2008年6月号
特集  - 科学で地域を元気にする
茶の抗アレルギー作用を利用した食品開発 機能性茶の「べにふうき」栽培が広がる
『べにふうき』という茶の新しい品種の栽培が鹿児島県を中心に急速に広がっている。きっかけは国の試験場と大学の共同研究で、茶葉中のメチル化カテキンという成分が抗アレルギー機能を持っていることを発見したこと。同成分を多く含む「べにふうき」を選び出し、普及を進めてきた。科学的な研究が地域の農業活性化に結び付いた例である。

奄美群島のほぼ中央、人口約2万7,000人の徳之島(鹿児島県徳之島町、伊仙町、天城町)。県都・鹿児島市から約460キロ離れたこの島で2002年、茶の栽培が始まった。農作物はサトウキビ中心で、他の換金作物を探していた。「手掛けてみないか」という県や県経済連の呼び掛けに「われわれでもできるのか」と皆が喜んだ。現在、茶栽培農家は10数軒、栽培面積は計5ヘクタールに広がっている。

きっかけは茶の最先端研究

なぜ、徳之島で初めて茶が植えられるようになったのか。糸を手繰っていくと茶に関する最先端の研究の成果に行き着く。「科学」の恩恵である。

1996~2000年度、農林水産省新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業「茶機能検定系の構築と茶成分新機能の解析」プロジェクトの1つとして、農林水産省野菜・茶業試験場、九州大学、静岡県立大学のチームが、茶の抗アレルギー作用について研究を始めた。目的は茶の新しい機能を見つけることである。その中で、「べにほまれ」という品種に強い抗アレルギー作用があること、茶葉中のメチル化カテキンという成分がその機能を持っていることを発見した。これが出発点だった。

含有量が多いメチル化カテキン

2001年、国の野菜・茶業試験場は独立行政法人農業技術研究機構の野菜茶業研究所に改組*1。先のプロジェクトの発見は、同研究所を中心としたコンソーシアム*2が取り組む、「茶の抗アレルギー作用を利用した食品の開発」(2001年9月~2006年3月)の研究に引き継がれた*3。具体的に目標としたのはメチル化カテキンを利用した抗アレルギー食品の開発である。

写真1

写真1:べにふうき摘採

メチル化カテキンが多く含まれる「べにほまれ」は紅茶系の古い品種(茶農林1号)で、紅茶の自由化後、農家が自主的に抜根してしまっていた。その子供(後代)の「べにふうき」が1993年に品種登録され、試験場の中に植えられていた。調査すると、こちらの方がメチル化カテキンの含有量が多かった。

そこで、「べにふうき」を農家に栽培してもらうため、茶の大産地である鹿児島県(茶業試験場)に相談。同県および同県農協組織のバックアップで普及に乗り出した。現在、徳之島を含む鹿児島県全体で手掛ける農家は100軒を超え、栽培面積は約70ヘクタール(写真1)。静岡県など他県の計は30ヘクタールほど。ゼロから出発し、この数年で一気に100ヘクタール以上に拡大したことになる。

栽培が比較的容易

「べにふうき」の特徴は、茶の栽培経験の少ない人でも比較的容易に生産できること。メチル化カテキンは成熟葉に多く含まれ、茎にはほとんど含まれないので4~5葉まで大きく伸ばした茶芽を摘む(普通は「一心二、三葉」を摘む)*4。普通の緑茶の品種は茶を摘む適期の見極めが難しいが、「べにふうき」は適期から一週間くらいずれても影響が小さい。また、通常は1番茶の相場が一番高いが、「べにふうき」は1番茶から秋冬番(計3~4回摘む)まで同じ値段だ。機能がポイントの品種だからである。

上記のメチル化カテキンを利用した食品の開発プロジェクトの研究成果は次の通りである。

「べにふうき」は、紅茶・半発酵茶用品種だが、紅茶にするとメチル化カテキンが消失してしまうので、緑茶として生産することとした。葉位、熟度、茶期によるメチル化カテキンの変動が明らかになった。
メチル化カテキンの抗アレルギー作用のメカニズムが初めて明らかになった。
体内への吸収率(腸管吸収)や血中滞留性が高い特性が判明した。
通年性アレルギー(鼻炎、アトピー性皮膚炎)、季節性アレルギー(スギ花粉症)ともにヒトでの効果を確認した。
飲料としての最適抽出方法や、食品応用時の苦味、渋味低減方法等を開発した。

緑茶飲料、キャンディーなどを商品化

コンソーシアムに参加した企業等からこれまでに、緑茶飲料、キャンディー、健康補助食品、ベビーパウダーが発売されている。コンソーシアムはいくつかの企業の新たな参加を得てさらに拡大し、農林水産省の新需要創造フロンティア事業(2006、2007年度)で「べにふうき」の需要をさらに増大させるために、入浴剤、ヨーグルト、低カフェイン飲料、保湿クリーム等の開発研究が行われた。

品種選択などが奏功
写真2

写真2
     農業・食品産業技術
     総合研究機構
     野菜茶業研究所
     野菜・茶機能性研究
     チーム長
     山本(前田) 万里氏

この「べにふうき」プロジェクトを引っ張ってきた農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所野菜・茶機能性研究チーム長の山本(前田)万里さん(写真2)は、成功の要因として次の4つを指摘している。

1. 候補品種は幾つかあったが、栽培形質のいいものを選んだこと。「べにふうき」は収量が多い、樹勢が強い、病気にかかりにくい——特徴がある。
2. アサヒ飲料の当時の荻田社長にコンソーシアム参加、商品化を決断してもらったこと。農家の人が「自分たちの茶がどう飲んでもらっているのかわからなかったが、『べにふうき』は飲んだ人から、これは良かったと喜んでもらえ、その声を直接聞くことができる。喜ばれるお茶づくりは初めて」と語るのを聞いて、「夢があるね」といわれた。
3. 鹿児島県、同県農協組織の支援を得られたこと。
4. 飲料を飲んでもらった人に効能実感があったこと。

茶の新しい機能についての産学官の研究開発が、地域の農業活性化に結び付いたわかりやすい例である。

(本誌編集長:登坂 和洋)

*1
独立行政法人農業技術研究機構は、さらに2003年に他組織と統合して「独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構」に改組、2006年には「独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構」と改称。野菜茶業研究所はそれぞれの組織のなかで一貫して茶業研究の拠点だった。

*2
参加は同野菜茶業研究所のほか、九州大学、静岡県立大学、名古屋女子大学、東京海洋大学、アサヒ飲料株式会社、森永製菓株式会社。

*3
農業技術研究機構の「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」(提案公募型競争的資金)に採択された。

*4
野菜茶業研究所のホームページで栽培マニュアルを公開している。 http://vegetea.naro.affrc.go.jp/index.html