2008年3月号
イベント・レポート
国際特許流通セミナー2008
グローバル化、知財の質に重点

(1)オープニングフォーラム:グローバル市場に向けた技術開発と知財戦略 (1月28日開催)に出席して

本年1月28日、29日に開催された「国際特許流通セミナー2008」(独立行政法人 工業所有権情報・研修館 主催)に出席した。産学連携への関心の高まりを反映し、昨年同様、会場のホテル日航東京には連日1,000人を超える参加者が集まり盛況であった。

本セミナー自体、技術移転のグローバルな考え方を身に付けることを目的にしているが、今年は特に「グローバル化のさらなる進展」、「国際産学連携」、「知財の質」に重点を置いたセミナーであったと感じた。

この中で、筆者の興味を引いた標記のセッションについて、その概要を報告する。水野博之氏(高知工科大学名誉教授)の司会進行のもと、平山裕之氏(株式会社日立製作所理事)とスティーブン・スコルニック氏(3Mイノベーティブ・プロパティズ・カンパニー)が講演した。

株式会社日立製作所の場合

「オープンイノベーション」を強く意識しており、外部リソースとの協創による特許価値の最大化を目指している。

外部リソースとして、技術、特許、人、チャネルがあるが、特に事業の自由度を確保するためのパテントプール(標準化)、技術優位性を確保するためのブランド技術化に重点がおかれ、他社とのアライアンスや産学連携でこれを拡充しようと考えている。

また、同社の所有する技術・特許のポートフォリオを確立し、外部リソースとの最適な組み合わせで特許価値を最大化していく方向にある。

3Mイノベーティブ・プロパティズ・カンパニーの場合

同社は、OHP用のレンズ技術を出発点として、情報通信、オフィス、ヘルスケア、情報セキュリティなど幅広い分野で、世界60カ国以上に展開しているグローバル企業であるが、技術のコアとなるのは40程度であり、技術の「周期律表」が完成している。

これらのコア技術を組み合わせることにより、さまざまな製品、市場に対応している。つまり、同社の持つすべての技術があらゆる市場(マーケット)につながり、複雑なネットワークを形成しているところに特徴がある。

以上2つの事例は、外部リソースを活用して技術価値の向上を目指す方向、自社のコア技術をベースに極めて多方面への事業展開を目指す方向とそれぞれ異なるが、グローバル市場に向けた技術開発、知財戦略の方向性をあらためて認識させられた次第である。

(藤川 昇=(独)科学技術振興機構 産学連携事業本部
産学連携推進部 人材連携課 技術参事)

(2)パネルディスカッション:産学官連携・なぜ企業は多額の研究費投資に 至らないのか?(1月28日開催)にパネリストとして参加して
◆モデレーター: 櫻井 克己 (鹿島建設株式会社研究・技術開発本部知的財産部ライセンスグループ長)
◆パネリスト 年光 昭夫 (京都大学産官学連携センター副センター長 教授)
古川 勝彦 (九州大学知的財産本部リエゾン部門部門長 教授)
伊藤 伸 (農工大ティー・エル・オー株式会社代表取締役社長)
村松 健一 (エーザイ株式会社知的財産部渉外グループ係長)

筋書きの「切り盛り」を担う連携の実務者

◆参加報告:ディスカッションは、「日本における産学官連携の成果や問題点について議論すると共に、実務者の立場から、今後の対応策等を議論する」狙いから実施した。産学連携の目的を再確認したうえで、産学連携の機会と規模の拡大に向けて、多様な創意工夫や課題が論点として挙がった。

年光氏は、共同研究は研究と教育の新しい面を拓くものであり、大きな成果を得るためには大学研究者による本務としての取り組みや大学と企業の役割分担の明確化が重要だと訴えた。

古川氏は、九州大学が取り組んでいる企業との「組織対応型連携」を取り上げ、包括的な親契約と個別契約の2段階で締結する契約形態の工夫やスケジュール管理の手法を紹介した。

村松氏は、企業から見た産学連携の目的は、外部資源の活用や新たなシーズの発掘であると説明し、共同研究の機会は重要性が高まり、拡大基調にあると指摘した。

議論に参加し、産学の対話によって筋書きを描きながら共同研究を実行していく重要性を強く感じた。産学の共同研究に不確実な要素が多いのは当然だが、目標と役割は双方が十分に認識する。途中で進捗の遅れや方向性の変化が生じた際には、機動的に修正する。こうした筋書きの「切り盛り」を産学連携の実務者が積極果敢に担っていく発想が成果の獲得に効果的だろう。

研究成果の実用化が本質的

一方、いわゆる不実施補償についての強固なこだわりに私は最後までしっくりいかなかった。産学連携において、研究成果の実用化やイノベーションは、不実施補償よりも格段に本質的である。会場からは、大学には非常に多数の共有特許があるが、ほとんど使われていないという発言が上がった。日本の大学やTLOでは米国と比較してライセンス収入に占めるランニング・ロイヤルティの割合が低い。これも実用化の進展の差を反映しているためとみられる。

ディスカッション終了後、ある識者から、米国には見られない不実施補償の問題は日米の特許法の違いではなく、米国では本当のオープンイノベーションが実現しているためとの指摘を受けた。知識経済化が進む中で、オープンイノベーションは産業競争力の鍵であろう。研究成果の実用化やイノベーションに視点を置いた産学の連携や交渉が一段と進展することを期待したい。

(伊藤 伸=農工大ティー・エル・オー株式会社 代表取締役社長)

(3)パネルディスカッション:MOCK~契約交渉シミュレーション~ (1月29日開催)に出席して

2日目午後のMOCK形式の契約交渉シミュレーションでは、クロスライセンスがテーマとして取り上げられた。まだ経験の浅い知財マンの啓発・教育を意識した、セミナーのこうしたコンテンツは、知財・産学連携事例のトレンドの紹介と同様に意義深い。

ポイントを劇中で解説

2日目の午後におこなわれた、「MOCK~契約交渉シミュレーション~」は、4年連続して開催されている。毎回テーマが異なり、今年のテーマはクロスライセンス契約である。具体的には、ある伸び盛りの家電メーカーが、老舗であるが最近勢いがなくなりつつある大手総合電機メーカーに権利侵害警告をすることに端を発して、特許論争が両社の間に始まり、クロスライセンス契約締結の合意にいったんは落ち着くものの、その後、老舗総合電機メーカーが別の企業に家電事業部門を売却する話が浮上し、クロスライセンス契約の練り直しを迫られるというシナリオであった。臨場感のある契約交渉のシミュレーションであり、富士ゼロックス株式会社知的財産権センター・原嶋克巳氏ら関係者の準備の苦労が偲(しの)ばれる内容であった。また、契約交渉のシミュレーションを行うだけでなく、いくつかの交渉のポイントを、劇中で丁寧に解説していることが内容の理解の一助となっている。

ライセンス交渉の進め方を解説

この後の株式会社東芝知的財産部・嵯峨明雄首席主監による、「ライセンス交渉に臨む者の心得」と題する講演では、体系的に「ライセンス交渉」の時代背景からその具体的な進め方について、わかりやすい解説がなされた。上述の契約シミュレーションとともに、企業の知財契約の担当者の啓発・教育を意識した内容であり、どちらかというと、最近の知財に関連した取り組み事例やトレンドの紹介が中心になっている本セミナーのなかで異彩を放つ内容と言えるであろう。

セミナーをみわたして

一方、初日の午後におこなわれた「TLO法施行10周年を迎えて~産学連携による地域経済の活性化~」では、福岡のLSI設計、長野のカーボンナノチューブを含む新規材料開発に関するクラスターの事例が紹介された。2日目の「特許流通とライセンス」と題する福田親男国際ライセンス協会会長の講演では、技術移転活動を担う人たちにとっても地球環境問題は無縁でなく、自分たちの立場で何をすべきか考え、実行すべきという重要な提言がなされたことは印象深い。

(伊藤 正実=大分大学 知的財産本部 副本部長)

国際特許流通セミナー2008
開催日:2008年1月28日(月)、29日(火)
会場:ホテル日航東京(東京都港区)
主催:(独)工業所有権情報・研修館