2008年5月号
海外トレンド
米国における技術移転の潮流と成功事例
-地域の発明からグローバル展開へ-
顔写真

木村 雅和 Profile
(きむら・まさかず)

静岡大学イノベーション共同研究
センター長、教授


静岡大学で開かれたシンポジウムから、米国における技術移転のトレンドや成功につながる可能性のある技術移転活動について紹介する。Ocean Tomo, LLCのディレクター、Dipanjan Nag氏は、技術移転のなかでも大学からのスピンオフ企業の創出・育成支援は特に重要であると指摘している。

はじめに

2008 年3 月21 日に日本の大学の国際的産学連携活動の推進を目的に、文部科学省・静岡大学の主催で「国際技術移転シンポジウム—グローバルな知的財産活用のキープレーヤーを目指して—」が開催された。基調講演として、Ocean Tomo, LLC のディレクターであるDipanjan Nag 氏(Ph.D.,MBA)(写真1)が米国における技術移転のトレンドや成功につながる可能性のある技術移転活動について発表した。その講演要旨を紹介する。

1万9,000件の発明開示のうち62%が出願
写真1 Dipanjan Nag氏(Ph.D., MBA)

写真1 Dipanjan Nag氏(Ph.D., MBA)

Thomas L. Friedman 氏の著書によると、世界は急速にフラット化しているが、知的財産の観点からいえば、世界はいまだフラットではない。その最先端を行く米国では、1970 年代においては企業価値の88%が有形資産であったのに対して、2000 年代では80.4%が知的財産などの無形資産になっており、技術移転活動がより活発になってきている。

AUTM レポートによると、米国の大学における研究費は1990 年代より単調に増加しているが、2006 年の産業界からの研究資金は全体の10%未満であるのに対して、連邦政府からの研究費は65%以上であり、依然として連邦政府の役割が大きいことが分かる。またこのような研究費の増加に伴って、米国の大学全体での発明の開示は増加しており、2006 年では1 万9,000 件の開示があり、そのうち62%が出願されている。

米国大学の技術移転の成功例としては、スタンフォード大学の遺伝子組み換え技術やGoogle、フロリダ大学のGatorade、ウィスコンシン大学のビタミンD、ネブラスカ大学リンカーン校の農業・食品関係事業などのメガヒットがある。特にスタンフォード大学の遺伝子組み換え技術は、これまでに350 億ドルのセールス、2,442 の新製品、468 社へのライセンスの実績を挙げている。このような技術移転の中で、大学からのスピンオフ企業の創出・育成支援は特に重要である。その際に、ベンチャー企業の株式を大学が保有して、共同で事業を展開していくことが重要で、例えばスタンフォード大学はGoogle の7,574 のクラスA 株式と165 万289 のクラスB 株式を保有している。

日本への提言

既に日本は世界一の特許出願国であり、確実に知的財産大国になりつつある。2006 年の日本における大学から産業界への技術移転数は1,700 件で、米国大学の技術移転数4,053 件の約40%にも上り、飛躍的に増加している。これは米国大学の技術移転数が、Bayh-Dole 法の施行後約10 年を経た1991 年でも1,229 件であったことを考慮すると、国立大学の法人化後3 年でこの数字を達成していることは驚異ですらある。ただ、ライセンス収入は米国の16 億ドルに対して、日本は1,190 万ドルで米国の100 分の1 以下であり、日本ではまだいわゆるメガヒットが少ないことが分かる。

今後、日本の大学が国際的な産学連携を推進する上でポイントとなることは、 [1]ライセンシング [2]ベンチャー創出・育成 [3]経済発展の3 つの観点から個々の大学のゴールを見定めて戦略を確立することである。限られた予算で最大限の効果を生むためには、個々の大学の強みに特化して知的財産ポートフォリオを作成し、知財活動を展開することが重要である。個々の研究者が事業展開を考えるのではなく、大学知財本部やTLO などの技術移転機関が研究成果をビジネスにつなげていくことのできる若手人材を早急に育成できるかが、今後の成否の鍵となる。

最後に技術移転においては3 つのR(Relation)が重要である。最初に教員・研究者との関係(第1 のR)の構築。研究者と良好な関係を持つことにより、質の高い発明の開示が可能となる。次に地域および全国的な産業界との関係(第2 のR)の構築。産業界との信頼関係なくして、ライセンスはあり得ない。そして最後に他機関の技術移転の専門家との関係(第3 のR)の構築。他機関との情報交換、情報の共有は効率的な技術移転活動に欠かせない。地域での発明をグローバルに展開することが今後ますます重要になるであろう。