2008年4月号
単発記事
産学官による県内製薬企業向け医薬品安全情報データバンク
「とやまのくすり情報ライブラリー」の狙い

中山 智紀 Profile
(なかやま・とものり)

富山県 厚生部 くすり政策課
課長

富山県は配置薬に始まる長い薬の歴史を持ち、現在も数多くの医薬品業者が集積する。同県で、県、富山大学、製薬業界が連携して、県内企業が行う学会・文献の情報収集を支援する仕組み「とやまのくすり情報ライブラリー」をスタートさせた。

「くすりの富山」における産学官連携

富山は配置薬業に始まる300年以上の「くすり」の歴史を有する医薬品関連産業の集積地である。現在も質の高い製造技術や製剤開発技術を有する数多くの医薬品業者(製造販売業者61業者、このほか製造のみの業者31業者)が存在している。医薬品の容器製造やパッケージ印刷業者等の周辺産業も充実している。医薬品産業は富山県にとっての重要産業の1つであり、これに対応して、富山県庁には薬事規制業務だけでなく薬業振興業務も担当する「くすり政策課」が存在する。

また、富山県と富山大学は相互の連携を強化し、地域のより一層の飛躍・発展に資するべく、平成17年11月1日付で包括協定を締結した。協定の1つの協力事項に医薬学研究の振興があり、既に、富山大学和漢医薬学総合研究所に産官の寄附による寄附部門を設置し、富山オリジナルブランドの医薬品開発に取り組んでいる実績がある。

医薬品製造販売業者の改正薬事法対応

平成17年4月施行の改正薬事法により、医薬品等の製造販売業の許可要件としてGVP(製造販売後安全管理基準)が規定された。この基準により、医薬品等の製造販売業者(以下「製薬企業」という)に自らが出荷する医薬品等について、安全管理情報の収集義務が課せられた。安全管理情報の1つである学会・文献報告については、個別の企業ごとに網羅的な対応をすることは困難であり、大手製薬企業はJAPIC(財団法人日本医薬情報センター)などの情報提供サービス専門の組織と契約を行うこと等により対応しているが、中小の製薬企業にとっては人員面および財務面から対応に苦慮している状況にある。

富山県の製薬企業は多くが中小企業である。このため、富山県と富山大学は包括協定の一環として、富山県の製薬企業が行う学会・文献報告の情報収集を支援する仕組み「とやまのくすり情報ライブラリー」の構築について、平成18年2月から検討を開始した。

JAPICからの協力?「県からの要請であること」を条件として

JAPICは医薬品の安全性等情報の提供サービスでわが国随一という定評のある組織である。「とやまのくすり情報ライブラリー」は行政が関与して構築するものであり、中途半端なものは許されず、JAPIC のサービスに匹敵するものでなければならない。そこで、JAPIC の保有するデータベース、ノウハウ等の利用について、何らかの形で提携が可能かどうか相談した。JAPIC のサービスは個別機関との契約が原則である。したがって、県としては当初想定していなかったが、最終的には「県からの要請であること」を条件として、JAPIC から協力していただけたのである。

富山大学によるNPO法人設立

JAPIC との提携により技術的な問題は解決されたが、JAPIC のサービスを受ける契約(窓口)機関が必要となるため、富山県での運営組織を立ち上げる必要性が生じた。県の製薬企業が取り扱う医薬品の有効成分を集約し、これらの成分に関してJAPIC から提供される安全性情報を、関係する製薬企業に迅速に伝える役割を担う組織である。これを行う組織として、富山大学のご尽力により、富山大学杉谷キャンパス内に「NPO 法人とやま医薬・健康情報ライブラリーネットワーク」(通称:とみネット、理事長・倉石泰富山大学理事副学長)が平成19 年9月に設立された。

全国初の事業が実現
図1

図1 とやまのくすり情報ライブラリー(事業イメージ)

JAPIC との連携、富山大学によるNPO 法人設立により、「とやまのくすり情報ライブラリー」(図1)の骨格は出来上がった。平成19 年11 月から20 年3月末まで富山県薬業連合会、富山大学、富山県の3者の出資で試行事業を実施した。その内容は、JAPIC から毎週提供される医薬品の有効成分(約660 成分)の安全性に関する「医薬文献・学会発表情報」を県内販売業者ごとに整理・仕分けして、毎週提供することである。大学と県が連携して、著作権処理についても解決している。

これを受けて、平成20 年4月、参加製薬企業の出資により本事業が本格スタートする。また、富山大学では入手した医薬品安全性情報を要約し薬学教育に活用していく。「とやまのくすり情報ライブラリー」は、県が調整役となって、薬業界、大学、さらにはJAPIC の協力を得て、全国で初めて実現した事業であり、「くすりの富山」ならではの取り組みと言えよう。

なお、とみネットでは、今後、県民向けに医薬・健康関連情報を提供することも検討している。