2008年7月号
単発記事
株式会社アクトラス 観察範囲広い顕微鏡のステージ開発
シーズは秋田大学の圧電素子変位を増幅する機構
秋田県横手市のITベンチャー企業の株式会社アクトラスは、観察範囲の広い顕微鏡のステージを開発、売り出した。シーズは秋田大学の村岡幹夫准教授が発案した、圧電素子の変位量を増幅する機構である。同准教授と共同で研究してきた。ステージの移動範囲は0.4ミリ四方で、一般的なステージのおよそ5倍だ。

写真1

写真1
     株式会社アクトラス
     代表取締役社長
     眞田 慎氏

秋田県横手市にある株式会社アクトラスは、研究開発型のIT(情報技術)ベンチャー企業である。もともと電機メーカーのシステムエンジニアだった眞田慎氏(写真1)が1996 年に起業。画像処理の検査、センサーの測定・計測などの機器を受託開発していたが、2000 年ごろから自社製品の開発に重点を置いた。その1つ、電子顕微鏡の観察物の移動を制御する高性能装置を中心に紹介する。

シーズ

秋田大学工学資源学部の村岡幹夫准教授が発案した、圧電素子の変位(位置が変わる)量を増幅する機構が技術シーズである。半導体製造装置など対象をナノ(10 億分の1)メートル単位で移動させる必要がある機器では、部材として圧電素子(積層圧電アクチュエーター)を用いるのが一般的だが、圧電素子はその変位量が0.1%と小さく、効率が悪いという問題点がある。

図1

図1 ハニカムリンク機構

村岡氏のアイデアは圧電素子の変位をハニカムリンク機構(図1)によって増幅することで、その課題を解決しようとするもの。六角形の角が内側に向いているような形状である。その変位拡大率は約13 倍である。

きっかけ

眞田氏は、秋田県高度技術研究所(現在の秋田県産業技術総合研究センター)主催のオプト・エレメカ研究会で村岡氏が発表した「AFM 集中質量型プローブ」による薄膜表面の形状観察に驚嘆し、心惹かれ、ナノテクノロジー分野への可能性を模索して、村岡研究室の門戸をたたいた。

村岡氏主宰のナノワークス研究会に参加。圧電素子の限界と課題解決のための提案として披露された村岡氏のアイデアが、ハニカムリンク機構であった。

当時、圧電素子の変位量を大きくする競合品は市場に存在した。てこの原理を応用したヒンジ型、楕円シェル型などだが、眞田氏は村岡氏発案の機構を見て「これなら十分太刀打ちできる」と考えた。

共同研究
写真2

写真2 倒立顕微鏡向けナノXYステージ

そして、村岡氏のこの要素技術をもとに、村岡氏とアクトラスの連携がスタート。2003 年に共同で特許出願。ハニカム機構を用いたアクチュエータを「ハニカム・アクチュエータ」と名付け、精密工学会等で発表。親指サイズ(13 × 14 × 52 ㎜)ながら、変位量は400 マイクロメートル、分解能は10 ナノメートルで、サイズあたりの変位量は世界最高水準のアクチュエータである(分解能10 ナノメートルは、対象を10 ナノメートル単位で移動させること)。

2006 年に、ハニカム・アクチュエータを交差して配置することで縦と横に変位拡大する製品を開発、「ナノXYステージ」(写真2)という名称で売り出した。

製品化

2007 年、社団法人東北経済連合会のマッチング支援(買い手を紹介)の対象になり、デジカメ、内視鏡など精密機器メーカー系列の販売会社に、倒立顕微鏡に対応したナノXYステージの提供を行う販売契約を結んだ。出荷はこれから行う。

この装置は、縦横が各8.4 センチ、高さが2.6 センチの本体に、シャーレを乗せる直径約10 センチの円盤が付いている。これを倒立顕微鏡の観察台に置き、その上にシャーレを乗せる。電動でシャーレごと動かし、観察物の見たいポイントに合わせる。この世界では、これを「ステージのポジショニング(位置決め)」と呼ぶが、縦横10 ナノメートル単位でスライドさせられる。「ステージを東京ドームの広さに例えると、これを2.5 ミリ間隔で動かして観察できる機能」(眞田社長)という。

ハニカム構造の生み出す変位が大きいので、観察できる範囲も広い。顕微鏡向けナノXYステージの移動範囲は0.4 ミリ四方で、従来の一般的な圧電素子を用いた顕微鏡用ステージのおよそ5倍の広さだ。半導体製造装置メーカーなどでの需要を見込んでいる。

展望

現在アクトラスは、村岡氏を取締役に迎えるとともに、デジタル画像処理技術を専門とする環貫淳氏も役員に加わり、ナノ工学分野への発展に向けた充実を図っている。

次のステップとして、この圧電素子の変位量を大きくする原理を、多軸の計測・加工に応用する研究に取り組んでいる。「ナノXYステージ」は平面(縦横のXY軸)だが、これに上方(垂直のZ軸)の機能を付加することによって、電子顕微鏡内での加工の効率が大幅に上昇する。

また、同社は2007 年9月、東北大学のTLO から集中質量型プローブの特許を譲り受けた。近い将来、ハニカム・アクチュエータと集中質量型プローブを融合し、ナノ計測加工の分野での製品化を目標に掲げている。

(本誌編集長:登坂 和洋)

株式会社アクトラスの概要
     ( 本社所在地:秋田県横手市旭川二丁目2-32、URL:http://www.actlas.co.jp/
     代表取締役社長:眞田 慎   資本金:1,000 万円