2008年6月号
連載2  - リサーチアドミニストレーターの活動に学ぶ
(後編)
企業と契約した予算、研究期限を管理
顔写真

高橋 真木子 Profile
(たかはし・まきこ)

東北大学 特定領域研究推進支援
センター(CRESS)特任准教授、
プログラムオフィサー

米国の大学において、産学連携活動を支援・管理する職種「リサーチアドミニストレーター」について、その具体的な業務の内容、企業との契約をマネジメントする体制を紹介する。

前回に引き続き、米国の大学等において、外部との連携研究の活動支援・管理を行う職種“リサーチアドミニストレーター(Research Administrator、以下RAと略す)”の活動を紹介する。後編では、全米から2,100人の関係者が集った第49回NCURA年次大会で、筆者が学んだRAの具体的な仕事の進め方、マネジメント体制について紹介し、日本の産学連携活動との比較を通じて日本における組織・人の在り方を考える。

ペンシルバニア州立大学を例にしたRAの業務

ペンシルバニア州立大学*1(以下、Pen State大と略す)は建築、工学、理学および経営・経済学が有名な研究大学で、大学ランキングで全米48位、州立大学としては14位である。年間の研究資金は35億ドル。内訳は連邦政府64%、産業界20%、州政府8%、その他8%で、スポンサーは1,000を上回る。この研究資金の獲得・管理を担うRAは、Pre-Award(企画・情報収集から申請まで)担当が28人、Post-Award(採択後~事業終了まで) 担当が18人、ITサービスグループ14人(政府系資金の申請がオンライン化したことに伴い独立に設置とのこと)の計60人体制である。Pre-とPost-の割合は各大学等の方針によりさまざまであるが、Pen State大は連邦政府(NIH、NSFも含む)資金が多いので、Pre-Award担当の割合が比較的高い。参考に前回紹介した資金源ごとの業務の重要性(例)を再掲する(図1)。

図1

図1 研究費の資金源ごとのPre-, Post- 業務の
     重要性

産学連携機能を担当する部署としては、これ以外にTLOや知財管理部門があり、産業界との契約交渉は専らこれらの部署が担うという体制は、日本の大学での役割分担と変わらないだろう。RAはむしろその業務の中心を、契約で定めた予算管理、研究成果の期限も含めた管理に置いている。日本の産業界が、国内と比し海外の大学との大型共同研究をやりやすい理由の1つに「海外の大学は契約で定めたことをきちんと履行してくれる」という声を聞くことがある。もちろん日本と米国では産学間の契約条項の量や研究開始前・終了後の規定が異なるのは当然であるし、研究者自身の心構えも異なるだろう。しかし、外部との契約に関するマネジメントを、研究者とは別のRAが行うという体制はその評価に効いているのではないかと想像される。

このマネジメントを行う際に重視されるのが、Principal Investigator(以下、PIと略す)と称される研究代表者との関係である。議論した多くのRAがこの点を指摘していた。なお、研究者のキャリアにおいて、PIの経験は非常に重要なものであり、研究担当理事相当のポジションになるまでに15年以上のPIの経験は必須で、日本よりその研究成果のアウトプットに対し重い責任を負うという印象を受けた。

典型的な大学の研究マネジメント体制
図2

図2 米国の研究大学における研究関連組織の例



図3

図3 PI とともにRA が行っていくべき仕事とは?

図2に研究大学における関連組織の体制を例示する。RAは、主に図中左側の部門に属し、競争的研究資金の申請・管理を行うが、組織構成により他の資金も併せて扱う場合もある。企業との研究契約交渉において、部門間の対応方針が割れることがある。「研究費の額、情報管理、期間、研究分担等」と、「知財に関する諸条件」のどちらを優先するかなどの相違である。その場合、最後はVice President of Researchのトップダウンでの判断により決定する。

最近多くの研究大学でStrategic Planの専門部署ができている。一言でいうと、複雑な案件、大型の案件(NSFセンターの申請、複数企業が関与し長期間にわたるようなコンソーシアム等)を担当する。NCURA年次大会でも関連したセッションがいくつか設けられており、大型研究大学のPre-Award担当者による熱のこもった議論がなされていた。産学連携活動を支える組織の歴史が日本より長い米国の大学でも、環境の変化に併せ進化を続けているという印象が強い。筆者が現場で日ごろ考えている点*2にかなり通じており、議論のポイントを図3に示す。また本誌読者にはなじみ深いであろうライセンシングアソシエイトとの役割分担を、一般的な日本の業務フローと対比*3して図4に示す。

RAの将来像

RAという仕事を進めていく上で重要なのは何だろうか。メリーランド大学のResearch Developmentのディレクターを務めたMs. A. Geronimoは、日本で行われたセミナー*4で講演し、次の項目を挙げた。

1) ファカルティーとの信頼関係の醸成
2) スポンサーとのいい関係の構築
3) 優れたサービスの提供
4) 研究コミュニティーへの尊敬
5) ファカルティーとスポンサー双方の利益を念頭においた課題解決のための能力と意識の高さ
6) 柔軟性

図4

図4 ライセンシングアソシエイトとの役割分担

またRAのコミュニティーを引っ張るNCURA幹部とのディスカッションではこの業務のエキスパートたちの“柔軟性”を実感する場面が随所にあった。例えば米国の大学事情に不案内で的を射ない筆者の質問にも、背景を確認した上で咀嚼(そしゃく)した回答が返ってきた。日本の大学で産学連携の実務を担う1人としては、先の6つの点に加え、RAとしてのプロ意識を挙げたいと思う。そしてその基には個人のモチベーションを支える組織基盤としてのCRA(Certificate Research Administrator)*5もいい影響を与えていると想像する。

前述のPen State大でAssistant Vice President of Research を務めるDavidの言葉を最後に上げておく。

“Flexibility is good for everyone; Research itself, Researcher, PI, RA, and Funding Agency.”そして、「RAはいつでも“Flexibility”と“Responsibility”の最適なバランスを心掛けることが重要だ」と付言した。

最後に

以上RAという仕事、研究推進支援の機能等を、日本の一実務者の観点から紹介した。日本においても政策決定機関やファンディングエージェンシーと研究機関との間の対話の場は増え、相互理解が有形無形の効果を及ぼしていると思う。しかし、例えばプログラムごとに会計基準が異なり、その書類づくりに当たる研究機関と研究者の負荷は増えているというのが実感である。日本でもRA機能の重要性は増していくであろうし、将来的には制度改革への参加も含め、それを担う人材の活躍の場が広がることを願っている。


謝辞

RAの活動調査は、科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「マイクロシステム融合研究開発拠点」事業における調査活動の一貫で行われたものである。この機会を頂いたことを感謝する。

*1
http://www.psu.edu/ur/about.html。教員5,639人、スタッフ1万3,661人、学生総数8万5,600人(うち大学院生1万968人を含む)、1855年農業大学から始まった州立の総合大学。

*2
詳細は高橋真木子「大学における知財マネジメントとは」 http://www.ipnext.jp/management/mot_r/vol8.html

*3
比較対象に関する詳細は、別途UNITTj2008 No.3に紹介。

*4
JST主催 H19年プログラムオフィサーセミナー(第1回、第2回)http://www.jst.go.jp/po_seminar/index.html

*5
詳細は、別途UNITTj2008 No.3にて紹介。