2008年6月号
単発記事
大学における成果有体物の管理と活用
顔写真

深見 克哉 Profile
(ふかみ・かつや)

九州大学 知的財産本部
技術移転グループ
特任教授

50余りの大学を対象にした成果有体物に関する調査で、契約情報が一元管理されていないことなどがわかった。調査結果を基にその管理活用方法について述べる。

平成18年に全国の50を上回る大学における成果有体物の現状を調査した。九州大学の事例を紹介しながら、この調査結果を基に、今後どのように成果有体物を管理活用すべきかについて述べる。

大学における管理の現状

平成14年の文部科学省「研究開発成果としての有体物の取扱いに関するガイドラインについて」**1では、大学における成果有体物の「研究機関及び研究者が研究開発の場で自由に成果有体物を利用できるよう、円滑な提供と適切な取扱いを確保することが必要である。また、産業利用を通じて国民に利益が還元されるよう、適切な契約により提供すること」が示されている。

平成18年度21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム「大学におけるマテリアルトランスファーの現状と問題点に関する調査研究」**2では、上記ガイドラインが提示されて以降の大学はどのように成果有体物を管理して、活用を進めているのかを53の大学、研究機関を対象に調査した(詳細は報告書参照)。

その結果、以下のことがわかった。

1. ポリシー・契約書ひな形等

ポリシー、規則等はほぼ完備され、成果有体物は大学帰属とされているが、契約ひな形等の整備が約38%の機関で未完であった(平成18年度調査時点)。

2. 成果有体物契約(以下MTAと略す)の管理

教員の認識の問題、大学内の契約決済の複雑な流れから、契約情報が一元管理できない。また、国内法、国際法の遵守(じゅんしゅ)は、主に研究者に任されており、保有する成果有体物の履歴等の信頼性が欠ける可能性が高くなっている。

3. 人員

知的財産本部で積極的に成果有体物の履歴、MTAなどの管理をするには、専門知識も必要で、契約交渉などに工数が掛けられない現状にある。

4. 活用の状況

平成16年から18年の3年間に成果有体物を譲渡した件数は約4万3,000件有り、3年間で20件以上譲渡して成果有体物を活用していた大学は、7大学(53機関中)と少なかった。譲渡先の比率は企業73%、アカデミア27%であった。

大学内の成果有体物はあまり活用されていない現状にある。

今後の解決すべき問題

上記の調査事業の結果から、成果有体物の自由な利活用促進に関して解決すべき重要な問題点が3つ挙げられる。

1. 学内の啓蒙(けいもう)

契約無しの譲受、教員個人による契約があることは事実である。実際に九州大学では、特許を出願する際に個人契約が有ることがわかり、しかも、次のようなものもあった。

契約違反により、特許出願ができなかったケース
契約違反(目的外使用等)により企業とトラブルになったケース
成果有体物の譲渡で、他者の権利が存する材料を使用する等、権利が混在した成果有体物であったため、ライセンスが断念されたケース

知的財産を管理する部署では、上記のようなトラブルを回避するためには、研究者のMTAに関する理解、国内外の法令遵守は非常に重要である。成果有体物の学内サポートを充実させ、研究者が適正な成果有体物の取り扱いを行えるように、学内啓蒙活動を行うことが必要であり、すべての出発点といえる。

2. 情報の集中化

学内啓蒙とともに、その成果有体物の利活用に伴う権利と契約の管理を集中することが好ましい。リサーチツールなどの特許を出願する際に、そのリサーチツールを作った材料の権利、契約の有無を把握していない場合、権利侵害などの難渋な事態を引き起こす可能性が大いにある。また、国内法、国際法(生物多様性条約、外国為替および外国貿易法)などは高度な管理が必要となり、そのような観点からも、マテリアルの履歴管理も重要になると思われる。

大学の成果有体物の中には、海外の政府からの事前承認を取らずに持ち込まれた物も多い。九州大学では、海外からの薬草、野菜に関して生物多様性条約の遵守のため、海外の政府と交渉した例があり、国際法の遵守も知的財産を管理する部門において、十分な管理が必要であることを実感している。米国においては、大学の成果有体物の履歴管理としてeMTACommons**3のようなシステムも構築されようとしている。

3. 人材育成(契約のスピードアップ)

そもそも個人契約が起こる理由として、大学に契約を任せた場合の有体物入手の遅延や譲渡の際の手続きの煩雑さが懸念されることが主な理由でもある。成果有体物ごとの特殊性、契約の多様性から、多くの労力を使う。従って、学内の信頼を得るためにも、成果有体物の取り扱い、契約に精通した人材の育成が、上記の2点と合わせて必要である。

九州大学の取り組み(有体物管理センター)

九州大学では、上記の問題点に対して、成果有体物を多く持つ農学研究院と知的財産本部が連携して、平成15年に有体物管理センターを設けた。次の3つが目的である。

A. 成果有体物の履歴管理
B. 教員の煩雑な成果有体物の譲受作業の代行
C. 積極的な成果有体物の活用

図1

図1 九州大学における成果有体物の取扱状況



図2

図2 九州大学有体物管理センターホームページ
     http://bbs2.agr.kyushu-u.ac.jp/mmcq/
     htdocs/index.php

センターを設置したことで、契約管理件数、譲渡対価の獲得など効果が上がっている(図1)。現在、成果有体物として約1万7,000系統をデータベース化し、平成20年4月に公開したホームページ(図2)には、約150の成果有体物を掲載している。今後、さらに大学内の成果有体物の収集を拡大し、工学・医歯薬系の有体物をデータベース化し、教員との連携・啓蒙活動を進めて、「研究機関及び研究者が研究開発の場で自由に成果有体物を利用できるよう、円滑な提供と適切な取扱いを確保する」ことを推進していきたい。今後、ホームページを活用した教員との双方向コミュニケーション化、契約のひな形の簡素化・システム化、契約の一元的管理体制の強化(署名者の統一等)を進めていく計画である。







●参考文献

**1 :文部科学省.“成果有体物ガイドライン”.(オンライン)入手先<http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/sangakuc/020901.htm>, (参照2008-4-30).

**2 :九州大学. “平成19年度21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム報告書「大学におけるマテリアルトランスファーの現状と問題点に関する調査研究」”.(オンライン)入手先<http://imaq.kyushu-u.ac.jp/other/library.html>, (参照2008-4-30).

**3 :online material transfer system eMTA Commons.入手先<http://emtacommons.org/>, (参照2008-4-30).