2008年6月号
特集  - 科学で地域を元気にする
地域イノベーション ~ここがポイント~
顔写真

荒磯 恒久 Profile
(あらいそ・つねひさ)

北海道大学 教授、創成科学共同
研究機構プロジェクト研究部門
長、知財・産学連携本部事業化
推進部長

地域イノベーションをうまく進展させるための方策を3つのポイント-「担い手」「地域テーマの取り上げ方」「地域で完結しない地域イノベーション」-から検討している。地域イノベーションの担い手について「信頼感によってつながるネットワークと求心力のあるキーパーソンの存在が不可欠」と指摘する。

地域イノベーションの担い手

イノベーションが「技術革新」と訳された時代は終わり、「これまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会に大きな変化を起こす」ことと考えられるようになった*1。地域イノベーションの進展は図1のように「商品アイデア」の形成から「販売」までのステップを踏む。産学官連携は図1のフローでは中央部分に位置し、しかも大学・研究機関と地域企業の間にはギャップがある。担い手はもはや大学と地域企業だけでは済まされない。ギャップを埋め、地域企業と「学」をブリッジする公設試験研究機関(公設試)や地域科学技術財団等の役割が極めて大きくなる(図1)。

図1

図1 地域イノベーションの進展

イノベーションのスタートは「新たな価値を生み出す」アイデアの創出である。この基盤は基礎研究を担う「学」ではなく、社会のニーズに最も敏感な地域企業となる。アイデアが生まれる場は地域企業・学が一体となったサロン的空間であり、信頼感によってつながるネットワークと求心力のあるキーパーソンの存在が不可欠である。この空間の形成には科学技術財団や地方自治体のリードが大きく成否を左右するケースが多い。

地域テーマの取り上げ方

地域に足を下ろし、地域の比較優位性がどこにあるかを楽観的にも悲観的にもならず見つめることが出発点となる。視点として[1]地域に独創的な研究があるか、[2]地域にイノベーティブな企業があるか、[3]他地域に見られない資源があるかを冷静に見る必要がある。多くの地域ではこの3要素がすべてそろうことは少なく、最も特徴的な1つの要素からスタートしている。

都市エリア産学官連携促進事業(文部科学省)で成果を挙げている函館エリアを例に取ると、まず[3]の視点から水産物の利用を考える。次いで[1]の視点として北海道大学大学院水産科学研究科およびはこだて未来大学と北海道立工業技術センター内に独創的な研究を育成し、地場の中小企業を共同研究企業としてイノベーティブな生産活動の発展を促し[2]の視点を実現するという流れが見られる。ここで函館市のリードが全体を支えるとともに、工業技術センターの部長であった宮嶋氏のキーパーソンとしての活動があった*2

知的クラスター創成事業(文部科学省)に取り組んできた富山エリアは第1に「300年あまりの歴史を持つ医薬品産業の伝統と工業集積」を優位性とした*3。[2]の視点である。この産業優位性を富山大学、富山県立大学および富山県工業技術センターの研究に結び付け([1]の視点)、地域企業に波及させるとともに、新産業創出を目指した大学発ベンチャー「エスシーワールド株式会社」を立ち上げ、地域にイノベーティブな企業を創出している。県のバックアップは言うまでもない。

このように地域イノベーションを進展させている地域では「戦える地域の資源」を見極め、その優位性を地域企業のものとする戦略が共通して見られる。

地域で完結しない地域イノベーション

地域イノベーションはその地域だけでは完結しないことにも注意する必要がある。表1は知的クラスター創成事業(第Ⅰ期)の4地域における共同研究企業の推移を地域内企業(赤)と地域外企業(黒)に分けて示したものである(ここで地域とは都道府県を指す)。横軸は事業の年次、縦軸には初年度の共同研究企業数を100として増減を相対表示したものである。地域1と2は政令指定都市、地域3と4は地域中核都市である。地域外企業は4地域共に大幅な増加が見られる。増加は事業の半ばから顕著になるケースが多い。それに比べ、地域4を除いて地域内共同研究企業の増加は小さい。

    表1 知的クラスター創成事業(第Ⅰ期)の
         4地域における共同研究企業の推移

表1

2つの理由が考えられる。第1は地域イノベーションの発展により産業分野が拡大し、地域内企業のみでは技術の成果を十分受け入れることができなくなったことによるものであり、第2には、生産量と販売量が増大し、他地域のより大きな企業との連携が進んだためである。地域イノベーションの発展方向としては当然と考えられるが、地域経済活性のためには地域で創出したコア技術を地域の企業が確実に握る戦略が重要であり、地域イノベーション計画当初から十分に意識する必要があろう。

*1
イノベーションの創出に向けた産学官連携の戦略的な展開に向けて.2007-8-31, 科学技術・学術審議会,技術・研究基盤部会,産学官連携推進委員会,p.1.

*2
産学官連携ジャーナル.Vol.3, No.7, 2007, p.14-16.

*3
平成18年度知的クラスター創成事業中間評価報告書.p.180-211.