2008年5月号
連載1  - リサーチアドミニストレーターの活動に学ぶ
(前編)
6,500人の全米組織は50年の歴史
顔写真

高橋  真木子 Profile
(たかはし・まきこ)

東北大学 特定領域研究推進支援
センター(CRESS)特任准教授、
プログラムオフィサー

米国の大学には、産学連携活動を支えるリサーチアドミニストレーターという職種がある。大学等研究機関の職員として、競争的研究資金をはじめとする外部資金の申請・管理という面から研究支援活動を担う。6,500人の会員を擁する全米組織はAUTMより長い50年の歴史を持つ。2回に分けてその活動を紹介する。

産学連携活動を研究機関側に軸足をおいて担う人材は、現在の日本では、大学等研究機関(以下、大学等と略す)のいわゆる知財本部やTLO をはじめさまざまな組織に属して活動している。その職名、肩書も大学等によってまちまちである。それぞれの組織、地域の特性を最大限に活かす方策は“各組織にとって必須の機能は何かを実情に合わせて考える” ということに尽きるだろう。

米国の大学等において、産学連携活動を支える職種の1つに、競争的研究資金の申請・管理という面から研究支援活動を担うリサーチアドミニストレーターという仕事がある。昨年秋その年次大会に参加して見聞きしたことを織り交ぜながら、これから2回に分けて、リサーチアドミニストレーターの活動を紹介し、日本の産学連携活動へのインプリケーションを引き出すことを試みる。

Research Administratorとは

競争的研究資金のマネジメントに携わるこの職種は正しくはUniversityResearch Administrator(URA、もしくはRA と略す。本稿では以下RA とする)という。米国の大学等では専門職として確立している。RA が担う業務は次の2つに区分される。

1. 競争的研究資金の応募に関する業務
(Pre-Award Administration、以下Pre-Award と略す)
2. 競争的研究資金採択後の業務
(Post-Award Administration、以下Post-Award と略す)

表1 RAに必要な能力とPre-&Post-Award

表1 RAに必要な能力とPre-&Post-Award

Pre-Award は、提案書の書き方指導、各種手続き支援、契約交渉・作成、決裁を行い、Post-Award は研究費の会計管理・報告対応が主たる業務となる。一般的にPre-Award とPost-Award おのおので必要となるスキルを表1 に示す。特に民間企業等とのContract に基づく研究(活動)では、知的財産の取り扱いについてTLO との協力、ライセンシングアソシエイトとチームでの検討も行うということであり、日本の現在の状況からもそれは想像に難くない。

また、科学的知識や研究歴等については、表1 に「望ましいが……」とあるとおり、全体として必須のスキルではないが、特にPre-Award のRA にはそれを求め強化を図る研究大学も最近出てきた。

図1

図1

この議論を進めると、「扱う資金(大別するとGrants*1、Contracts*2、Cooperative Agreements*3 となる)の性格により、必要なスキル、重要な業務段階が異なるのでは」という疑問もわいてくる。図1 は財源別にそれを図示したものである。こちらも日本の状況からある程度想像でき、納得できるものである。

RAのキャリアパスとCPA

RA は大学等の職種名であり、資格ではない。最も初期レベルのスタッフの求人では、RA としての経験は問われないことが多い。RA の、特にPost-Award 担当の多くは、経済、会計関係の学部で学んだ経験をもつ。

TLO のライセンシングアソシエイトのキャリアパスが産業界でBusinessDevelopment やライセンシング担当、特許事務所と多様であるのに比し、RA は大学等の間を移動する転職が普通である。

その際に有効なのがCRA(Certificate Research Administrator)で、これは一定年数以上の経験を受験資格とし、試験に合格すると付与されるもので、資格維持には5年ごとの更新プログラムの受講が必須となる。例えば、求人資格に「5年以上のPre-Award の経験、CRA 取得者は優遇」などと記載される。これは組織構造にもよるが、Sponsored Research Agreement の契約締結・管理業務を担う部署では、CRA 資格者を置くことを学内で定めているところもある。

NCURAとは

このようなRA を束ねる会員組織がNCURA*4 である。これは、“NationalCouncil” だが、個人資格で参加するのが特徴で、全米の1,000 以上の研究機関に属する約6,500 人の会員からなり、個人のスキルアップと大学等の研究支援活動全体の活性化を目的とする。その設立はAUTM*5 より古く50 年の歴史がある。ワシントンにある事務局でフルタイムの事務局長と数名のサポートスタッフが、年次大会以外にも、多様な活動(ExecutiveMeeting、Regional Meeting、各種の教育コース、教材販売、出版、ノベルティーグッズ販売等)を支える。

設立の1959 年当時わずか45 人の仲間で始めた年次大会は、昨年49 回を数え参加者は2,100 人に達している。

年次大会は3 日間*6 にわたり、全体セッション、トピックを絞った7、8 トラックが同時進行で開かれる個別セッション*7、ポスターセッション、さらに今後のテーマを議論しあうワーキンググループ等から構成されている。さらにプログラムの中で特筆すべきは、NIH やNSF の担当者がその1年の主なルール変更、その解説を行うセッションが設けられていることで、分厚いルールブックを片手に持った多くの参加者が見られた。

このように知識を得たい者にとっては大変盛りだくさんの充実した内容であるとともに、所属機関の地域ごとのレセプションが設けられていたり、地域のテーマカラーのバッジを配布する等ネットワーキングを促すさまざまな仕掛けがなされている。

参加者の何人かへのインタビューからは、[1]ネットワーキング(さらにはリクルーティング)、[2]実務のスキルアップ、[3]各種情報収集を効率よく行える場として年次大会を楽しんでいる様子が伝わってきた。また、「NCURA」と大きくロゴの入ったTシャツやマグカップの販売カウンターの前に休み時間になると列ができていることからもうかがい知れた。

ほとんどの参加者は所属組織の経費により参加しており、職員の参加希望が多く順番待ちで、数年に1回参加するという大学等も多いようだった。またこの開催に合わせてその前後には別料金の教育トラック*8 もあり、そちらは自己負担で参加し、来年のCRA 受験を目指すという参加者もいた。

参加者リストによれば、07 年の参加大学等は300 以上。1機関当たり平均参加者は3.4 人だが、スタンフォード大学28 人、ウィスコンシン大学(マディソン校)28 人、カリフォルニア大学(サンフランシスコ校)19人、MIT12 人、Caltech10 人等、技術移転関係でも有名な大学からはかなり多くの参加者があり、またNIH からも22 人でファンディングエージェンシー(Funding Agency、以下FA と略す)との対話の場としても機能しているようだ。

なお、このNCURA 年次大会とは別に、Federal Demonstration Partnershipという枠組みで、公的競争的研究資金を配分する政府側機関と、その資金を使って研究する研究機関側の対話の場があるそうだ。これは全米10 のFA と98 大学等の関係者により1986 年に始まり現在も活動が続いている。公的競争的研究資金をより活用するための取り組みとして、最近日本でもその活動の紹介がされており*9、今後注目されるものだと思う。

「 RA の仕事は、スポンサー、ファカルティー双方の利益最大化を目指した着実な研究活動実行のための触媒のようなもの」とは年次大会で知り合った参加者の言葉だ。いい研究をすることが研究者の幸せであり、FA への最大の貢献であり、大学のためでもある、というコメントは力強く、印象強かった。

次回は米国州立大学における事例をもとに大学のマネジメント体制とRAに求められる資質を紹介する。

*1
主に政府系資金。

*2
主に民間資金。

*3
政府系、もしくは他大学からの資金。

*4
N a t i o n a l C o u n c i l o f U n i v e r s i t y R e s e a r c h Administrator

*5:AUTM:Association of University Technology Managers(大学技術移転管理者協会)
世界中の大学・非営利研究機関、および大学付属病院などで研究成果にもとづく知的財産を取得・管理・活用する関係者の会員組織。35 カ国、約3,200名の専門家で構成されている。毎年春に年次大会が開催される他、種々の統計調査(AUTMLicensing Survey)、ニュースレター・会誌の発行、レベルごとのトレーニングコース( 初心者向け、Executive Forum,Graduate Course)、東部、中部、西部、カナダ地区などの地区ミーティングなど多彩な活動を行っている。

*6
全3日間の参加費は一人700 ドル程度。

*7
1コマ90 分~180 分。例えばPre-Award, Post-Award用のIP/Leagal, Compliance,Financial/Audit,Department等に分類される。

*8
一日参加で200 ドル程度。

*9
詳細は、H19 年度第2 回プログラムオフィサーセミナー(H20.2.22 開催・JST 主催)。http://www.jst.go.jp/po_seminar/index.htmlH19 年度第1 回(H19.6.27 開催)にはNCURA の紹介も有。