2008年7月号
単発記事
グローバル製造業はユビキタス技術で神経網を形成せよ
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松島 克守 Profile
(まつしま・かつもり)

東京大学 総合研究機構
イノベーション政策研究
センター長、教授

価値創造企業とは企業の内外の知識を知恵に換えて顧客に届ける企業のことである。情報を知識に変換する情報システム、言い換えるとネットワークという神経網が企業価値を創造する。

情報は現場でしか金に換えられない

顧客情報、たとえどんな貴重な情報でもそれを使って現場の営業担当者が売り上げを伸ばしてくれない限り、価値にはならない。研究成果、技術、ノウハウ、それは製品開発の現場がヒット商品づくりに活かしてくれなくては売り上げにはならない。生産技術、これも製造の現場がこれで品質、コスト削減、納期短縮の実を挙げてくれなくては利益にはならない。現場とは情報を金に換える場と考えたい。

世界中に経営資源を展開した本邦の製造業も、グローバル企業として経営資源を効率よく管理運用できていない。語学の、特に日本語の問題もある。だからこそグローバルな情報システムが重要となる。在庫が見えず、生産計画もハッキリしない状態でグローバル競争の最前線にある海外の営業部門は悲鳴を上げているのに、経営者が有効な行動計画すら持ち合わせていない例をよく見る。情報が開示されれば現場の知恵を働かせられるのに、短時間で決断を迫られる現場に情報が開示されない。実は情報管理しているわけではなく、開示しないのは情報システムが対応できないだけであるが、これは経営者の責任放棄の典型である。これが日本の経営者の多数を占める。そのため日本企業の間接部門の生産性は一流の外資系企業に比べると恐ろしく低い。昨今のサービス残業に対する厳しい環境が経営者の意識改善のきっかけになれば幸いである。

情報は、時間の世界で金に変換される

時は金なりとはよく言うが、実に至言である。先んずれば人を制す、とも言うが。時間を縮めるということは本質的な価値を企業にもたらす。時間短縮がいかに社会変革をもたらすかは、新幹線や高速道路が経済に与えた衝撃を見てきた世代には自明であろう。情報でビジネスプロセスの時間を短縮できれば必ずそれは金と等価交換できる。情報技術で、製品開発の期間短縮、納期短縮、資金回収、どれを取っても競争力や収益に直結する。企業情報システムは企業の各事業機能(部門)を流れている情報を扱うシステムである。筆者はいつも、「情報に時制あり、過去形、現在形、未来形。未来形の情報処理が大きな価値を生む」と申し上げている。生産実績、売上実績、資金回収実績、と言った過去形情報、受注、出荷、請求等と言う現在形の情報、需要予測、生産計画、配送計画、そして顧客からの引き合い、という未来形情報がある。企業情報システムで最も価値を生むのは未来形の情報処理である。

情報は知識に変換され価値を生み出す

価値創造企業とは、社内と社外の知識を知恵に換えて顧客に価値を届ける企業である。企業の中で個人が創造的な活動をすることが、その企業を存在・成長させる源である。したがって一人一人に創造的な仕事を支援する道具立てを用意する必要がある。情報を知識に変換する情報システムが重要となる。すなわち、IT を活用したナレッジマネジメントシステムを構築することが必須である。ナレッジマネジメントというと大量の情報を収集してデータベースにして提供するような議論があるが、実は人と人とをネットワークすることである。ナレッジマネジメントとは何か、それは情報のジャストインタイムである。新しい商品や市場を創造しようとする社員に必要な情報を必要な時に、必要な場所で、与えるシステムこそがナレッジマネジメントシステムである。これからはネットワークという神経網が企業価値を創造する。

ユビキタス技術を組織の神経網とせよ

グローバル経済の中で、米国経済、日本経済、そしてEU 経済の変遷は劇的であった。日本の企業は市場における継続的な取引関係の中に、現場情報を連結・蓄積する方法で補完関係を系列としてシステム化した。全体の相互作用で収穫逓増を実現した。その資本主義システムの中でもネットワークの重要性が高まる。企業戦略はシステム間競争の戦略である。企業間のシステム間競争は企業の知識獲得能力と編集能力とそれに基づいた行動能力の競争である。すなわち情報技術をいかに活用するかどうかにかかっている。

最近の情報技術の進歩は消費者と供給者を新しい型で結び付け、顧客の好みに対応した多様化を低コストで実現しつつある。したがって企業組織もネットワーク型に変化しつつある。ネットワーク型の組織とは、いわば絶えず関係を組み替えていく組織である。だから変化に対応できる組織になる。そしてネットワークは諸機能、諸分野を融合させる。通信ネットワークは社会インフラとして実装された。情報端末の操作リテラシーも普及した。現在は情報革命の先の時代に既になっている。ブロードバンド、ウェブ、ユビキタスという先端技術と企業戦略の統合が必須である。日本企業が築き上げた人のネットワークをグローバルに展開し、俊敏に行動する組織体とするためにはユビキタス技術を駆使してグローバル組織の神経網を構築することが急務であるが、この進展がはかばかしくないのが気になる。