2008年7月号
イベント・レポート
第7回産学官連携推進会議
地域拠点の「エコシステム」を提示

洛北の景勝地、宝ヶ池の国立京都国際会館で毎年開かれる「産学官連携推進会議」は回を重ねて今年、第7回。全体会議、分科会等があった初日の6月14日だけで参加者はおよそ4,300人。展示コーナーは14、15の両日とも活況だった。

岸田文雄内閣府特命担当大臣(科学技術政策)は「革新的技術戦略~国際競争力強化と世界的課題解決に向けて~」と題して基調講演を行った。同戦略の技術の選定、仕組み・環境整備などのほか、7月の洞爺湖サミットを目前に控え、低炭素社会実現に向けた技術戦略、革新的環境エネルギー技術開発の推進について熱く語った。

科学技術による地域活性化については、新しいビジョンとして「地域拠点の『エコシステム』」を提示した。エコシステムは、「植物、動物および微生物の群集とこれらを取り巻く非生物的な環境とが相互に作用し1つの機能的な単位を成す複合体」にちなんで命名したもので、大学、研究機関、企業、ベンチャー、金融機関、自治体など地域内の拠点間の連携を進めるほか、地域外からの人材、資金の流入、国の制度を活用して、地域の成長を目指すとした。

三菱電機株式会社取締役会長で日本経済団体連合会(日本経団連)評議員会副議長の野間口有氏は日本経団連を代表して「産学官連携の多様化と深化に向けて」と題する特別講演を行った。野間口氏は日本経団連知的財産委員会委員長、日本知的財産協会会長も務めている。

現状認識として次の3点を示した。

1) 産学官で、国際競争力強化などの課題を共有できておらず、オープンイノベーションを通じて課題を克服する仕組みが弱い。
2) 政府の研究開発費、研究人材等のインプットが、国際競争力強化等のアウトカムに十分につながっていない。
3) 欧米主要国は国家レベルで成長力強化等に向けた政策を展開しており、わが国の国際競争力は低下していく恐れがある。

こうした現状を踏まえ、「産業界が積極的な役割を果たしつつ、課題解決型イノベーションに向けた改革を進め、わが国の国際競争力強化につなげるべき」と提言した。

一橋大学イノベーション研究センター長・教授の米倉誠一郎氏も特別講演を行った。演題は「イノベーションによる日本再活性化」。

米倉氏は、イノベーションは技術革新ではなく、新しいパラダイムの創出にあり、現在は「パラダイム・チェンジ」の状況にあると述べた。わが国は、戦後の工業化の時代のモノを売る国から、ソリューション(課題解決)の国へ生まれ変わるべきであるとして、ベトナムのハノイにあふれる日本製のバイクを例として挙げた。ここではバイクや自動車が多いが、機能している交通信号が少ない。日本はバイクを売るだけではなく、それを含めた交通システムとして輸出するべきで、それがソリューションであると指摘した。そして、ソリューション・プロバイダーとしての日本を考えていかなければならないと述べた。

今会議の「趣旨」は「特に、地域の科学技術シーズを、サービス産業も含めた新規創業や既存企業の活性化につなげるための地域の産学官連携」について議論を行い、「地域イノベーションのあるべき姿」を探ること。産学官連携の世界にとって「地域」は比較的新しく、かつ難しいテーマである。取り組みのすそ野を広げたいという主催者の意気込みが表れたのが、第2回会議から続いている「産学官連携功労者表彰」。今年は新たに厚生労働、農林水産、国土交通、環境の各大臣賞が加わり11賞となった。

合わせて16の受賞事例をみると、「完全養殖クロマグロの産業化」(科学技術政策担当大臣賞)、「函館マリンバイオクラスター形成の推進」(文部科学大臣賞)、「岡山リサーチパークインキュベーションセンターを拠点とした地域の一体的連携支援事業」(経済産業大臣賞)、「『宮崎公設試発SPG技術』を活用した地域活性化」(同)など地域産業に密着したテーマが多かった。

(登坂 和洋:本誌編集長)

分科会Ⅰ「科学技術による地域イノベーション」
-中小企業によるつなぎ力-
分科会Ⅰ 「科学技術による地域イノベーション」
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
原山 優子: 東北大学大学院工学研究科 教授
○パネリスト
中島 基善: ナカシマプロペラ(株) 代表取締役社長
山田 廣成: (株)光子発生技術研究所 取締役
立命館大学電子光情報工学科 教授
古川 勇二: 東京農工大学大学院技術経営研究科長 機械システム専攻教授
山内 晧平: 愛媛大学 社会連携推進機構 特命教授、南予水産研究センター長
(前 北海道大学副理事、創成科学共同研究機構副機構長)
山岸 徹雄: 信州スマートデバイスクラスター 事業総括
福水 健文: 中小企業庁 長官
後藤 芳一: 中小企業基盤整備機構 理事

本分科会のテーマは、現福田政権が戦略課題視している地域間格差の是正や国力の維持・強化策として広く社会、国民から期待されているものである。すなわち、従来の公共事業型ではない地域イノベーションモデルとして期待されているもので、政府は、昨年11月の第71回、本年5月の第75回総合科学技術会議をはじめとして、各方面でトップテーマとして取り上げ、その一部は平成20年度から既に施行されている。ただし、テーマが大き過ぎて、そのスコープや期待する姿、エッセンス、シナリオが分かりにくく、本ジャーナルの編集委員会でも議論した経緯がある。そこで、これらを明らかにすることを目的として参加したが、残念ながらクリアな答えを得ることはできなかった。ただし、課題として、[1]中小企業による「つなぎ力」の強化、[2]地域産学官連携の強化、の2点をあえて掲げ議論することにより抽出された内容は、以下の3点、[1]中小企業のあるべき姿として自ら変革する中小企業であること、[2]地域戦略とその牽引役は大学を始めとする現場に委ねられていること、[3]国の役割は「つなぎ」の仕掛け作りやコーディネーターの質的向上を支援することなど、である。そのことから、それぞれの課題は大きいものの今後の産学官連携活動現場として取るべきスタンスのヒントは得ることができた。

(藤井 堅:東京農工大学大学院技術経営研究科 非常勤講師)

分科会Ⅱ「産学官連携のグローバル展開」
-日本のビジネスチャンスの可能性-
分科会Ⅱ 「産学官連携のグローバル展開」
○主査
米倉 誠一郎: 一橋大学イノベーション研究センター長・教授
○パネリスト
朝霧 重治: (株)協同商事コエドブルワリー 代表取締役副社長 兼 COO
荒川  亨: (株)ACCESS 代表取締役社長
アレン・マイナー:
(株)サンブリッジ 取締役創業者
山海 嘉之: 筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授
サイバーダイン(株)社長

ベンチャーから3名、ベンチャーキャピタルから1名がパネリストで登場した。ACCESSの荒川社長は大学を中退して起業。筑波大学教授でサイバーダイン社長の山海氏は自分の研究が高じて自ら起業することになった。協同商事コエドブルワリーの朝霧副社長はビール事業のリエンジニアリング。それぞれ高い志を実現するために事業を推進し、世界に発信するベンチャーに育った。

朝霧副社長は、ビールの品質向上に努め国際的なブランディングに成功し、今や世界の有力レストランに商品を提供するまでになった。

ACCESSは携帯電話の組み込みソフト企業で、世界最大のシェアを誇る企業だ。国内の事業基盤を確立している間に国際化には一歩遅れをとったが、ついに世界のリーディングカンパニーに成長。

サイバーダインは、肢体が不自由なヒトのための補助ロボットを作っているが、今や作業補助ロボットとしての機能ももつ。海外からも地域の産業の中核にすべく複数の国から招聘(しょうへい)が来ているという。

それぞれ状況は違うものの、事業の発展に「国際化」をキーワードにおいている。日本でベンチャーキャピタル事業を実践しているアレン・マイナー氏は日本のビジネスチャンスの大きさと可能性を指摘し、世界で羽ばたく戦略を最初から持つことを提言しエールを送った。

(平尾 敏:野村證券株式会社 法人企画部 公益法人課 産学官連携
シニアマネージャ)

分科会Ⅲ「国際競争力強化のための知財戦略」
-“研・資・弁・経”の個人での連携の必要性-
分科会Ⅲ 「国際競争力強化のための知財戦略」
○主査
野間口 有: 三菱電機(株)取締役会長
日本経済団体連合会知的財産委員会 委員長
日本知的財産協会 会長
○パネリスト
松見 芳男: 伊藤忠商事株式会社 顧問、伊藤忠先端技術戦略研究所長
村口 和孝: 日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表/ゼネラルパートナー
寺西  豊: 京都大学「医学領域」産学連携推進機構 副機構長
羽鳥 賢一: 慶応義塾大学 教授
知的資産センター 所長
松田 岩夫: 参議院議員(元科学技術政策担当大臣)
林 いづみ: 弁護士 永代総合法律事務所、工業所有権審議会委員

それぞれ立場が異なるパネリストの議論から[1]取り巻く環境が著しく、かつ急速に変化している、[2]世界における種々のセクターの相互関係が深まると同時に複雑になっており、ただ単に競争を進めればいいものではない-という2つの危機感が提起され、分科会の最後に、それらの問題意識を共有できたとの総括がなされた。

印象深かったのは次の2点。1つは、研究者、資本提供者、弁理士や弁護士、そして経営者の4者(それぞれの頭の漢字をつなぎ合わせて「研・資・弁・経」)の個人次元での協力が本質的に大事であるという指摘である。研究成果事業化局面では産学官の各組織の論理が連携のボトルネックになる場合があり、組織の連携はそれをサポートするだけではないかという考え方が示された。オープンイノベーションが叫ばれて久しいが、組織の論理に振り回されないことの大切さを認識させられた。

2つ目は国際競争力を人々の幸せ指数でとらえること。人々の幸せを念頭に置いたとき、ただ単に国際競争を進めればいいものではなく、そこには協力体制というものを常に認識していくべきではないかというものである。地球的課題への対処、標準化と知財をめぐるトラブルを抱える昨今、基本的視点を投げ掛けてくれたもののように感じた。

(吉国 信雄:金沢大学イノベーション創成センター長)

分科会Ⅳ「科学技術施策の社会還元加速」
-次のステージに最適の目標-
分科会Ⅳ 「科学技術施策の社会還元加速」
○主査
渡邉 浩之: トヨタ自動車(株) 技監
○パネリスト
清水 愼一 (株)ジェイティービー 常務取締役
西山  徹: 味の素(株) 技術特別顧問、日本経済団体連合会産業技術委員会 産学官連携推進部会長
和田 智之: (株)メガオプト 会長
浅野 茂隆: 早稲田大学理工学術院先進理工学部 特任教授
下田 達也: 北陸先端科学技術大学院大学 教授
山内  繁: 早稲田大学人間科学学術院 特任教授
一村 信吾: 産業技術総合研究所 理事

第3期科学技術基本計画では、社会・国民に指示され、成果を還元する科学技術を目指している。さらに、「イノベーション25」により、具体的に、いくつかの社会還元プロジェクトがスタートする(情報通信を利用した道路交通システム、在宅医療・介護、再生医療、言語の壁を乗り越える音声コミュニュケーション)。しかし、パネルの議論では、これまで産学官によるプロジェクトは、必ずしもうまくいっていない。問題点として、研究開発の企画から出口(インベーション)までマネジメントする機能が弱い、産学官の緊密な連携が不十分、目標が不明確、PDCAサイクルも回っていないなどの点が指摘され、新たに法制化された研究開発特区や実証実験の活用が取り上げられた。

パネル討論の結論として、社会還元を加速するため、基礎研究から製品化までの各ステージにおいて[1]次のステージに最適の目標を設定し、[2]権限を与えられた責任あるプロジェクトマネージャーを置き、[3]関係者が密接に情報交換し(under one roof)、[4]連携してPDCAサイクルを向上させ(特区制度の活用を図る、再生医療でまず実施開始)、[5]人材の流動化と育成(開発の全ステージを見渡せる人材の育成)を図るという5点にまとめられた。企業内でもテーマを研究企画からイノベーションに持っていくことは並大抵ではなく、産学官で進めるためには相当な仕組みと努力が必要とのあるパネリストの意見が印象に残った。

(府川 伊三郎:旭化成株式会社 顧問)

第7回産学官連携推進会議
日時:平成20年6月14日(土) (会議の部、展示の部)~
15日(日)(展示の部)
会場:国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池)
主催:内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、日本経済団体連合会、日本学術会議
URL:http://www.congre.co.jp/sangakukan/top.html