2008年5月号
単発記事
弘前大学を中心に産学でプロテオグリカン研究
弘前大学や地元企業の角弘などは、動物の軟骨を構成する物質の1 つ「プロテオグリカン」を使った製品開発に力を入れている。この物質は、産学連携でサケの鼻軟骨から高純度に精製する技術を確立したもの。この応用研究を通して、大学と地域企業、自治体などとの連携の課題も見えてきた。

写真1 弘前大学副学長 加藤 陽治氏

写真1
     弘前大学  副学長
     加藤 陽治氏

「オーラル(口腔)ケア大手のサンスター株式会社が平成19 年度から研究に加わり、20 年4 月からは大学に研究者を派遣。当面、機能性食品など応用研究に全力で当たり、1、2 年のうちに目に見える成果を出したい」

加藤陽治弘前大学理事(研究・産学連携担当)・副学長(写真1)が語るのは「プロテオグリカン」のこと。タンパク質と糖鎖が共有結合した複合糖質の一種で、コラーゲンやヒアルロン酸と並ぶ動物の軟骨を構成する物質の1 つである。平成12 年に同大学医学部教授だった故高垣啓一氏と株式会社角弘(青森市)が共同で、世界で初めてサケの鼻軟骨から高純度、低コストかつ大量に精製する技術*1 を確立したのが出発点だ。

平成19年度から都市エリアの一般型

同大学などは平成16~18 年度、文部科学省の都市エリア産学官連携促進事業(連携基盤整備型)で研究に取り組み、19 年度からは同事業の一般型に採択され2 年目を迎えている。これまでに角弘がサケ鼻軟骨由来高純度プロテオグリカンの製造プラントを設け、和光純薬工業株式会社から試薬として発売しているほか、低価格化を実現するために、その微粉末の作成技術を開発した。また、「軟骨細胞の三次元培養方法」「免疫抑制作用」など3 つの特許を出願している。

同大学は「弘前大学プロテオグリカンネットワークス」という横断的な研究組織をつくっている。現在、4 テーマ*2 に取り組んでいる。

現在販売している高純度の製品は10mg で1万6,000 円(希望納入価格)。加藤副学長によると、低コスト化が最大の課題という。精製する前の段階の「微粉末」の利用を目指すのはコスト低下が目的で、食品ならこれで十分だ。機能性食品の1 つ「炎症性腸疾患の人向け食品の開発」は有力なターゲットで、研究段階では効果が確認できるという。

アンチエイジング関係で見込まれる製品は、スキンケア剤、創傷皮膜剤、じょくそう改善・保護剤、オーラルケア製品など。新たに参加したサンスターの狙いもこうした製品のようだ。「関西の大手企業が弘前大学の研究シーズと開発研究内容に興味を示し、本事業に参画してくださったことは、本学のみならず地域にとって非常に心強い。地元企業も積極的に本事業に参画し、弘前大学と一緒になり応用化・実用化研究に取り組んでいただきたい」(加藤副学長)という。

都市エリア事業の期間内にこれらの製品のいくつかに目鼻を付け、その後、医薬品などの開発につなげたいというのである。

新規分野挑戦に専門家を招く
写真2 株式会社角弘 プロテオグリカン研究所長 児島 薫氏

写真2 株式会社角弘
     プロテオグリカン研究
     所長  児島 薫氏
     

一方、角弘の研究開発の照準も弘前大学とほぼ同じだ。鉄鋼、建材資材、燃料、電子機器、保険、旅行業などの部門も持つ総合商社の同社にとって、平成12 年から乗り出したプロテオグリカン事業は全く新しい分野。それだけに期待が大きい。平成19 年2 月には社内に「プロテオグリカン研究所」をつくった。同研究所の所長には、平成16~18 年の都市エリア事業連携基盤整備型のときに、弘前大学地域共同研究センター・科学技術コーディネータだった児島薫氏(写真2)を迎えた。児島氏は企業、公的な研究機関などで糖鎖の研究に長年携わってきた。

児島氏は「今は、プロテオグリカンが産業化・実用化に向けて歩み始めたところ。まだ、検討すべき部分は残されているが、ぜひとも、このプロテオグリカンという青森発の機能性素材を国内外に展開させていきたい」と語る。

地域の産官との深い関係、社会貢献が課題

同事業に参加している企業は角弘、サンスターのほか大塚製薬株式会社。この都市エリア事業に限らないが、弘前大学にとって地元の企業とどう関係を深め、研究成果を社会還元していくかが大きな課題である。同県に限らず特定の業種の企業が集積する一部の地域を除くと地方の産業は総じて厳しい。青森県には青森市、八戸市、弘前市の3 つの極があり、弘前からネットワークを広げていくのが難しい事情もある。

同大学の共同研究受け入れの1件当たりの金額をみると、平成7~10年は70 万円台だったものがその後増加し、17、18 年は160 万円前後。その要因は県外企業との共同研究が増えてきたことである。県内の企業との共同研究は平成15 年がピークで、16 年からは減少している。

同大学は共同で研究してくれる県内の企業に研究費などを支援する事業「弘大GOGO ファンド」を平成17 年度に始めた。年間数件を見込み、支援額は1件あたり50 万~500 万円。しかし、これまでに採択されたのは2件、いずれも健康食品だ。

官との連携についても課題は残る。官では青森県工業総合研究センターが参加しているが、事業の中核機関は同大学が務めている。大学がこの事業の中核機関になっているのは極めて珍しいが、ほかに受け皿になる機関がないという事情にもよるようだ。

加藤副学長は「地域産業の振興、新産業創出のためには、産学官金が一体となって取り組まなければならない。この弘前都市エリア事業が成功するか否かは、目標に向かい、関係者間での組織的かつ効率的な連携がいかに図れるかである。弘前大学発研究シーズで“弘前発の新産業誕生” を目指して、さらなる努力をしたい」と抱負を語っている。

(本誌編集長:登坂 和洋)

*1
日本、米国、ロシアで特許

*2
「機能性食品の開発」「アン チエイジング外用剤・化粧品等の開発」「新糖鎖創薬への応用」 「医薬品および医療素材の開発」