2008年3月号
単発記事
大阪大学 技術革新・技術展開能力を培う人材教育 OJE方式で高い理解度とリーダーシップ
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座古 勝 Profile
(ざこ・まさる)

大阪大学大学院 工学研究科
ビジネスエンジニアリング専攻
教授

大阪大学大学院工学研究科の社会人対象の講座「実践的パイロットプログラムによるものづくり高度人材育成」は、行政の制度的なサポート終了後、自立して開いているものである。企業から人材(社員)教育を「受託」するというユニークな方式と、On the Job Education という実践教育が特徴だ。

産業界と大学が官の支援(経済産業省の中小企業産学連携製造中核人材育成事業)で取り組むものづくり人材の育成が全国各地で展開されている。産学が一体となってプログラムを開発し、製造業の現場の技術を支える実践的な人材を育て、その供給システム構築を目指す事業である。この制度的なサポート終了後、その成果を活用して自立化するプログラムが2007年度、相次いでいる。大阪大学大学院工学研究科の「実践的パイロットプログラム(OJE)によるものづくり高度人材育成」と題する講座はその1つで、「教育受託」というユニークなシステムを採用している。運営に携わっている同研究科(ビジネスエンジニアリング専攻)の座古勝教授に聞いた。

「教育受託」は独創的な制度のようですが、プログラムの仕組みは?

大学が関与している自立化には、一般的に大学院形式と、講座開講形式に大別されるが、本学の場合は後者である。「教育受託」という制度はこれまでなかったものだ。研究受託における大学と企業の関係と同じように、大学が企業から人材(社員)の「教育」を受託するものである。参加企業とそれぞれ受託契約を結ぶ、独立会計方式の講座である。

プログラムは「技術中核マネージャー育成コース」(定員20人)と「アナログ技術中核人材育成コース」(同100人)がある。いずれも受講期間は10カ月、総受講時間はセミナーを含め約100時間である。

1企業から原則として年間100万円の授業料(大学にとっては受託料)を受け取り、最大4人まで受講できる。個人の資格で受講する場合は35万円である。参加企業は、プログラム開発などに加わった松下電器産業(株)、シャープ(株)、サントリー(株)、日東電工(株)、(株)カネカなど16社ほど。個人参加を含め2007年度の受講料は2,000万円を超えた。ただし、目標の3,000万円には届かなかった。

OJEとは何ですか

本専攻が従来から取り組んでいる実践教育のOn the Job Education方式を導入した、人材教育の進め方である。OJEは、実践的職場訓練のOJT(On the Job Training)のメリットを活用しつつも、より知識習得に重点をおいた教育プログラムで、「学習内容を他人に教えられる」ことを目標にした自己啓発型教育手法だ。

学生向けに実施しているOJE演習の具体例として「ビジネスエンジニアリング研究」がある。学生4~5人が1つのグループになる。環境、都市、マネジメント、商品企画など幅広い分野から、各チームにそれぞれ違うテーマが与えられる。以前に実施した内容として、具体的には「ユニットバスの低価格化」「大学内の自転車交通マネジメント」「テーマパークの省エネルギー」「老朽化した郊外団地の再生」などがある。テーマが与えられた後は、学生たちが主体的、積極的に調査、企業訪問、工場見学などを実施。そして、問題分析、検討を重ね、成果報告書を作成する。OJEを通じて、技術革新と今後の技術展開を図れる能力を効果的に伸ばすことができる。

ものづくり高度人材育成プログラムでも、学ぶ人の「内的動機付け」がポイントとなる。座学ではあるが、アナログ技術の場合は実際に回路を組んでもらう。当人に、なぜそのような回路にしたのかをみんなに説明してもらう。そうすることによって、受け身ではない自己啓発が身に付いていく。ここが、指導教員の課題設定など外的な要因がないと前に進めない通常の演習と異なる点である。

求められる人材像は?

2007年問題という言葉に象徴されるように、ものづくりの技術をどう次の世代に伝えていくかが大きな課題だが、「指示待ち」の人を増やすだけでは意味がない。大企業では、以前は内部で人材を育てていたが、今は即戦力を求める傾向にある。多くの企業への個別対応型即戦力教育を大学で実施することは不可能である。重要なことは、自ら考え、挑戦する「内的動機」と考えている。

また、「ものづくり全体を俯瞰(ふかん)できる人材」という視点も欠かせない。こうした面の人材育成では、本プログラムのなかで「技術戦略・研究管理講座」「マーケティング講座」「生産管理講座」「異分野技術のハイブリッド講座」を実施している。

受講者に「修了証書」を交付するそうだが?

所定の受講時間を上回り、各講座受講中に課題として出されるレポートや試験に合格した受講生には、講座終了時に、大阪大学大学院工学研究科が修了証書を講座ごとに交付している。ある程度の講座数の修了証書を受けた人には、本学大学院の後期博士課程の受験資格を与える。また、本プログラムを修了した人がその後、どういう活躍をしたかを追跡することにしている。

課題は?

企業ニーズの具現化を含め、講座の次の科目をどうするか、どの先生に講義をお願いするかなど青写真を描くことだ。講師に十分な報酬を支払えないのも頭の痛い問題だ。半ばボランティアという形では長続きしないだろう。

●聞き手 登坂 和洋(本誌編集長)