取り組みの紹介
(「施設」という言葉は特別養護老人ホームなどいわゆる「入居型」のみを指すことがあり、デイサービスなどの「通所型」、訪問介護などの「訪問型」も対象として網羅したい、という観点から、このサイトでは「施設」と言わず、「サービス事業所」という言葉を使っている)

わからないことが多く、利用者も働く人も悩む
きっかけ
写真2

写真2 北証パトナ代表
     取締役 吉森 寿信氏



写真3

写真3 チアコム代表
     取締役 平子 紘平氏

北証パトナは1952年、北陸電力や富山地方鉄道など地元有力企業出資による北陸証券金融株式会社(旧社名)としてスタートし、現在は、人材ビジネス、県の福祉サービス第三者評価機関としての業務が中心だ。北陸銀行出身で、2000年11月から同社の社長を務めている吉森寿信氏(写真2)が、チアコム社長の平子紘平氏(写真3)と出会ったことが、「29po.com」ができるきっかけだった。

同社は2005年度から福祉サービス第三者評価を行うなかで、福祉施設の人からさまざまな依頼、相談を受けた。施設や福祉サービス事業者に限らない。要介護のお年寄りを抱える一般の家庭でも、「介護の方法がわからない」「用語がわからない」「誰に相談したらいいのか」と"わからないことづくし"であることを肌で感じた。

吉森氏は、2006年春、人材探し、職探し、情報交換などを目的とした介護・福祉のサイトをつくりたいと思うようになった。「介護・福祉の問題点、疑問点に当社として真剣に対応することはできないか、を検討した。インターネットがコミュニケーションツールとして大きな存在になっている今日、第一歩として、地域に特化したサイトで交流を促し、介護・福祉サービスの質向上に役立ちたい」と考えたのだ。

だが、具体的にどうつくったらいいか妙案がなく、構想の具体化は遅々として進まなかった。そのとき、吉森氏の前に現れたのが平子氏だった。2006年11月のことである。

コミュニティー活性化を目的に起業

平子氏が社長を務めるチアコムは2003年10月設立。商店街などコミュニティー活性化のコンテンツ・情報サービスの企画・開発などが主な業務内容である。金沢大学のインキュベーション施設が拠点だ。同大学経済学部の飯島泰裕准教授のITを利用した地域活性化に関する研究成果をもとにしたベンチャー企業だ。商店街をすごろく盤に見立てて、カメラ付き携帯電話とQRコードをサイコロとして使った商店ラリーのイベントなどを行っている。

大手銀行マンだった平子氏は、2年前に2代目の社長に転じた。専業のベンチャー企業社長である。28歳と若い。ポータルサイトをつくりたいという吉森氏の申し出を平子氏は正面から受け止めた。ITを利用した地域活性化の仕掛けづくりという本業と重なり合うところも多く、「これは面白い」と思った。2人は意気投合し、構想が動き出した。

写真4

写真4 トミキライフケア
     監査役 今川 務氏



写真5

写真5 新世紀代表取
     締役 田中 尚人氏

吉森、平子両氏はそれぞれの人脈を活かした働き掛けを進めるなかで、支援してくれる人が相次ぎ、ネットワークが広がっていった。平子氏のフットワークのよさと若者ならではのITへの高い感度も大きな力になった。

福祉用具のレンタル・販売を手掛ける株式会社トミキライフケア(金沢市)の監査役、今川務氏(写真4)は吉森氏の銀行時代からの知人。同社のホームページは「29po.com」にリンクしている。「福祉用具といっても幅広い。29po.comは品揃えを強化しなければならないし、すべてリンクでは物足りない」(今川氏)という課題もある。

株式会社新世紀がこのサイトの企画にかかわったのは、2007年11月のサイト開設の数カ月前。「『金沢散歩道』というサイトを運営し、商店などにそれぞれのID(身分証明)とパスワードを与え、それぞれの商品、サービスなどのことを書き込んでもらっていた。このシステムを福祉サービス事業所に活用できた。ヒアリングも重ね、11月のフェーズIのスタートにこぎ着けた。2月の本稼動に向けての技術的な面では、創屋株式会社(松村卓也代表取締役)の全面的な協力を得ることができ、求められているサイト構築が可能となった」(田中尚人代表取締役:写真5)という。

ネットワークを広げるための潤滑剤
大学の役割
写真6

写真6 金沢大学知的財
     産本部長 吉国 信雄氏

金沢大学知的財産本部長の吉国信雄氏(写真6)は、このポータルサイトづくりにチアコムがかかわっていることについて、「大学の役割」と語る。同大学は約2年前から学長戦略経費で「健康増進支援システム」研究のプロジェクトを進めている。知財本部と同大学発ベンチャー企業が中心になり、医学系研究科・附属病院、保健学科(看護学、理学療法学、放射線技術学、作業療法学、検査技術学)、経済学、人間機械工学などの研究者とのネットワークを組んでいる。大きなテーマが「超予防」。これは「健康」と「病気」の中間領域の指標づくり、対策を研究するものだ。

「健康指標のモニタリング法開発のために必要な機能の1つがブログサービス(ウェブサービス)。この役割を果たしているのがチアコムで、2007年6月、携帯電話を利用した健康チェックでこのモニタリング法開発にかかわるようになった」(吉国氏)

大学の役割はチアコムだけではない。金沢大学、富山大学、富山福祉短期大学の福祉関係の研究者などが、支援者・機関を広げるための情報提供などさまざまな形で「29po.com」をお手伝いしている。大学には、学生の就職支援という直接的なテーマもある。

平子氏にとっては、大学関係者は心強い支援者だ。サイト運営に知恵を貸してくれそうな人を紹介、橋渡ししてくれる。時には一緒に行ってくれる。「無名のベンチャー企業の若い社長の名刺では突破できない壁を、比較的簡単に乗り越えられる」(吉国氏)。大学関係者が潤滑剤になり、ネットワークが広がっている構図が読み取れる。

孤立化に教育が追いつかない
写真7

写真7 富山福祉短期
     大学 社会福祉学科教
     授 炭谷 靖子氏

キーパーソンの1人、富山福祉短期大学社会福祉学科教授の炭谷靖子氏(写真7)は「われわれの研究の目的は現場をよくすること。改善につながらないと研究・調査に協力してもらえない」と言い、ポータルサイトに期待を寄せている。現状は、平子氏らが大学人などから研究成果のいいところを吸収している段階と見る。

炭谷氏によると、介護・福祉の世界は、底上げに向けて活動している人がいてもばらばらで軌道に乗らない、みんなが持っていることを具体化してつなぐ人がいない—など課題は多いが、大きなテーマの1つが「情報の共有化」だという。施設から在宅へ、また施設のなかでも個室化、ユニット化へという流れがあり、孤立化が進んでいる。介護を受ける人だけでなく、ヘルパーなどサービスを提供する人も仲間がどう動いているかが見えにくくなっている。

「こうした孤立化に教育が追いついていない。情報の共有化をバックアップする人材が必要」。「29po.com」はその情報共有化に貢献できるのではないかという期待である。

積極的に支援、活用へ
行政の期待

行政も好意的に「29po.com」を見守っている。「福祉職場の人材難は全国的に憂慮すべき状況である。人材が欲しい施設などと仕事を探している人をマッチングさせる支援サービスは大変ありがたい。また、介護現場で働く方同士で悩みを相談し合い、情報を共有し合うことで福祉サービスの質の向上に寄与されることを期待している」と前述の椎葉氏は語る。

同県高岡市の高岡市介護サービス事業者連絡協議会は2000年度から「介護保険サービス事業者ガイドブック」という冊子をつくり、配布しているが、「29po.com」では、同協議会と連携し、それを引用しながら、追加取材分も加えて掲載する事前準備を進めている。

同県射水市では、市が提供しているサービス事業者案内の補完的機能として、「29po.com」を活用するべく、事前準備を進めている。

かつてのように、行政側がすべてを背負い込める時代ではない。きめ細かいサービスのため民間の知恵、活動と連携することに、自治体がかなり柔軟になっているように感じられた。

全国的にみて、こうした介護・福祉のポータルサイトづくりはユニークな試みのようだ。富山福祉短大の炭谷氏は「まず、狭い範囲でしっかりしたモデル地区をつくり、それらをつなげて全県の情報を網羅し、さらに北陸3県のネットワークに広げるのも1つの方法ではないか」と語っている。

長期的には、サイトの運営はビジネスとして成り立たなければならない。また、炭谷氏の言うように、全体として底上げするようなシステムにしないと長続きしない。サイト運営に直接かかわる人たちの闘いは始まったばかりである。

(本誌編集長:登坂 和洋)

*1
富山県には福祉分野の先駆的な取り組みがある。子ども、お年寄り、障害者の垣根をなくす柔軟な補助金の出し方は「富山方式」とか「富山型」と呼ばれる。1997年度に同県が始めた「富山県民間デイサービス育成事業」はその後、各地に広がっていった。2003年11月に「富山型デイサービス推進特区」の認定を受け、介護保険指定のデイサービス事業所において身体障害者、知的障害者、障害児の受け入れを行ってきたが、2006年10月に同特区の方式が全国展開されるようになった。また、介護保険制度において小規模多機能型居宅介護事業が創設されたことに伴い、2006年7月に「富山型福祉サービス推進特区」の認定を受けた。これにより、介護保険指定の小規模多機能型居宅介護事業所において、身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児の受け入れが可能となり、通所サービスに加え宿泊サービスを利用することができるようになった。

*2
「29po.com」開設を記念して、2007年11月9日、富山市内のホテルでシンポジウム(北証パトナ株式会社主催)を開催した。デンマーク在住で、同国の福祉に関する情報をわが国で発信している小島ブンゴード孝子氏の講演と、産学官の福祉関係者によるパネルディスカッションの2部構成。