2008年7月号
連載  - 産学連携で世界に挑む
株式会社西部技研
ハニカム技術で省エネ、環境保全、空調機器
株式会社西部技研(本社・福岡県古賀市)はハニカム技術をコア技術とする研究開発型の優れた中小企業である。さまざまな機能性素材をハニカム状に成形し、その構造体に除湿、除塵、脱臭、熱回収など各種機能を持たせ、省エネルギー、環境保全、空調などの機器を開発、製造している。有機溶剤濃縮装置で世界市場の約70%のシェアを持っているのをはじめ、海外展開にも積極的だ。

ハニカムのローターがコア技術

株式会社西部技研の本社ビルに入ると、同社の基本技術であるハニカムを使ったモニュメントがあり、そこに創業者、隈利實氏(故人)の「知識の集積からしかアイデアは生れない」という言葉が15 カ国の言語に訳されて配置されている。

写真1

写真1 ハニカム触媒

同社の前身は、1961 年、同氏が九州大学工学部研究室勤務の傍ら開いた私設の研究室。当初はガラス板無接触搬送などの受託開発、65 年に株式会社を設立して独立、面状ヒーターの開発、製造を手掛けた。石油危機時に開発したハニカム構造を使った全熱交換器が当たり、経営が軌道に乗った。

このハニカム技術*1写真1)、特に円筒状のハニカム構造体であるローター(写真2)がその後の同社のコア技術となった。ハニカム構造は [1] 小さなハチの巣状の穴が無数に集まった構造なので空気抵抗が少なく省エネルギー [2] 空気が接する面積が大きく、機器の大きさに比べて大きな効果を引き出せる [3] 軽くて強い――という特徴がある。

隈扶三郎代表取締役社長

隈扶三郎代表取締役社長

同社は、さまざまな機能性素材をハニカム状に成形し、その構造体に除湿、除塵、脱臭、熱回収など各種機能を持たせ、省エネルギー、環境保全、空調などの機器を開発、製造している。加工技術、製造装置の開発も自社で行っていることが強みとなっている。展開している製品の柱は全熱交換器、除湿機、有機溶剤濃縮装置の3つである。

全熱交換器にイオン交換樹脂を利用
岡野浩志取締役技術開発本部長

岡野浩志取締役技術
     開発本部長

全熱交換器は、建物の空気を換気する際、排気中の熱・湿度エネルギーを回収し給気側へ戻す省エネ機器である。心臓部となるローターには、熱・湿度交換用の吸着材*2 としてイオン交換樹脂を用いている。「イオン吸着式」は98 年に同社が世界で最初に開発したもので、臭気を吸着しにくい。業界ではそれまで、吸着材としてシリカゲルの微粒子を使用するタイプが主流であったがこのタイプは臭気を蓄積し、高温多湿時にその臭いが出るという問題点があった。イオン吸着式はこの問題を解消した。同社の全熱交換器は国内で70%ほどのシェアを握っている。

同社が手掛ける除湿機はデシカント(吸湿剤=吸着材)を使ったタイプ*2 である。国内では50 ~ 60%のシェアがあるという。決め手は心臓部であるハニカムローター(通称:デシカント除湿ローター)。主要国で特許を取得しており「世界最高水準の品質、性能」(岡野浩志取締役技術開発本部長)。基本技術は84 年に開発し、改良を重ねてきた。製法はこうだ。

写真2

写真2 ハニカム構造体であるローター

[1] 無機繊維の紙をハニカム状に加工し、ローターの形に巻き付け加工する(これをマトリックスという)。
[2] シリカゲル、金属珪酸塩、あるいは特殊機能を有する吸着材などをマトリックス内で反応重合させる。

こうした手順により、メタルシリケート(金属イオンを含んだ高性能シリカゲル)を用いたハニカムができる(写真3写真4)。

このハニカムを構成する部材そのもの(バインダー)を吸着材にする製法は世界初。「ハニカム全体が吸着材なので性能が高いし、繊維をマトリックスとして吸着材が一体化しているので、粉末化して飛散することもない。水で洗っても性能が変わらない」(岡野氏)。

写真3

写真3 ガラス繊維紙(合成前)

写真4

写真4 ガラス繊維紙(合成後)

世界シェアは70%

3つめの柱である有機溶剤(VOC =揮発性有機化合物)濃縮装置は印刷工場や半導体工場などで使われる。工場から発生するさまざまなVOC、臭気成分をローターに吸着させ、高倍率に濃縮して取り出す。

市場の歴史を振り返ると、世界的にVOC 規制が広まったのは80 年代。同社は77 年に活性炭繊維紙をハニカム加工する技術を開発しており、その製品は脚光を浴びた。しかし、VOC 処理ニーズの多様化や、活性炭製では発火の懸念があるといったことから対応が難しいケースが増えてきた。

これに対応するため、同社は88 年、分子ふるい効果を有する特殊合成ゼオライト(疎水性ゼオライト)を吸着材としたセラミックハニカム回転濃縮装置を開発し米国で特許取得。大半の部材が無機質でできているので耐熱温度が高く、濃縮ローターの可能性を拡大した。その後、性能を高めるとともに、多種類のVOC に対応できるように製品の多様化を進め、これまで困難であったメタノールも除去できる製品も開発した。世界市場における同社のシェアは約70%という。

70 年代半ばから韓国、スウェーデン、ドイツの企業と業務提携をしたり、技術移転したりするなど早くから海外に目を向けてきた。93 年には、スウェーデンのデシカント除湿機メーカー、DST 社を買収*3。日本からローターを送り、同社で製品(標準品)に組み立てている。

2001 年、米国市場で同社製品を販売する米国法人を設立*4。また、昨年1月、中国江蘇省常熟市に工場*5 をつくり、熱交換器の製造を始めた。中国国内および東南アジア向けだ。

研究志向を引き継ぐ

創業者の研究志向を受け継いでいるためか、研究開発にはことのほか熱心だ。デシカント除湿機では熊本大学教授であった広瀬勉氏と長年にわたり共同研究を行ってきた。九州大学にはVOC 処理装置関連で共同研究を、熱交換器、デシカント除湿機では金沢大学や久留米工業高等専門学校と連携した。特許を取得した技術開発の多くは学会などの表彰を受けている*6。ホームページでも学会発表、各種受賞歴を詳しく紹介している。今年4月からは社員を1名、九州大学の化学系の博士課程に入学させている。

隈扶三郎代表取締役社長は産学連携・研究開発型の経営方針について「当社は『独創と融合』を経営理念として掲げている。つまり個々が持つ独自性と創造性を尊重しつつ、それらをあらゆる次元で発展的に融合させることで新しい価値を継続的に生み出していく事が開発型企業としての当社の存在意義であり、それが産学連携の基本指針となっている」と語っている。

(本誌編集長:登坂 和洋)

株式会社 西部技研の概要
   (本社所在地:福岡県古賀市青柳、URL:http://www.seibu-giken.co.jp/index.html
   代表取締役社長:隈扶三郎氏
   設立:1965 年7月   資本金:1億円   従業員数:200 人

*1
ハニカムといっても、必ずしも六角形ではなく、三角形、台形などが基本(写真1)。

*2
かつては「吸着剤」と表記していたが、約10年前に日本吸着学会が「吸着材」という呼称に統一するとの見解を示した。単なる薬品ではなく、構造に特徴がある機能材であるというのが理由。同社の、それ以前の受賞タイトルは吸着剤のままにしている。

*3
除湿機にはほかに「コンプレッサー方式」と、デシカントとコンプレッサーを組み合わせた「ハイブリッド方式」がある。

*4
社名を「Seibu Giken DST AB」とした。

*5
西部技研環保節能設備有限公司を設立。

*6
主な受賞は次の通り。87年日刊工業新聞・十大新製品賞「除湿機用超低露点ローター」、92年日本吸着学会・技術賞「無機吸着剤ハニカムによる気体分離装置」、94年化学工業界技術賞「ハニカム積層吸着剤による気体の連続精製装置」、2002年分離技術会・技術賞「ハニカム除湿ローターを用いた吸着式デシカント空調機」、同年化学工業界・技術賞「吸着式デシカント空調システム」の開発。