2008年3月号
連載  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
ものづくりで岩手に理想郷を実現する
-マイクロメカニズムによるイノベーションの創出を-
片野 圭二 氏(株式会社アイカムス・ラボ)に聞く
岩手大学発ベンチャー企業のアイカムス・ラボは超小型のモーター付き動力装置のメーカーだ。直径4ミリの製品からある。1ミリの幅に10本の歯車の溝が切られ、そこを動力が伝わっていく。

社名の「アイカムス・ラボ*1」は英文「Iwate Communication and Mechatro Systems Laboratory」が由来だ。企業理念に「未来の新しいコミュニケーションのための製品と技術を発信する」とある。実は社名の由来には社長のこだわりとしてもうひとつ訳がある。

1ミリに40本の歯車の溝を切る技術とは
写真1

写真1 代表取締役
     片野圭二氏

片野圭二社長(写真1)は「次のIPOは岩手大学から」と明るく語る。マイクロアクチュエータという超小型の「モーター付き動力装置」(写真2)を売り出す大学発ベンチャーだ。この装置、実業界はもちろん、大学、研究機関からも引っ張りだこの人気商品だ。直径4ミリ、6ミリ、8ミリとラインアップをそろえている。これには内側に歯車が100ミクロン単位で切られている。つまり、1ミリの間に10本の歯車の溝が切られ、そこを動力が伝わっていく仕組みだ。

使い方は、「減速することによって力を上げること」。さまざまな精密機械の位置決め、特にミクロン*2からナノ*3オーダーに精度が求められるようになった今日の科学技術を支えている。「超小型」に求められるものは「軽量・高精度・低コスト」だが、素材を金属からプラスチックに変えることで要求される性能を実現した。特に加工精度の面で、プラスチックにした効果が大きいが、そこには、地元岩手県がこれまで培ってきた金型技術が基になっている。従来から自動車産業に関係してきた現場の技術力に岩手大学岩渕明教授らの技術を融合したもの。今や、精度の面では25ミクロンの溝も可能というが「小ささを求めていくのが本分ではない」と片野社長。精度を求めることも大事だが、アクチュエータとしてトータルでユニットとして評価し使ってもらうことを心掛けている。

写真2

写真2 開発したモーター付き
     アクチュエータ

片野社長の手掛ける事業ドメインは「マイクロメカニズム」。日本語で言えば「小型機構」ということになるらしい。テリトリーは情報機器、理化学、医療機器、介護・福祉ロボット、計測器、車載・航空等活用される分野は広い。

例えば、最近の測量機械。高低差や2点間の距離を光波で測定することができる。筆者がかつて学んだ三角測量の時代は終わった。2点間に光波を発射・反射させ距離や高低差を計算するもので、光を遮る機能として1秒間に約30サイクルの高速応答性と高品質が求められる。

マイクロメカニズムは高速測定、低価格、軽量、低小電力、高精度のすべての要件をこの技術が可能にした。さらに、医療機器分野では内視鏡や血液ポンプ等に使用されるなど応用範囲は限りなく広い。耐摩擦・耐摩耗・高強度、かつ高寿命の品質をプラスチック素材で金属並みのレベルに引き上げる技術がメカニズムの中に隠れている。

企業競争に負けたことで起業を

岩手県出身でもある片野社長は、2002年5月までアルプス電気株式会社盛岡事業所に18年間勤務した。アルプス電気では、プリンター開発に携わり、600dpiの高画質フルカラープリンターとして1995年に自社ブランドで発売。同社では数少ない自社開発による自社ブランド製品。高画質カラープリンターでは他社に大きく水をあけて独走していた自慢の作品だった。2000年まで販売したプリンターは知る人ぞ知る名器だが、いいものでも事業として成功できない現実を目の当たりにした。しかしこの技術は、現在デジタルカメラ専用のプリンターに応用され今も人気商品になっている。

片野社長は2002年5月同社の盛岡工場撤退を機に退職し、1年後に当時の仲間と一緒に2003年5月に起業した。これまでのバックグラウンドを基にマイクロメカニズムでの事業領域を追求することになった。高画質カラープリンターで培った技術に地場の、ものづくり企業と協業し、さらに重要な金型技術では定評のある岩手大学の岩渕先生らの協力を仰いだ。

岩手で生まれ育った片野氏には「地域から自主開発の製品を世に問う」夢がある。元々地域には精密、金型、コネクターでは負けないものがあった。今、岩手は関東自動車工業株式会社(トヨタグループ)が絶好調。県も自動車産業に注力している。しかし、1つの企業にだけ頼るのは常にリスクが付きまとうもの。「岩手の金型も中国に負けないように頑張らないといけない」と片野氏。

技術の進化は新しい市場を生む

プラスチックでの歯車は一定の効果を確認できた。技術の進化は効率を高め、これまで考えられなかった領域に新しいマーケットを創造するという。プラスチック素材は軽量化と一桁下のコストカットを生み、新領域の開発につながっている。医療機器やロボットの分野での共同研究も進行している。地元岩手から、産業のイノベーションを興す事業に突き進んでいるのがアイカムス・ラボだ。岩手と言えば、宮沢賢治。もうひとつの社名の由来、それは宮沢賢治が言う〔理想郷:ihatov〕 を〔実現:comes〕する〔企業:Laboratory〕でもある。研究開発からものづくりまで、地域で完結できる理想郷を(i)実現する(comes)ことが同社の理念である。

「大学発ベンチャーの若手に聞く」シリーズは今回で終わります。

●取材・構成:平尾 敏

(野村證券株式会社 法人企画部 公益法人課
        産学官連携シニアマネージャ/本誌編集委員)

*1
株式会社アイカムス・ラボ http://www.icomes.co.jp/

*2
長さの単位。1ミリメートルの1,000分の1の長さ。

*3
長さの単位。1ミクロンの1,000分の1、すなわち1ミリメートルの100万分の1の長さ。